会話
「ところでさ、真理はどこから来たんだい。この辺ではあまり見かけないよね。」
朝食を終え、後片付けをしていると、不意に彼が聞いてきた。
「東京から来ました。」
「えーと、トウキョーっていう国から来たのかい。」
「いいえ、東京は地名です。国の名前は日本です。」
「ニホン・・・。トウキョー・・・。」
彼は少しうつむきながらそう呟いた。
「たぶんですけれど、どちらもこの世界には存在していないと思います。私、こことは違う世界から来ていると思うので。」
「えーと、それってどういうこと。」
彼は顔を上げると、いまいちよく分からないといった様子で首を少し傾けていた。
「私の暮らしていた日本には魔法はおとぎ話の中で以外無かったんです。でも、レオさんは昨日、私の服を魔法で乾かしたと言ってました。だから、私の住んでいた世界とは違うのでは無いかなって思ったんです。どうやって私がこの世界に来たのか、どうしてこの世界の言葉を話せるのか、分からないことはたくさんあります。正直信じにくい話だと思います。でも、嘘では無いです。」
この世界には魔法が存在している。
この時点で私のいた世界とは全く異なる世界というのはなんと無く分かっていた。
自分の出身を正直に言えば彼を混乱させるのは予想できたが、彼に嘘をつくのはなぜかためらわれた.
だから信じてくれるかは分からなかったが、正直に話してしまっていた。
「ふーんなるほどね。確かに不思議な話だ。でも、それなら納得できるかもね。」
「それは、どういう意味ですか。」
私は彼の意外な反応に少し驚いていた。
「いや、たいしたことじゃ無いんだ。昨日真理は、雨で自分が濡れてなかったか聞いてたけどね、ここ2・3日雨は降ってなかったんだ。それに、真理が倒れていたのはこの家の前だったんだ。この辺であんなにずぶ濡れになるのはたぶん無理だし、なんか変だとは思ってたんだよね。」
彼はそう答えた。
しかし私は彼の答えを聞き、ふと疑問を感じた。
なぜ、そんな怪しい人物を助けようと思ったんだろうか。
「その話を聞いていると、私相当怪しくないですか。それなのに、どうして私を助けてくれたんですか。」
私は疑問に思ったことを彼に聞いてみた。
「理由は特に無いよ。ただ、なんとなく助けないといけない気がしただけだよ。それに、話してて思ったけど、真理はそんな悪い人にも見えないし、嘘をついてるようにも見えない、だから、真理が異世界から来たっていうの俺は信じるよ。きっと、これから色々大変だと思うけど何かあったら言ってね。できることなら力になるから。」
そう答えながら彼は優しくほほえんでいた。
そんな彼の姿を見ていると、また昨日と同じように心がとても暖かくなったような気がした。
しかし、今度は、それと同時に何か黒いモヤモヤとした感情もわき上がってきた。
私の様な、見ず知らずの得体の知れない人間にここまで優しくできるものだろうか。
先ほどまでは単純に優しい人だからそのようにできるのだと思っていた。
けれど、ただ単純に優しいだけの人なんて本当にいるだろうか。
少なくとも、私はそんな人は知らない。
彼には何か裏がある、そのように思えてきた。
こんな風にしか考えられない自分が嫌だった。
でも、変な期待をして、傷つくよりはきっとましだと思う。
彼に返せるだけ恩を返したら彼の元からはなれよう、そして私は・・・。
彼とはその後しばらく会話を続けていた。
会話と言うよりも、この世界のことについて私が聞いていることがほとんどだった。
彼は、私の質問にとても丁寧に答えてくれていた。
でも、彼自身のことを聞くと、何かとごまかされることが多いように感じられた。
あまり、自分のことを聞かれたくない様にみえた。
そのせいか、彼が私のことについて聞くこともほとんどなかった。
私はあまり、自分の過去についてあまり話したくなかったので、助かっていた。
彼と会話をはじめてから2時間が過ぎようとしていた。
「そろそろ、出かけようか。」
彼はちらっと時計を見ると突然私にそう言ってきた。
読んでくれている皆さん、ありがとうございます。
あまり上手には書けませんが、これからも読んでくれると嬉しいです。