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第0話/一二三

 この物語はフィクションであり、実在する人物・団体とは一切関係――


    ▼△


「『ありません』っと。…………ン、こんなモンか」

 やっとのことで一段落した執筆作業。

 身体を反らせて伸びをするとともに、チラと視線を壁に掛けられた時計に向ける。

 ――1時間だ。秒に換算すると3600秒間、俺は言葉を紡いでは解す作業を繰り返していたことになるのか…………。

 自らの熱の入りっぷりに呆れつつ、残っていたアイスココア(元ホットココア)を一口。


 俺が通うは私立佐久良さくら学園。立地も偏差値も特徴の少ない、一般的な中高一貫校だ。

 その敷地内でも秘境に等しい第3カウンセリングルームに、いま俺はいる。

『第3カウンセリングルーム』というのも名前だけで、少し前までは倉庫として活躍していたこの部屋。

 ところが、なんということでしょう。匠の手によって整備された部屋は以下略。

 ともあれ、この静かな部屋でのんびりと過ごしたり、執筆したり、あーんなことやこーんなことをしたりするのが俺の日課になっている。

 え? 「もっと具体的に」?

 …………。

 ………………フッ、夕日が眩しいぜ。


 とまあ、これだけ聞くと『デキる作家』と考えられないこともない。そうだろ? そうじゃなくてもそうなんだ。

 だが、実際は『長時間に渡ってケータイとにらめっこしてる冴えない男子高校生』でしかない。そこらへんについては追い追い話すとしよう。

 つまるところ、俺ってのは――


「――残念ね」


「ああ、残念なヤツなんだよな」

 確認のため言っておくが、いまのはきっと天の声的なものだ。

 もうひとりのボクとかエア友達とか、俺はそっちのほうの『残念』じゃない、決して。

 そういや自己紹介がまだだったな。んじゃこの場を借りるか。


 ――『れい』。


 ほらそこ、会釈すな。

 コレ号令とかじゃないから。俺のあだ名だから。みんなそう呼ぶんだってマジで。

 オホン。名前のことはさておき、俺のスリーサイズはというとだな……。

「ちょ、ちょっと! ちょっとちょっとちょっと!!」

「わぁったわぁった。あとでひいにも俺のスリーサイズ教えてやるから」

「いやいやいや。あんたなに言ってんの? そんなことよりあたしが言いたいのは」

「あーはいはい、ワロスワロス」

「れい、あんた人の話聞く気ないでしょ!? さっきだってあたしの第一声を天の声的なものとしてスルーしたわよね!?」

「うるせえな。お前は知らないと思うけどな、世の中には『ガムテープ』という便利アイテムがあってだな」

「あたしは子供か!?」

「それを使えば人の一人や二人黙らせるくらいなんてことないんだぞ」

「あんたは鬼畜よ!!」

「なんだ。構ってほしいのか?」

「ば、ばばばばば、ばばばぁ!?」

「俺は男だ。どちらかと言えばじじぃだ」

 顔、真っ赤。俺じゃなくてコイツが。

 本当に一瞬で茹で上がるんだよな。血行がいいのかね。

 やっぱコイツも紹介しなきゃダメ……ですよね。そうですよね。

 ――ハイ、こちらが今回紹介いたします、『瞬間湯沸かし器』です。これが2つセットでお値段なんとハチキュッパ――あ、これもダメ?

 では改めまして。

 えー……。このハイテンションでときたまヘンタイちっくになる彼女(略して『ハイ・タイ』。目指せ流行語大賞!)こそ他でもない、我が校が誇る暴走少女『ひ――


「にぃに、会いたかったぁ」


「おう妹よ、俺も会いたかった!」

「今日ね今日ね、アニメ○トでお買い物なのぉ。にぃにも一緒に来てくれるぅ?」

「HA☆HA☆HA! モチロンさ」

 やっべ。今日もみいたんマジ天使!

 ……と、俺の心のシャウトからもわかるとおり、このおっとりとした口調のかわゆい娘が天使――もとい『みい』その人だ。

 出来ることならいまからでも彼女の魅力を余すところなく語ってやりたいのだが、文字だけではその全てを伝えるにはいろいろと欠けているので割愛。

 ……何? 「他にも知りたいことがある」?

