再会の遺跡3
遺跡に到着したその翌日、毎朝の日課にしているカムイと呉羽の稽古はなしだった。理由は、ここが遺跡のど真ん中だからである。
『お二人が本気で稽古なんてしたら、遺跡に甚大な被害が出てしまうではないですか!?』
必死な形相でそう話すアストールに説得され、カムイと呉羽は朝稽古を取りやめにしたのである。カムイとしてはここで市街戦の経験値をつもうと思っていたのだが、仕方がない。確かに破壊してしまっては調査ができなくなるのだから。
というか、被害が出そうな派手な技を使うのは、カムイではなく主に呉羽のほうなのだが。一緒くたにされてしまうのはちょっと納得いかない。
『胸に手を当ててもう一度良く考えてみたらどうだ?』
呆れた様子の呉羽の言葉に、アストールのみならずリムまでもが「うんうん」と頷く。それを見てカムイは肩をすくめた。派手な技は使えないものの、派手に暴れている自覚はあったのだ。
さて朝食を食べ終えると、アストールがおもむろにシステムメニューを開いた。メッセージ機能のタグのところには、着信を伝えるアイコンが出ているが、彼はそれを華麗に無視する。彼が開いたのはアイテムリクエストのページだった。
あらかじめどんなアイテムをリクエストするかは決めておいたのだろう。彼は悩む素振りを見せることもなく、上から順に項目を埋めていく。カムイが後ろから覗き込んでみると、アストールがリクエストしているのは次のようなアイテムだった。
アイテム名【簡易瘴気耐性向上薬改】
説明文【服用後十二時間、使用者の瘴気耐性を二倍に引き上げる】
「これは……」
「恥ずかしながら、調査に熱中していると一時間毎に飲むのを忘れてしまいそうで」
アストールは苦笑しながらそう言ったが、実際のところ向上薬の飲み忘れというのはかなり危険であると言わなければならない。張り巡らされた水路とそこを流れる汚染されきった水のせいで、この遺跡の中は全体的に瘴気濃度が高いのだ。
今彼らがいる広場は大丈夫だが、水路の近くなど、向上薬なしでは影響を受けてしまう場所は遺跡の中に多くある。そのような場所に向上薬を飲み忘れた状態で、しかも一人で近づいてしまったら。あるいはそのような場所にいるときに向上薬が切れてしまったら。最悪、死んでしまう事だってありえるだろう。
「そういうことを防ぐためにも、こういうアイテムが必要だろうと思いまして。忘れないにしても、一時間毎に飲むのは面倒ですしね」
そう言ってアストールはリクエストを出した。エラーが出ることもなく、【簡易瘴気耐性向上薬改】は無事にアイテムショップのラインナップに加わった。
「どれどれ……」
カムイは早速、自分のメニュー画面を開いてアイテムショップへのページへと進み、新たに生成されたアイテムを確認する。お値段は22万Pt。【簡易瘴気耐性向上薬】を十二本買うよりも安い。そういう意味ではお得なアイテムと言えるだろう。ただ、その画像を確認したカムイは思わず苦笑を浮かべた。小瓶の中に入っているのは、毒々しいほどに緑色の液体。端的に言って、ものすんごい苦そうである。
「甘口とか、美味しいとか、そんな条件も入れておけばよかったでしょうか……?」
「本当ですよ……」
購入した【簡易瘴気耐性向上薬改】を目の前にかざしながら、アストールが苦笑を浮かべる。その横では、リムが少々恨めしそうな目で手に持つ小瓶を見つめていた。彼女は苦いものが苦手なのだ。このいかにも苦そうなお薬を飲まなければならないのかと思うと、もうはてしなく憂鬱だった。
「うむ、苦い」
そこへ、呉羽が追い討ちをかける。一息で【簡易瘴気耐性向上薬改】を飲み干した彼女は、実にイイ笑顔を浮かべながらそう感想を述べた。「もう一杯」とか言い出しそうである。ちなみに、もう一本飲んだとしても効力が二十四時間続くわけではない。耐性は四倍になるが。
「これは……、本当に苦いですね……」
呉羽に続いて【簡易瘴気耐性向上薬改】を飲んだアストールもまた「苦い」と言って顔をしかめた。彼までそう言うということは、この新たな向上薬が苦いのは本当なのだろう。もしかしたら安くなった値段のその分、苦くなっているのかもしれない。一人飲まなくとも良いカムイは、ぼんやりとそんな事を考えた。
「あの、ど、どれくらい苦いんですか……?」
やめておけばいいのにリムがそんな事を尋ねた。それはある意味、いわゆる「怖いもの見たさ」と同じ心理なのかもしれない。
「そうですね……。青臭い苦さ、と言えばいいのでしょうか……」
「まるでピーマンを濃縮したような、そんな感じだな」
「ああ、いい表現ですね。まさにそんな感じです」
