星屑
その夜…夢を見た。
思い出したい夢。
けれどいつまでも忘れていたい夢。
けれど何度も見たようなそれは私に何かを問いかけるようにしてはどこかへと消えてしまうのだ。
ある夏の日。
日が落ちようと、辺りの夕日が少しずつ建物をオレンジから黒に染め上げる。
夜、密閉された黒の世界。
けれど、そんな空の合間には白い光が縫うようにして散りばめられる。
その光は急かされるようにして黒の空に白い輝きを放って私たちを照らし出した。
それは小さいながらも確かに明るい。
そんな光が周囲を。
世界を照らしているかと思うと、ようやく私は傍に誰かがいることに気付いた。
ふと夏の風が吹く。
冷たくて気持ちのよい風に当たりながら、横を見てみるとやはりそこには少女がいた。
まるで始めからいたとでも言いたげに彼女は空をただ黙って見上げている。
透き通るような美しい青髪。
そして何かを見透かすようにして空を眺める新緑の瞳に、私は不意に恐怖を感じた。
その美しい少女を私は知っている。
けれども初めて目にしたような気もした。
透き通るような美しい青髪。
すると彼女は宝石のように目を輝かせるその美しい瞳を小さな世界に閉じ込めた。
何を見てるの?
私たちの傍にある立派な望遠鏡。
そこの丸い包みをのぞき込む彼女に私は声を掛ける。
「大三角よ、夏の大三角。」
彼女はそう言うと、自分の手元に手繰り寄せるようにして星を覗き込む。
望遠鏡の丸い包み。
その小さなレンズから彼女はどこか違う世界に飛ばされてしまうのではないか。
なぜか不意にそんな気がしてならなかった。
だからそのレンズはきっと、彼女だけしか知らない世界の入り口なのだ。
星と視線を重ねた銀河の世界への入り口。
それはきっと、彼女の日常の終わり。
そして彼女の世界の終着点。
いつまでも何かを期待するように星を覗き込んでいた彼女を見て寂しさを覚えた。
そして、次の瞬間。
やはり彼女は僕の前から姿を消した。
さよならすら言わずに彼女は星の世界から姿を溶かす。
そして私も、その風景から逃げるようにして朝日のまどろみのなかで意識を開く。
彼女は誰だったのだろうか。
私にとっての何だったのだろうか。
今となっては思い出すことすら叶わないふわふわと舞う夢の泡沫。
それは私を追い越して、遠いどこかへ跡形もなく消えていってしまう。
私はいつもそれをすくい上げるようにして、空を見て星を探してしまうのだ。
銀河の世界へ旅立った何かを思い出そうとして。
そして今日も私は夢を見る。
今度も初めて見る夢。
けれど何度も目にした夢を。
夢は私を憂鬱にして…。
そして消えていった。