 フフフ……。そんな諸君にすばらしい言葉を授けよう。

 ――詳しくはWEBで。

 それよりも、さっきからこう……モヤモヤする。まるで、誰かの紹介を途中でほっぽってきたかのような…………。


「あああの、お、おじゃまして、ます」


「ぬヲおぉ俺のうしろに立つなあ!」

「ひうぅぅ! ごごごごめんなさあい……」

「へ!? あ、いや違うんだ! これは反射的にというかなんというかオフのふうとは知らなかっただけなんだだから泣かないで!」

「すん……ぐすん…………」

 あー、泣かせちゃった……。

 …………。

 ……………………。

 ……………………………………そう簡単に悟りって開けないよね、うん。つか悟ってどうするよ、俺。

 とりあえず言い訳をさせてもらうとだね…………俺、コイツ――『ふう』苦手なんだもん!

 始終オドオドしてるし、いまにも泣き出しそうな声音で話すし、かと思ったら暴力に訴えるし!

 この前なんて、出会い頭に背後からCQCかけられて「動くな、吐け」だぜ。さすがの俺でもリバースしそうになったね。……いや、あのときはオンのふうだったか。

 閑話休題。

 とにかく眼前の問題を処理しよう。

 ……それにしたってこのままじゃ埒が明かない。となれば…………。

「ひい、出番だぁ――と叫ぼうと思ったんですが、何を探しておいでまするか……?」

 なんとも日本人として心配されそうな日本語になったが、俺のテンパり具合が伝われば良し。

「何って……生命の神秘?」

 なに言っちゃってんのこのハイ・タイ?

「もっといえばサングラスよ、サングラス」

 なにやっちゃってんのこのハイ・タイ!?

「いますぐそのバッグから手を離して降伏しろ!」

「あ、見っけ」

「ちょっとひいさんそれだけは勘弁!」

 我ながら見事な土下座。(行動が)速い、軽い、キレイ。キャーれいクンステキー。

「むっふっふ。あたしを無視した挙げ句、放置プレイを強いた罰よ」

 誰だよコイツにそんな扱いしたヤツ。

「あ。俺か」

「ヘイみい、パース」

 おぉっと。ひい選手からグラサンが放たれたーッ。

「パぁス。はい、ふうちゃん」

 そしてみい選手を経由してふう選手へ。良いパス回しです。

「ふぇ……。あ、ありがとう」

「…………おや?」

 実況という名の現実逃避を敢行しているうちに、なにやら不穏な空気が――って!?

「待って待つんだ待とうじゃないか!」

 ――こんなときだが、説明しようッ! ふうはサングラスをかけると人が変わっちゃう二重人格ちゃんなのだッ!

 ちなみに、俺が『オン』と呼んでるほうがグラサンかけた状態ね。

「あっという間にぃ、ふうちゃん大変身~♪」

「な、なんだって!?」

 ――もはやそれは、天使の声での死刑宣告だった。

「むふっ。もう手遅れよ、れい」

「くッ! ま、まだ何か手が――」

「さあ」

 あ…………。

 この女子高生らしからぬドスの効いた声。そしてそこにいるだけで人を圧殺するかのようなオーラ。

 ――間違えるわけがない。

「貴様の罪を数えろ」

「ア゛――――ッ!!」

 ふう様キタ――――――!!


 この後、俺がチンピラ正拳突きを食らった(5HIT!)のは、また別の話。

 もし俺の目の前に青いタヌキ型ロボットが現れたら、きっとタイムマシンを借りて昔のふうを調教しに行くと思います、まる。


    ▼△


 ――『作家になる』。


 そんな思いつきで出たような話が、俺の夢だ。

 ぶっちゃけ少し前までは、夢なし部活なし彼女なしの3ナイ野郎だった俺の、単なる思いつきにすぎなかった。

 だが最近になって、『3ナイ野郎』は『ナイナイ野郎』になった。

 それもこれも、あの3人に出会えたからこそだろう。

 まだあいつらには、言葉にして「ありがとう」を言えていない。けれどいずれ言うべきときが来る。

 だったらそのときのために、俺はあいつらと過ごした時間を文字にして綴ろう。あとから読んでも笑えるよう、少しばかりコミカルに、小説風にして。

 そしてそのときが来たら、「ありがとう」と一緒にそれを贈ろう。


 この物語はまだ始まったばかり。


 あいつらがヒロインで、俺は主人公兼作者。


 これはそんな物語。



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