しっくりとくる表現が見つかり、アストールは笑みを浮かべながら何度も頷いた。一方でそれどころではないのがリムだ。
「ピーマン……!」
いよいよもってリムは絶望的な顔をした。この反応からお分かりのように、ピーマンは彼女の天敵である。モンスターがピーマンを投げつけてきたら、きっと泣き出してしまうに違いない。もっとも、そんな平和的なモンスターがいるわけないが。
三人の視線がまだ向上薬を飲んでいないリムに集中する。彼らとしては、べつに急かしているつもりはなかったのだが、リムは少し居心地悪そうに身じろぎして視線を彷徨わせる。そして泳がせたその視線が、不意にカムイのそれとぶつかる。
「あの、カムイさん。良かったら……」
「いや、オレが飲んでもしょうがないから」
おずおずと向上薬を差し出すリムに、カムイは苦笑しながらそう応える。どうしても飲みたくないのなら一時間毎に【簡易瘴気耐性向上薬】を飲むという方法もあるのだが、アストールがそれを提案すると彼女は頑として首を横に振った。
「こ、子ども扱いしないでくださいっ! わ、わたしだってこれくらい……!」
そう言って、リムは自分で自分のはしごを外した。これでもう後には退けない。彼女はまるで親の敵でも見るような目で毒々しい緑色のお薬を睨みつけると、意を決し「えい!」という掛け声と一緒に一息で煽った。
そして、涙目になりながら一言。
「……ニガイ」
そんな彼女に残念なお知らせがある。この苦い経験は一回だけでは済まない。この遺跡で調査を続ける限り、毎日【簡易瘴気耐性向上薬改】を飲む必要があるのだ。どうしてもコレである必要はないのだが、一時間毎に向上薬を飲むのは面倒だし、飲まなければ高い確率で瘴気の影響を受けてしまう。そうなると、効力が十二時間も続く【簡易瘴気耐性向上薬改】を使うのがやはり一番簡単で効果的で、ついでに安上がりなのだ。
「そんな……」
そのことに気付いたリムは、大人の階段を一気に駆け上ったような顔をして黄昏ていたとかいなかったとか。まあ余談である。
さて三人がつつがなく【簡易瘴気耐性向上薬改】を飲み終えたところで、カムイらはいよいよ動き始めることにした。今日から本格的な遺跡の調査が始まるのである。そしてその方針について、アストールはまず端的にこう言った。
「〈大きくて重要そうな建物〉を探しましょう」
大きくて重要であった建物には、それだけ多くの情報が残っていることが期待できる。それでそういう場所を集中的に調査する、というのがアストールの方針だった。
「本当はこの遺跡の地図も作りたいんですけどねぇ……」
少し残念そうにアストールはそう言う。ただそのためには遺跡の中をくまなく歩きまわらなければならない。そして遺跡の中は全体的に瘴気濃度が高い。向上薬を飲んでいるとはいえ、それで「まったく問題なし」と考えるのは楽観的すぎるだろう。なにより地図を作るにはそれ相応の時間がかかる。今はその時間も惜しい、というのが彼の本音のようだった。
「まあ、その〈大きくて重要そうな建物〉を探すためには、結局歩き回らないといけないんですけどね」
アストールはそう言って苦笑する。そんな彼に思案顔をしていた呉羽がこう提案した。
「高いところから探したら、すぐに見つかりませんか?」
それを聞いて、アストールは目から鱗が落ちたような顔をした。少し考えればすぐに思いつきそうなことだが、地図のこともあって「歩き回る」ことに意識が向きすぎていたのだろう。
「そうですね、お願いしてもいいですか?」
「もちろんです」
アストールのお願いに、呉羽は大きく頷いて応えた。ちょうど近くには、周囲の建物と比べて頭一つ高い三階建ての建物がある。「ちょっと待って下さい」と言ったアストールに〈イーグル・アイ〉の魔法をかけてもらってから、呉羽は大きく膝を曲げて大きく跳躍し、そのまま三階建ての建物の屋上に着地した。そしてその高い位置から彼女は辺りを見渡す。
「…………向こうに水路、いやあれは堀かな? 堀に囲まれた場所があります! 堀の内側の建物は、外側よりも大きいです!」
そう言って呉羽が指差したのは、遺跡の南側だった。川の反対側で、カムイらもまだ足を踏み入れていない場所だ。
「どんな様子ですか!?」
下からアストールがそう尋ねる。呉羽はなんとかその様子を伝えようとするが、しかし上手く言葉が出てこない。それを見かねたカムイが、こう声をかけた。
「写真に撮ったらどうだ!?」
