まろまろ 2/4
「何を言ってる。ライトを持っているのは君のはずだ」
そうだった。僕は慌てて自分の荷物をあさる。うかつにもリュックを地面に下ろしてしまい、底のほうがぐずぐずと腐りはじめた。
「いけない」
慌てて持ち上げたが、リュックの中身は半分以上毒に浸食されていた。幸いなことに、上のほうに入れてあったライトはかろうじて破壊を免れていた。
「明かり、つけますね」
薄暗いトンネル内に、弱々しく明かりが灯った。
ざわざわざわ。光に反応して、ヒカリゴケが踊った。熱された鰹節のようにからだをうねらせ、天井や壁から僕らのほうへ落ちてきた。
「うわあ」
ヒカリゴケが顔面にでも付着したのか、隊長がビクンと飛び跳ねて「窓」へ落ちた。
落下したまま、音はしない。
なんとかヒカリゴケをかいくぐった僕が「窓」の先を照らすと、気味の悪い虹色のうねりがざわざわと隊長を取り囲んでいるのが見えた。遠近感がよくわからないが、隊長はすぐ手前にいるようでいて、視覚以外では一切存在を感じ取ることができない。
周りのヒカリゴケがぶくぶくと泡を出し始めたので、僕はライトを消した。
隊長はどうなったんだろう。「窓」の先で生きていても、毒のためにすぐに死んでしまっただろうか。怖ろしい場所だ。怖ろしい状況だ。
だが、引き返すという選択肢はない。僕は冒険者でも研究者でもなく、ただの労働者で、しかし、法外な成功報酬を約束されている。
なんでもいいから持ち帰れ。そう言われて放り込まれた最底辺の労働者だ。この時点でも、この体験を持ち帰れば社会に利益をもたらすことができるだろう。しかし引き返そうにも、僕だけでは途中で死ぬのがオチだ。ならば万に一つの可能性にかけて、「向こう」に渡り、「向こう」の「窓」からこちらへ戻る道を探るのが賢明だろう。
なんとも雑な生き様だったな。
腐臭のする穴の底へ、僕は、倒れ込むように身を投げた。