出会い
(ここはどこ。)
私は自分の置かれている状況が分からず戸惑っていた。
自殺しようとしてビルの屋上から飛び降りたところまではしっかりと記憶している。
しかし、目を閉じて飛び降りた直後に何も感じなくなり意識を失ってしまいその後のことはよく分からない。
気がついたら、見知らぬベッドの上で横になっていた。
はじめは病院かと思ったが、そんな雰囲気ではなく、ただの家のようだった。
さらに不思議なことに、あれだけ雨に濡れていた服や髪がきちんと乾いていた。
なんだかよく分からず戸惑っていると、ゆっくり、ドアが開いて銀髪の男が入ってきた。
彼は私を見ると少しほっとしたような顔をし、「気分はどう、君が倒れているのを見つけたときは、とても驚いたよ。とりあえず家まで運んできたけれど無事で本当に良かった。」と言って優しく笑った。
どうやらどこかに倒れていた私をここまで運んでくれたみたいだった。
「あの、助けていただいたみたいでありがとうございました。おかげでとても気分が良いです。」
放っておいてくれれば良かったのにと思いつつも一応お礼は言うことにした。
こんな風に思いながらも御礼を言う自分に、少し嫌悪感を覚えた。
「ふふ、どうってこと無いから気にしなくていいよ。そうだ、自己紹介が遅れちゃったね。俺はレオ・クラウンていうんだ。みんなにはレオって呼ばれてる。君の名前を聞かせてもらってもいいかな。」
「あ・・・、はい、私の名前は山口真理です。あっ、えーと、姓が山口で、名前が真理です。」
「ふーん、なんだか変わった名前なんだね。」
「そうでしょうか。」
ここは日本では無い。
自己紹介の際に私はそう感じていた。
でも、だったらここはどこなのか、なぜ言葉が分かるのか、どうやってここにやってきたのだろうか、分からないことだらけだ。
そんな私の様子を見ていた彼は、少し慌てた様子で話し始めた。
「ああ、気を悪くさせてしまったかな。ごめんよ。別に君の名前を馬鹿にしたわけでは無いんだ。ただ、このあたりでは少し珍しい名前だなと思っただけなんだ。お詫びと言ったら何だけど、今日はこの部屋を自由に使ってくれてかまわないよ。とりあえず今日はもう遅いしゆっくり休むといいよまた、明日ゆっくり話をさせてほしいな。それじゃあお休み、何かあったら呼んで、俺、隣の部屋にいるから。」
それだけ言うとばつがわるそうに、彼は部屋から出て行こうとした。
「待ってください。」
私のその声に、彼は立ち止まりゆっくりと振り返った。
「あの、私の服結構雨で濡れてませんでしたか。」
「うん、結構濡れてたね。」
「じゃあ、どうして今はこんなにきれいに乾いているんですか。」
彼は一瞬驚いたような顔をしたが、「それは、ドライの魔法を使ったからだよ。」言いながら先ほどと同じような優しい笑顔になった。
それから、彼は小さくお休みと呟くと部屋から出て行った。
(この世界には魔法が存在してるんだ。)
魔法の存在を知り私は驚いていた。
しかしそれよりも、私は彼の言った言葉に驚いていた。
てっきりもう追い出されるとばかり思っていた。
いくら倒れていたとはいえ、どこの誰かも分からない怪しい人物なのだから、元気になったら追い出されて当然なはずなのに、そもそも、助ける義理も無いはずなのに、どうして私を助けようと思ったんだろう。
これが人の優しさなんだろうか。
私にはよく分からなかった。
ただ分かることは、彼はとても優しいということ。
そして、その彼の優しさにふれたせいか、私の心には小さな暖かい光が宿った様だった。
そんなことなどを考えている内に気がづけば私は眠っていた。