カムイがそう言うと、呉羽は「その手があった!」と言わんばかりに顔を輝かせた。ただ、彼女はまだシステムメニューに【カメラ】と【アルバム】の機能を追加していない。それでまずアイテムショップから【システム機能拡張パック1.0(カメラ&アルバム機能)】を購入して、それらの機能を使えるようにした。
そしていざカメラを使うという時になって、呉羽は〈イーグル・アイ〉の効果が切れていることに気付く。この魔法は有効時間が短いのが難点なのだ。【天元樹の杖】を使うようになってから有効時間は多少延びたとアストールは言うが、それでもまだ数分が限界である。
このままでは写真をとっても小さすぎてよく分からない。かといって拡大しすぎると、今度は画像が荒くなる。仕方がないので、呉羽は一度下に降りて〈イーグル・アイ〉をかけなおしてもらってから、もう一度跳躍して建物の屋上に上がった。こういう所で労力を惜しまないのは、彼女の美点の一つだろう。
さて屋上に戻った呉羽は素早くカメラ機能を起動して写真を何枚か撮った。そしてアルバムを開いて写真がちゃんと撮れていることを確認する。それから彼女はまた軽やかに飛び降りて下で待つ三人のところへ戻った。
「これは……、確かに大きな建物ですね……」
呉羽が撮って来た写真を見ながら、アストールは思案気に顎を撫でる。写真に写っている建物は、遺跡だけあって崩れているものが多い。だが、カムイらが今いる場所の周囲にある建物と比べると、確かに大きいのが見て取れる。
さらにこれらの建物がある区画は、呉羽の言ったとおり堀に囲まれている。彼女が〈堀〉と表現したとおり、そこは周りの水路よりもかなり幅が広い。明らかに外敵の侵入を防ぐことを目的としているのが見て取れた。
「ここに行ってみましょう」
アストールの言葉に、カムイらは頷く。広い堀に囲まれた、大きな建物が多くある区画。そこにはこの都市にとって重要な施設や機能が集まっていたと見て間違いない。集中的に調査するのに、これほど適した場所はないだろう。
堀に囲まれた区画を目指して四人は歩き出す。ただ、そこへと続く真っ直ぐな道があるわけではない。途中、何度か呉羽に建物の屋上に上がってもらい、方向を確認しながら彼らは進んだ。
移動中、四人は何度もモンスターと遭遇した。その頻度は遺跡の外と比べてはるかに多い。瘴気濃度が高い影響だ。とはいえ強力なわけではないし、また〈侵攻〉のように無尽蔵に出現するわけでもない。四人は落ち着いて対処していった。
「トールさん、本当にいいんですか?」
「ええ、構いません」
今に始まったことではないが、アストールはこういう時、魔昌石の取り分を受け取ろうとしない。全て他の三人に渡してしまう。例外は〈侵攻〉の時だけだ。浄化の稼ぎに比べればささやかなものだから無視できるのだろうが、それでも四人がパーティーを組んでから数ヶ月が経つ。全てを合計すればかなりのポイントになるだろう。
彼があまりポイントに頓着しない性質なのはこれまでの付き合いで分かっているが、どこかでつり合いを取る必要があるのかもしれない。カムイはそう思った。
(いや、温泉代払わされたからそれでいいのか?)
カムイはそう思いなおす。やっぱり「むっちり」発言の秘匿のために150万Ptはぼったくり過ぎである。「もしかしたらこの先ずっと気兼ねしなくていいように温泉代を負担するように仕向けたのかもしれない」とも思ったが、それはやっぱり好意的解釈が過ぎるだろう。
さて、そうこうしている内に一時間も歩いただろうか。四人は堀のすぐ外側にやって来た。そこで彼らはある問題に出くわす。
「橋がないですね……。写真を見て分かってはいましたけど……」
そう呟くカムイが見渡す範囲に、橋らしきものは一つもない。もしかしたら落ちてしまったのかとも思ったが、それにしては橋脚などの痕跡さえ残っていない。ということは、そもそもここに橋はかかっていなかったのだろう。
橋を架けない、あるいは少なくするというのは、外敵の侵入を防ぐという意味では確かに効果的だろう。しかし橋がなければ、往来に大きな支障が出る。堀の内側にゴンドラの船着場らしきものは見えたが、都市の規模からしてもそれで間に合っていたとはとても思えない。
ここで暮らしていた人たちは、もしかしたら不便な思いをしていたのかもしれない。カムイはそんな事を考えたが、今問題なのは昔ここで暮らしていた人たちのことではなく、彼ら自身のことである。堀の幅は広い。橋がなければ、向こう側まで渡れそうにない。
「少し、堀に沿って歩いてみましょう。ここから見えないだけで、橋があるかもしれません」
アストールの言葉に、カムイら三人は揃って頷く。そして彼らは堀を右手にして左回りで移動する。彼らが橋の痕跡を見つけたのは、堀の周りをちょうど半周した場所だった。
