第一話・4月7日
初めての投稿です。いろいろ言いたいこと沢山あるんですが、まあ皆さん僕がどんな気持ちで書いたとか、こんなところに苦労したとか、そんなことに興味はないでしょうし、ここではなく活動報告の方に書かせていただきます。では本編へどうぞ。
序章、あるいは優雅な低空飛行
第一話・4月7日
「このクラスを受け持つことになった、早井流子です!」
思えばどうして自己紹介などという非生産的な行為が日常的におこなわれているのだろうか。聞けば人は、相手のことを知らなければ人間関係は始まらない、だから互いに自己紹介をするーー自分の紹介をし、相手の自己PRを聞くのだという。
「まだ新米なので不安もあります。至らぬところもあると思いますがーー」
しかしそれならばそれを口頭で時間をかけて説明するより、ジャパニーズ・サラリーマンよろしく各自所属と出身、その他必要事項をまとめた名刺を持ち寄り交換すればいい。今まで入学やら転校やらクラス替えやらでいろんな奴らの自己紹介を聞いてきたが、どれもこれも俺の役に立つ情報なんて一つもなかった。はっきり言って時間の無駄だあれは。これから結婚を前提に家族ぐるみのおつきあいをさせていただく恋人ならばいざ知らず、せいぜい1年間、長くて3〜6年間程度を同じ教室で過ごすというだけの相手の食べ物の好みなど知ったところでどうしろというのか。おごれとでもいうのか。耳をすり減らし老化を促進するだけの話を3分間も聞いてやったのだ、こちらが金をもらってもいい位だというのに。やつらはあろうことか初対面の相手に食事を要求するのである。いや。それならまだましなくらいだ。ときにやつらは、服やらゲームやらCDやらといった明らかに学生の財布には負担が大きすぎるような代物まで要求し始めるのだ。流石に横暴が過ぎるというもの。聞いていて腹が立ってくる。また、みんながみんな、判をおしたように同じようなことしか言わないことも憤りを加速させているんだ。そのくせほとんどが最後にこう付け加えるのだ、「変わり者ってよく言われるけど、こんな私をよろしくね!」と。
「じゃあ、みんなの自己紹介を聞かせて欲しいな。じゃあ番号順で行きましょうか。1番、藍野くんーー」
そして極めつけは、10人に1人はいるコミュ障だ。やつらは人の2倍も3倍も時間を食って喋るくせに、内容は並の2分の1以下という有様だ。そんなふうに学年の始まりでコケたらあとはもうお察し。クラスに馴染むどころかふくれたカービィのごとく浮きに浮きまくり、なのに本人の社会的地位は底辺を這っているという見るも無残なことになってしまう。
「はーい、あっりがとう藍野くん。じゃあつーぎーは・・・2番の子はだれかな〜?」
その点名刺交換方式ならまず時間の無駄が少ない。それぞれの個性も色濃く出るし、口下手な人間でも、自身についてしっかり相手に伝えられる。なおかつ顔写真でも添付しておけば、誰がどんな人なのか、より早く覚えられる手助けになるというものだ。それに男子諸君にとっては可愛いあの子のプロマイドを手に入れるチャンスにもなりうる。いいことづくめではないか。だいたい、よほど目立ってなければ、1回の紹介で全員の名前など覚えられるわけがない。好みの⚪︎⚪︎ともなればことさらだ。それなら最初から誰も覚えてくれやしない説明などしないで、名刺方式を採用していればいい。というかむしろこんな意味のないことが現代まで続いていること自体何かがまちがっているのだーー
「2番、おや、これはなんて読むのかしら?ごめんね2番さん、起立して名前を教えてくれるかな?・・・おーい、2番さん?」
と。どうやらそろそろ終わりの時間のようだ。
一般人にとってそれは、希望溢れる始まりを彩る瞬間。
しかし俺たちコミュ障にとってそれは・・・
「終わりの瞬間だ・・・」
「ど、どうしたの急に?今フィナーレって聞こえたけど・・・気のせい?」
あっ・・・
つい口をついた独り言。それが担任教師の一言で教室全体へと拡散し、嘲笑にかわってゆく・・・
しかしそんなのは些細なこと、それこそだれも覚えちゃくれないことだ。気にするな俺。
「えーっときみは・・・えっと、藍野くんの後ろってことは君が2番か。ミ・・・ヤ・・・ん?何て読むのかな?ミダニくんかな?じゃ、ミダニくんよろしく」
さて。ここからが本当の”終わり”の始まり・・・来てしまったようだ。悪魔の時間、公開死刑執行の刻が。しかしここを乗り越えなくして未来なし!俺は諦めない。コミュ障を克服だ!
では読者諸君、短い間だったが、さらばだ。逝ってくるーー
「ぁっ、ぇっとぁのぉ・・・んっ、んんっちがくてその・・・名前・・・ぃ、ィャ・・・ィャダニです・・・」
だめだ口の中が乾燥しててしゃべれなーー
「ん?ミダニくん、なんて?嫌?自己紹介がかい?ああ、それなら無理しなくていいよ。うふふ、恥ずかしがり屋さんなのかな?えっとじゃあつーぎーはっと・・・じゃあ上くん先やって。ミダニくんは、あとから心の準備ができたら言えばいいから」
まずい!それはハードルが無駄に上がって飛べなくなるパターンだ!なんとか回避するんだ!
「ぁあの!あ!あの・・・えっいいです今言います!んっミダニじゃなくてその、ええとあのイヤダニです、んっ弥谷 孝雄です、あ、あのへへへ、とりあえずよろしく・・・へ、へへ、へへへ・・・」
・・・
「はい、弥谷くんというそうです。なんだかとってもシャイな感じなのかな?ふふ、じゃあ次、上くんどうぞ〜」
「上 良太です、好きな食べ物は・・・」
「へ、っへへ・・・」
こうして俺、弥谷孝雄はこの1年間ーへたすりゃこれからの高校生活3年間、カービィのように優雅な低空飛行を続けることがほぼ確定してしまったのだった・・・
「終わったな・・・」
ある意味、予定通りかもね。これ。
先ほどの嘲笑の余韻も収まらないままホームルームは進んでいく・・・俺は置き去りのままに。
いかがでしたか?まあ、まだ第1話ですし、今回は弥谷くんが自己紹介をしたくないがための現実逃避だけの場面でしたから、いかがもタコもないとは思いますが・・・
レビューは正直にで結構です。酷評も、まあ一応覚悟しているので構いませんが・・・お手柔らかに。
ではでは次回に続きます。失踪()しないように頑張ります・・・!