日常
ここで、家政婦として働き始めて二週間が過ぎた。
「よし。今日もがんばるぞ。」
私は自分に気合いを入れると一日の作業を始めた。
まず、昨日の夜に洗って部屋干ししていた洗濯物のところに来ていた。
昨夜、除湿器を利用して乾かしていたのでなかなかいい感じに乾いているみたいだった。
外を見ると鳥が楽しそうに歌いながら飛んでいた。
(天気も良さそうだし、洗濯物は外に干さないとね。)
そう思い洗濯物を外に干し直していた。
燃料が魔力に変わっているだけで、私の世界と同じような電化製品が存在しており、この世界での生活は、元々の生活とあまり変わっていない。
確かに魔法は存在していて、呪文を唱えて魔法を発動させれば目の前の洗濯物は一瞬で乾くはずである。
でも、実際の生活ではあまり使わない。
理由は以前、彼に尋ねると教えてくれた。
なんでも、この世界の生き物は皆、魔力を持っているみたいで、それを放出することにより魔法を発動させているらしい。
ただし、魔力をある一定量以上消費しすぎると体調不良を起こしてしまうようである。
しかも、その症状はどれも重たいものが多い。
さらに、治っても後遺症が残ることもあり最悪の場合、死んでしまうこともあるらしい。
もちろん、この世界は魔力に満ちあふれているので時間と共に使用した魔力はゆっくりと補充される。
ただし、どのくらい補充できているのかはっきり調べる方法が無く、便利だからと魔力を使いすぎた結果大変な目に遭うことが多いため、あまり自らの魔力を削って魔法は使わないらしい。
それから、命の危険を冒してまで魔法を自ら使用するよりも、世界にたくさん存在している魔力を集めて燃料にして機械を動かす方が安全で効率がいいということも理由の一つみたいだ。
ちなみに人が持っている魔力はみんなほとんど同じくらいらしいが、同じ魔法でも人によって消費する魔力に差があるため、人によって魔法を使える回数に差が生まれるらしい。
でも、私は異世界から来たせいか魔法を全く使うことができないので、この話はあまり関係が無いんだけど・・・。
「よし。」
洗濯物を干し終えた私は満足げに周りを見渡した。
緩やかな風が吹き渡り、洗濯物が元気になびいていた。
次に私は朝食とお弁当を準備するために台所に向かった。
私が朝食の準備を終え、お弁当の盛りつけていると、彼が台所に入ってきた。
「おはようございます。レオさん。」
私は作業の手を止めて彼に挨拶をした。
「うん、おはよう。今日も早いね。」
彼はそう言いながら、お弁当の中身を見ていた。
お弁当の中井を確認した彼は、「もしかして、今日のお昼は、ハンバーグかい。」と尋ねてきた。
「はい、今日のお昼は、ハンバーグと卵焼きとポテトサラダです。」
「そっか、じゃあお昼が楽しみだな。」
私が答えると彼はとても嬉しそうにそう言っていた。
どうも、彼はハンバーグやカレーライスというような、子供っぽい物が好きなようだった。
ちなみに苦手な食べ物は特にないようで、料理を作ると「おいしい」と言って全部食べてくれていた。
「ごちそうさま、今日もたぶん昨日と同じくらいに帰ってくると思う。それじゃあ行ってきます。」
朝食を食べ終え、彼は私にそう言うと出かけていった。
「いってらっしゃい。気をつけてくださいね。」
私はそう言って彼を見送った。
その後食器を片付けて、自分の部屋でノートに今日の朝ご飯とお昼ご飯の献立を書いた。
彼の食生活が乱れない様にするための工夫だった。
毎回、料理をおいしいと言ってくれる彼のためにがんばりたいと思う私は少し単純すぎるだろうか。
少し休憩した後、私はリリーさんのお店に食材を買いに出かけた。
「こんにちは。」
私はお店に入るとリリーさんにあいさつをした。
「あら、真理さんいらっしゃい、毎日大変ね。」
そう言って、リリーさんは私を出迎えてくれた。
「いえ、ただ家事をしているだけなので大したことでは無いですよ。」
「まぁ、そんなに謙遜しなくてもいいのに。真理さんは本当に素敵な人だと思うわ。」
そう言ってリリーさんは顔をしわしわにして笑っていた。
別に謙遜しているつもりは無いのだけれど、リリーさんが嬉しそうなので気にしないでおくことにした。
「きっとあの子ほぼ毎日あの家に寄っているのね。いつも真理さん食材をたくさん買ってくれてるもの。」
私はリリーさんの言葉に少し違和感を覚えた。
今の言い方だと彼は昔は家に帰る習慣が無い人の様に聞こえた。
それに、寄っているってどういう意味だろう。
でも、そういえば、あそこは自分の祖父母の家って言ってた気もする。
それなら、自宅が別にあるのだろうか。
彼はあまり自分のことを話してくれないから、謎の部分が多い。
(うーん、どうなんだろう。)
「あら、もしかして違ったかしら。」
私が考えこんでいると、リリーさんが心配そうに聞いてきた。
「いえ、そんなこと無いです。彼は毎日帰ってきています。いつも、料理がおいしいって言ってくれていますし。」と私は慌てて答えた。
「そう、それならよかったわ。これからも、あの子を宜しくね。」と安心した様子で言っていた。
その後私は、買い物を済ませるとお店を後にした。
「真理さん。あの子のこと支えてあげてね。平気な振りをして、きっとまだ苦しんでると思うから。」
独り言のように小さく呟かれた言葉は、誰にも聞こえないまま静かに消えていった。