橋そのものは、崩れ落ちてしまっている。いや、もしかしたら意図的に落としたのかもしれない。ともかく、残っているのは橋脚だけだった。四つの橋脚が、およそ5m間隔で一直線に並んでいる。在りし日にはきっと、ここにはアーチを持つ石橋がかかっていたに違いない。
「恐らく、橋が架かっていたのはここだけなんでしょうね」
アストールが苦笑気味に呟いたその言葉に、カムイも黙ったまま頷く。つまり堀の内側は、現在“孤島”状態になっているのだ。そしてそこへ一番渡りやすい場所は、橋脚が残っているこの場所に他ならない。ゴンドラを買って水路を用い、さっき見た船着場を目指すという手もあるが、今後のことを考えれば少々面倒くさい。
「橋脚を足場にすれば、ジャンプして向こう側まで渡れないかな? こう、ポンポンポンッと」
呉羽が真面目な顔をしてそんな事を言う。カムイは呆れ顔になって、「そんな事ができるのはお前だけだ」と反射的に言いそうになったが、しかし「いや待てよ」と思いなおす。橋脚同士の間隔はおよそ5m。それくらいならば、プレイヤーの高い身体能力を駆使すればいけそうな気もする。
加えてカムイにはアブソープションと白夜叉があるから、さらに成功率は高くなるだろう。リムは難しいかもしれないが、なんなら彼女は呉羽が抱きかかえて行けばいい。呉羽ならそれくらいは容易だろう。そうやって彼が真面目に検証し始めた矢先、しかしアストールが申し訳無さそうにこう言った。
「すみません……。私にはちょっと無理そうです……」
彼のその自己申告によってジャンプして渡る案はボツになった。まあ妥当な結果である。
「う~ん……、アイテムショップに【橋】って売ってないかなぁ……?」
そう呟きながらアイテムショップのページをスクロールする呉羽に、カムイは「さすがに橋は売ってないだろ」と言って苦笑する。ただ、彼女がアイテムショップのページを開いたことで、彼の頭に一つのアイディアが浮かんだ。
「コレ、使えませんかね?」
カムイがそう言ってアストールに見せたのは、【足場板】のページだった。工事現場などでよく使われる足場板と同じものだ。スチール製で、長さはおよそ6m。幅はおよそ30cmとあまり広くないが、二本か三本まとめて横に並べれば十分橋の代わりになるだろう。ちなみにお値段一本に付き15,000Pt。地味に高い。
「そうですね……。試しに一本買って見ましょう」
そう言ってアストールは、カムイが見つけたのと同じ【足場板】を早速一本購入する。そしてそれをこちら側と一番手前の橋脚との間に、慎重に渡して架ける。【足場板】は真ん中がたわんでしまうこともなく、真っ直ぐに橋脚との間に架かった。
「ちょっと具合を確かめてきます」
「あ、わたしがやるのでトールさんはここで待っていてください」
足を踏み出したアストールを、呉羽が少し慌てて押し留める。彼の場合、万が一足場板が折れたりしてしまったときに、そこからリカバリーするのが難しい。ほぼ確実に堀に落ちてしまうだろう。そうなると、命の危険さえある。
だが呉羽ならば反射的にジャンプして難を逃れることも、そこから風を操作して無事に着地することもできる。彼女にはその自信があった。ならば自信のある者がやるべきだろう。
呉羽はアストールの代わりに前へ進み出ると、慎重に足場板の上に身体をのせ、そしてゆっくりと具合を確かめながら前に進む。そして真ん中辺りで一度立ち止まり、二回ほど屈伸して足場板に体重をかける。それでも足場板がビクともしないことを確認すると、彼女はまたゆっくりと前に進んで一番手前の橋脚の上に降り立った。
「【足場板】自体は問題ないと思います。ただ幅が狭いので、それがちょっと怖いです。もう一本あるといいと思います」
橋脚の上から、呉羽がそう報告する。それを聞いてアストールは「なるほど」と呟き、【足場板】をもう一枚購入し、それを既存の足場板の隣に並べて橋脚との間に架けた。こうして【足場板】を二本使うと、なるほど安定感が増して橋らしく見える。
その即席の“橋”を渡って、カムイら三人も一番手前の橋脚まで進み呉羽と合流する。そして同じように【足場板】を二枚購入して次の橋脚との間に“橋”を架け、そこを渡ってさらに前へ進む。同じ事をさらに三回繰り返して、四人はようやく堀の内側の区画に到達したのだった。
「あれは……、神殿でしょうか……?」
