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まろまろ 3/4

「みゅごおおおおおお」


 変な音がした。時空を移動する際の効果音かと思ったら違うようだ。それは隊長の声だった。隊長は「窓」の内側の妙なでっぱりに引っ掛かっていて、体液を放射状にまき散らしながらくるくるくるくるくると回転していた。眼窩に突き刺さったでっぱりを軸に、横回転していた。僕は見なかったことに決め、感覚を「窓」に委ねる。


「窓」に飛び込んだ直後、上下が真逆になるような感覚に襲われた。落ちて行くと言うよりは浮上していく状態に近かった。下方にあったはずの「窓」がいつのまにか頭の上に開いていて、僕はそこからぬぽっと飛び出した。勢い余って何か壁のようなものに衝突し、視界に火花が飛んだ。


「向こう」の世界の第一印象は、「明るい」というものだった。


 僕はゆっくりと起き上った。あたりを見回すとそこに「窓」はなかった。僕を取り囲んでいたのは生活感のある狭い部屋で、しかし、天井の方向に向かって異様に引き延ばされたような寸法をしていた。


 こちらの世界にも僕らのそれと近い「生活」がある。そこに安心すると同時に、決定的な違いも認めざるを得ない。この部屋の家具や小物その他もろもろから判断するに、こちらの生物は巨大だ。僕らの背丈の三倍はあるだろうか。この情報を持ちかえるだけで、あとは何も見ず、知らず、誰にも出会わずに元の世界へ戻りたい。僕はそう願った。


 高鳴る鼓動を落ちつけようと深呼吸を繰り返していると、背後から隊長の声が聞こえた。


「みゅきょおおおおおおおおおお」


 声は聞こえたが姿は見えなかった。あるいは僕の幻聴だったのかもしれない。隊長の行く末も、報告に含めよう。僕はなんだか気味が悪くなって、早くこの場を離れたいと思った。


 部屋を移動して、出入り口らしいものを発見する。思い切り手を伸ばして、ドアノブのようなものを掴む。それはぐるりと回り、何かしら機構が動いて、ドアが開いた。


 目の前に、巨大な化け物が立っていた。



 化け物は僕と数秒間見つめ合ったまま動かなかった。こちら同様、相手も驚いているようだった。化け物の体からは細長い触手が四本生えていて、胴体からぶらりと垂れ下がっている。ぎょろりと剥きだした目玉が僕を捉え、口はだらりと開き、その内側からはおぞましい赤色の内部が見え隠れしていた。その中に何か生物を飼っているようにも見えた。


 危険を感じた僕がドアを閉めようとすると、化け物はあたりをつんざくけたたましい鳴き声を出した。ドアは閉まった。しかし、その数秒後、凄まじい勢いで再び開け放たれ、内側から開かないよう引っ張っていた僕は部屋の奥へと弾き飛ばされた。


 どうやらいまの絶叫は仲間を集める信号か何からしい。


 ドアを開けた化け物はさっきの化け物とは別の個体だった。さらに巨大で、彼らの体つきの違いから先に現れたほうがメスであると考えられた。


 彼は部屋の奥に転がった僕に近寄ってきて、何やらわけのわからない奇声をあげた。触手のさきに、鋭利な武器を繋げている。彼の目を見て僕は殺意を感じとった。


 攻撃。僕はひらりと身をかわし前方に転がり出て受け身を取る。しまった。こんどはメスの足もとに来てしまった。メスの目に殺意はなく、怯えが見てとれる。それを活かして人質交渉といけたら良いものの、明らかに僕よりメスのほうが強い。


 こうなれば、和平の道に賭けるしかない。


「やめてください。僕はあなた方に危害を及ぼしません」


 化け物たちの目つきが変わった。もしかしたら、話のわかる生物かもしれない。


「驚かせてすみません。僕は『窓』を通ってこちら側に来ました。あなた方の世界を知りたいのです」


 ちゃんと聞いている。ほら、この調子。


「僕に敵意のないことは理解していただけま、ボッ」

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