サイドシート
ねえ、今年も夏がめぐってきたわ。この頃になるといつも必ずおもいだすの、忘れたわずのあなたの横顔を
あの日、一緒に見た海岸の輝きを。一緒に探した番の貝にそれぞれ自分の名前をかいたね。
それは今でも心の引き出しにあるわ。
あなたは今頃誰か別の人を乗せてサイドシートごしに海を見ているのかしら。
そんなときのあなたの横顔が本当に愛おしい
あなたに初めて逢った春の日のことをいまでも思い出すの。なぜあの時から好きにならなかったのか不思議でならないわ。もっと もっと早くあなたのことを知ろうとすればよかった。
霞かかった夜空の下でエンジンをふかしたとき、やっぱりあなたはわらってた。もう直ぐ現れるヴェガとアルタイル。そんな二人に2人をかさねることもなかった。
朝カーテンを開けるよりもはやく思い出したあなたを、冬の日にいつかあなた呼ばれるんじゃないかって、一人で胸をときめかした。
ゲレンデに行ったこと、山小屋で身を寄せ合ったこと、今は過ぎた思い出。でもやっぱりあなたは笑っていたわ。そんなあなたの横顔が今だって愛おしい。
いまでもあなたの車のサイドシートにはあなたの好きな人が乗っているのかしら もう そこはわたしの居場所ではないけれど わたしの大切な場所だった。
いつかまた だれかを好きになって、その人のサイドシートに座られるその日まで
片番の貝殻は捨てられない