堀の内側に足を踏み入れてまず目に入ったのは、正面にある大きな建物だった。橋からは少し離れているものの真っ直ぐ進んだ先にその建物の大きな入り口があり、さらに振り返ってみれば、橋の後ろには広いメインストリートが通っている。つまりメインストリートを真っ直ぐ進んだ先にあの建物はあるのだ。その配置からして、何かしらの重要な施設であったことは容易に想像できた。
それで、カムイら四人の足も自然とその建物へ向かう。アストールが「神殿」と表現したとおり、その建物は風化しつつもなお荘厳な雰囲気を保っていた。正門の左右に配置された巨大な石柱が、見る者を圧倒する。さらにその巨大な二つの石柱に支えられた屋根の側面には、見事なレリーフが掘り込まれていた。
「あれは……、翼を持つ人……?」
そのレリーフの中で一際目を引いたのは、一番上に描かれた、翼を持つ二人の乙女が互いに向かい合って跪き祈りを捧げている構図のレリーフだった。翼の質感やその少し寂しげな横顔といい、芸術には疎いカムイでさえ思わず見入ってしまうほどの作品である。
「……こういう存在が、この世界にはいたのかな?」
レリーフに見入るカムイの隣でそう呟いたのは呉羽だ。
「さあどうでしょう。こういう場所に神話や御伽噺をモチーフにしたレリーフが飾られるのは、良くあることですから」
呉羽の呟きに、アストールがそう応えた。それから彼は思い出したように「ああ、でも」と言葉を続ける。
「プレイヤーの中には、こういう翼を持つ種族の方もいるかもしれません。そのうち出会えるかもしれませんよ?」
「それはそれは……。ぜひ毟ってみたい……」
「え゛……!?」
呉羽の発言に、カムイとアストールは思わず揃ってギョッとした顔をした。そんな二人に対し、呉羽はワザとらしく「コホン」と咳払いをして視線を逸らす。
「冗談です」
明らかに冗談では済まない口調だったと思うのだが、カムイとアストールは深く追求しないことにした。その代わりに、わざとらしくなりながらも話題を逸らす。
「さ、さあ、中に入って見ましょう」
アストールに促され、階段を上って四人は“神殿”の入り口を潜る。入り口はアーチ状になっていて、昔はきっと木製の扉が付いていたのだろうが、今はそれも無くなり開け放たれた状態になっていた。
中に入ってまず目に飛び込んできたのは、巨大な壁画だった。入り口から見て正面の壁一面に、壁画が描かれている。目算ではあるが、壁の大きさは高さ5m、幅が20mといったところか。その巨大な壁一面に描かれた絵画は、風化によって剥がれおちたり色あせたりしてしまってはいるものの、それでもまだ十分に見る者を唸らせるだけの迫力がある。
壁画に描かれているのは、この遺跡の在りし日の様子だ。都市の北側の川では帆船が風を受けて進み、都市の中ではゴンドラが水路を行き交っている。交易が盛んだったという推測を裏付けるように、壁画の中では商人たちが軒を連ねて珍品宝物を並べており、かつての熱気と賑わいが伝わってくるようだ。さらに都市の外には麦畑が広がっており、商業だけでなく農業も盛んだったことが窺える。
「外のレリーフもそうでしたが、この壁画も見事なものです」
壁画を見上げながら、アストールがそう感嘆の声を漏らす。その言葉に、カムイも頷いて同意した。もしかしたらこの都市では芸術に力を入れていたのかもしれない。彼はそんなふうに思った。
「翼を持つ人は……、ここにはいない、か……」
壁画を眺めていた呉羽が、少し残念そうにそう言う。彼女の言うとおり、壁画に描かれているのはいわゆる“人間”だけで、ファンタジーな存在は描かれていない。少なくともこの都市ではエルフや獣人などの他種族は一般的でなかったか、あるいは住んでいなかったということなのだろう。
壁画を鑑賞し終えると、四人は“神殿”の探索を再開した。正面入り口を入ってすぐのこの部屋には、左右に一つずつ出入り口がある。カムイらはまず、正面入り口から見て左側の出入り口から部屋の外に出た。
部屋の外に出ると、そこは踊り場のような場所になっていた。縦に長い造りで、十人くらいなら入れるだけの広さがある。出入り口は四人が入ってきたものとは別にさらに二つ。一つは外の石柱が並ぶ回廊へと出るもので、もう一つは壁画の裏側に回りこむものだ。どうやら壁画の奥にはもう一つ部屋があるらしい。四人はそちらの方へ向かった。
壁画の奥にあったのは、広々とした部屋だった。天井は高く、そしてドーム状になっている。光を入れるための窓も多く開いていて、部屋の中は比較的明るい。柱などには装飾も施されていて、もしかしたらここが“本殿”なのかもしれない、とカムイは思った。
その“本殿”には、また三つの出入り口があった。一つはカムイらが入ってきたもので、二つ目はその反対側にある。どうやら左右対称の造りになっているようだ。そして三つ目は部屋の一番奥、壁画によって遮られてはいるものの、正面入り口から見て直線上にあった。アーチ状の出入り口で、房をつけたブドウの木のレリーフが掘り込まれている。どうやら外へ続いているようで、その先は中庭になっているようだった。
二つ目の出入り口の先を調べてみても、恐らくは通ってきた踊り場と同じような構造になっているのだろう。それが容易に想像できたので、四人の足は自然と部屋の奥にある三つ目の出入り口のほうに向かった。そこに施された優美な装飾からしても、どうやらその先にあるモノの方が重要度は高そうである。
その予測は当った。ただし、まったく想像していなかった形で。四人の想像を超えるモノが、そこにはあったのである。
「なんッ…………!?」
カムイも思わず言葉を失う。そしてそれは他の三人も同じだ。アストールは目を丸くして驚愕を顔に貼り付け、呉羽は一瞬だけ自失呆然としてから鋭い目でソレを睨みつけた。リムも目を丸くして口元を両手で覆っている。
ソレは瘴気の塊だった。ただし、モンスターではない。ソフトボールくらいの大きさだろうか、真っ黒い球体が一つ、中庭の真ん中にぽつんと浮かんでいるのである。それもただ浮かんでいるだけではない。少しずつではあるが、周辺の瘴気を吸収して取り込んでいる。いや、実際のところ吸収と言うよりは集束だろう。周辺の瘴気が少しずつ集束して、あの塊ができたのだ。
その瘴気の塊を、カムイらは中庭へと続くアーチ状の出入り口の影から、ほとんど睨みつけるようにして窺う。何かが起こっているわけではない。いや、起こってはいるが、明確な脅威があるわけではない。現状では何も分からないのだ。そして分からないことが今はとても恐ろしい。
(浄化すれば……!)
そのアイディアがカムイの頭に浮かぶ。アレが瘴気である以上、リムの【浄化】の力は有効なはずだ。だが彼がそう考えた矢先、中庭に浮かぶ瘴気の塊に変化が起こった。今まで集束していた瘴気が、今度は猛烈な勢いで噴出し始めたのだ。その瘴気はあっという間に中庭を埋め尽くし、カムイらの視界を真っ黒に染めた。
「……ッ、呉羽!」
反射的にカムイは呉羽の名前を呼んだ。返事はないが、しかし彼女は自分のすべきことをちゃんと分かっていた。【草薙剣/天叢雲剣】の力を使って、中庭に通じる出入り口に結界を張り、濃密な瘴気が室内に入るのを防ぐ。その結界のおかげで、四人は濃密な瘴気をまともに浴びずにすんだ。
結界の外は濃密な瘴気に埋め尽くさて真っ黒になってしまい、まるで視界が利かない。その光景に顔をしかめながら、カムイはアブソープションの出力を上げ、さらに白夜叉のオーラを白い炎のように揺らめかせて臨戦態勢を取る。この先の展開は、おおよそ予想が付く。それは呉羽も同じであったらしく、彼女も愛刀の鯉口を切ってその柄に手を沿え、いつでも飛び出せるように姿勢を低くしていた。
やがて中庭を覆っていた瘴気が晴れる。そこにいたのはある意味で予想通りの存在であり、またある意味ではまったく予想外の存在だった。
「あ、アイツは……!」
カムイが目を見開き、虚ろな顔をしながらそう呟く。そんな彼の耳に、モンスターの雄叫びが響く。
「ギイィィィィィイイイイイ!!」
そうモンスターだ。モンスターが出現したのである。あの展開からこの結果に繋がるのはもはや予定調和的でさえあり、そこに驚きはない。だからカムイが衝撃を受けたのはモンスターが出現したことに対してではなかった。そのモンスターの姿形に、彼は驚いていたのである。
上半身だけの人型で、両腕は地面についている。目はぎょろりと丸くて不吉な赤い光を放っており、顔はのっぺりとしていて特徴がない。その姿は、あるモンスターに酷似していた。〈魔泉〉に現れた、あの巨大なモンスターに。
モンスターというのは基本的に真っ黒で、目だけが赤い。そういう共通の特徴を持っているから、似たようなモンスターというのにはよく遭う。だからこの中庭に現れたモンスターも、言ってしまえばそれと同じパターンだ。
ただカムイはこれまで、あの化け物に似たモンスターと遭遇したことはない。だから今回が初めてではある。そういう意味では、確かに特別ではある。しかし彼にとってあのモンスターは、それ以上の意味で特別だった。
「アイツは……、テッドさんを殺した……!」
あの時の光景が彼の脳裏に甦る。殿で残ったテッドの背中。そして響く轟音。その記憶に引きずられて、あの時の無念と怒りもまた甦ってくる。
「あああああああ!」
後にして思えば、アブソープションの出力を上げていたことで、彼の理性の箍は外れやすくなっていたのだろう。そこへ強い無念と強烈な怒りの記憶を思い出したために、瞬間的に頭に血が上ってしまったのだ。
「カムイ!」
制止する呉羽の声を置き去りにしてカムイは飛び出した。アブソープションはすでに全開だ。カムイが中庭に飛び出すと、しかしまるでそれを見透かしていたかのようにモンスターは大きく両腕を広げていた。
その口の端が小さく歪んだ、ように後ろの三人には見えたという。そしてモンスターは向かってくるカムイ目掛け、広げた両腕を勢いよく振るい、まるで蚊でも叩き潰すかのようにして左右から彼を襲った。
「んぐっ!?」
潰された虫のような声が、カムイの口からもれる。モンスターの手に潰された、わけではない。彼はその手を間一髪で避けていた。いや、より正確に言うのなら、後ろから誰かが襟を掴んで彼を止めたのだ。その時、一瞬首が絞まって潰された虫のような声が出たのである。
カムイは怒りに狂った目をしながら、後ろを振り返る。そこにいたのは呉羽だった。彼女が後ろから襟を掴んで彼を止めてくれたのである。
「放せっ、呉羽! アイツは……!」
頭に血が上ったままのカムイは、助けてくれたことへの礼も言わず、力任せに呉羽を振りほどこうとする。そんな彼に、呉羽は黙って強烈な頭突きをたたきこんだ。それからこう言い聞かせる。
「落ち着け、カムイ! そんな状態で突っ込んだら怪我するぞ!?」
「……結果的に同じ事になっていないか?」
強烈なのを一発貰ったおかげで、カムイはようやく冷静さを取り戻した。ただ目には涙を浮かべ、痛いのか鼻を押さえている。以前は頭突きされても痛くなかったのだが、装備を更新したおかげなのか、頭突きの威力まで上がっていた。
「ふん! その程度で済んでよかったと思うんだな」
カムイの泣き言を冷たく切り捨てつつも、呉羽はどこかホッとした様子でそう言った。実は彼女にとっても、今のタイミングはかなりギリギリだったのだ。一瞬でも躊躇っていたら、きっと間に合わなかったに違いない。
「お二人とも、気をつけて!」
「ギィィィィイイイ!!」
アストールの鋭い警句とモンスターの雄叫びが重なる。カムイと呉羽が反射的にモンスターの方へ視線を向けると、モンスターが腕を振り回して〈ソーン・バインド〉の拘束を引き千切っているところだった。どうやらアストールが動きを封じてくれていたらしいが、モンスターの地力の方が上回ったようである。今までにはなかったことで、やはりこのモンスターは他と比べはるかに強力な存在であるらしい。
モンスターは〈ソーン・バインド〉の拘束を振りほどくと、振り上げた両腕をそのままカムイと呉羽目掛けて突き出した。捕まえるつもりなのか、その掌は大きく開かれている。二人はそれを難なく避けたが、しかし反撃に移ろうとしたその瞬間、モンスターの腕が伸びた。それもまた、〈魔泉〉に現れたあの巨大モンスターと共通する特徴だ。そして伸びた腕はまるで蛇のようにうねりながら、さらにしつこく二人の後を追う。
「ちっ……!」
「くっ……!」
カムイと呉羽は、それぞれ右と左に分かれて伸びたモンスターの腕から逃れる。ただ中庭はそれほど広くない。しかも真ん中に大きなモンスターが陣取っているせいで、さらに狭く思える。そのせいかカムイは思うように動けず、またそもそも回避がまだまだ上手くなかったこともあって、やがて彼はモンスターに捕まってしまった。
ギリリ、とモンスターはカムイを握り締める。片手だが、相当な握力である。カムイは搾られるレモンの気分を味わっていた。
「カムイ!?」
カムイが捕まったのを見て、呉羽が声を上げる。彼女がいるのは、回廊の屋根の上だ。モンスターの腕を避けているうちに、こんなところまで来てしまったのだ。彼女はカムイを助けに行こうとするが、しかしモンスターはもう一本の腕を振り回してそれを邪魔する。結局、彼女はカムイに近づけなかった。
ただ捕まったとはいえ、カムイ自身はそう切羽詰った気分にはなっていなかった。強く握り締められ、そのせいで顔を歪めながらも、しかし彼は挑発するようにこう言った。
「いいのか? オレをこんなに握り締めて」
カムイは今、アブソープションを全開にしている。そして全開にされたアブソープションはモンスターからでさえ、瘴気を奪うことができる。それはこのモンスターも例外ではなかった。
「ギィィィイイ!?」
モンスターが悲鳴を上げる。身体を構成する瘴気をカムイに奪われたのだ。そしてそれを嫌ったモンスターは、無造作に彼を投げ捨てた。
「ぐぅ……、かっ……!?」
投げ捨てられたカムイは、回廊を支える石柱の一本に背中からぶつかった。その強烈な衝撃に、一瞬だけ息が止まる。彼がぶつかった石柱には、まるでハンマーでぶっ叩いたかのように、放射状のヒビが入っていた。白夜叉のオーラがなければ、背骨が折れていたかもしれない。
「カムイ!」
呉羽の焦ったような声が飛ぶ。カムイが顔を上げると、モンスターが口元に炎を蓄えていた。その赤い目が見据えるのは、言うまでもなくカムイだ。
「やば……!」
衝撃が抜け切らない身体を無理やり動かし、カムイは転がるようにしてその場から逃れた。そこへ、モンスターの放った熱線が突き刺さる。熱線は石畳を一瞬で沸騰させ、さらに地面を抉った。熱風がカムイの顔を叩くように吹き抜ける。
「もう好き勝手にはさせません! 〈ソーン・バインド〉!」
中庭に出てきたアストールが、【天元樹の杖】をモンスターに向けて〈ソーン・バインド〉の魔法を唱える。発動は一瞬。魔法によって生み出された茨のツタが、モンスターの身体を雁字搦めに拘束していく。
そのツタはいつもよりはるかに太い。どうやら“タメ”を行ったらしい。そのかいあってか、モンスターは身じろぎするも拘束を振りほどけずにいる。それを呉羽は好機と見た。
「はあああああ!」
呉羽は回廊の屋根から飛び降りてアストールの前に着地すると、そのまま姿勢を低くして勢いよくモンスターとの間合いを詰めていく。そして急制動をかけると、その勢いをのせて一気に愛刀を鞘から走らせる。いわゆる、居合い抜きだ。
「〈風断ち!〉」
鞘から抜き放たれた白刃は、しかしモンスターに届いてはいなかった。だがモンスターは身体を大きく仰け反らせて悲鳴を上げる。巨大な風の刃が、その身体を大きく切り裂いたのである。
その手応えに、呉羽は会心の笑みを浮かべた。しかしその笑みはすぐに引き攣ることになる。モンスターの赤い不吉な目が、いまだ戦意を失うことなく彼女を見据えていたのだ。しかも呉羽の〈風断ち〉はアストールの〈ソーン・バインド〉までも切り捨てていた。つまりモンスターは拘束が解けて自由になっているのだ。
「ギィィィイイ!!」
モンスターが耳障りな怒号を上げ、呉羽目掛けて腕を伸ばす。彼女は反射的にその腕を避けた。避けてから、「しまった」と思って顔を青くする。彼女の後ろにはアストールがいるのだ。
「くっ……!」
アストールは杖を構えた。しかしそれで耐えられるとは思えない。何とか牽制しようと呉羽が無理な姿勢から攻撃を放とうとしたとき、彼の前に小さな人影が飛び出した。リムである。
「ええい!」
勇ましい掛け声と共に、彼女は【浄化】の力を込めた【ミスリルロッド】を両手で大上段から振り下ろす。手応えは、ない。手応えはないが、しかしその効果は絶大だった。
「ギイィィイイ!?」
モンスターが悲鳴を上げる。呉羽が見ると、モンスターは片腕を根元から失っていた。さらにその傷口からは、瘴気が漏れ出している。先ほど彼女が負わせたダメージと合わせて、かなりの重症と言っていい。もはや瀕死であろう。あと一撃で倒せる。そう思い、呉羽は大きく跳躍した。この一撃で今度こそ倒す。そう心に決めて。
跳躍した呉羽は愛刀を振り上げて大上段に構えた。そしてその白刃に風を纏わせ、さらに高速で回転させる。やがて刃は紫電を帯び始めた。
「ギイィィイイ!」
アレはヤバイ、と本能か何かで察したのか、モンスターは耳障りな声を上げながら呉羽目掛けて腕を伸ばそうとする。しかしその腕を誰かが後ろから掴んで止めた。カムイだ。
「いいから喰らっとけ! アレは痛いぞ?」
カムイは手を伸ばし、そこから白夜叉のオーラをロボットアームのように伸ばしてモンスターの腕を掴んでいた。そのせいで身体を覆うオーラは薄くなってしまっていたが、モンスターの腕を掴んだことでそこから瘴気を吸収できるようになり、徐々にオーラの量は回復していく。もしかしたらこのまま腕を掴んでいればそのうちモンスターを倒せたのかもしれないが、しかしそれを待つ必要はなかった。
跳躍した呉羽が、自由落下を始めて降りてくる。そんな彼女を見上げ、モンスターが口元に炎を蓄える。熱線で迎撃するつもりなのだ。しかし、もう遅い。呉羽は下降気流で加速し、そして一気に白刃を振り下ろす。
「雷・鳴・ざぁぁあああん!」
落雷の轟音が響く。紫電を引き連れた彼女は、まさしく稲妻そのものだ。そしてその“稲妻”の直撃を受けたモンスターがただで済むはずがなかった。脳天から真っ二つにされ、さらに雷に身体を焼かれたモンスターは、もはや悲鳴を上げることもできない。身体を硬直させ、そしてそのまま瘴気へと還っていった。




