2回裏
「練習場所の確保がしたいんだよね」
入学式から翌週の昼休みの教室で時雨は言った。
「まさか昼連の?」
わかってはいたが秋月は確認の意を込めて聞く。
「そう。早いとこ鍵を拝借したいんだけど、なかなか良い機会がないんだよ」
昼連と言うのは「昼休み練習」のことで小学校の時には屋上でやっていた。もちろん出入りは本来禁止で鍵がかかっているのだが、なぜか時雨は鍵を持っていた。入手経路については教えてくれなかったが、中学でも同じことをしようとしているのだろう。
「前の方法で盗ればいいじゃん」
「いや、たぶん通用しないんだよ。もっと自然に近づければいいんだが」
昼休みと言えど、教室は無人ではなく何人か生徒がいる。が、チラチラこちらを窺っている。
たぶん時雨のせいだろう。かつてはクラスを盛り上げる方だった時雨だが、仲間がいない状態では物静かで、今のところ秋月以外の人と会話をしていないと思われる。秋月も頻繁に声をかけたりもしていないので、話をしているのを珍しく思ったのだろう。
「おっ!いたいたお二人さん」
教室の入口から声がした。
「小田ちゃん久しぶりじゃないか」
時雨が声をかけた相手は小田切というのっぽでひょろりとした2年の野球部員でかつてのチームメイトで唯一の年上の人だ。
「小田ちゃん」と呼ばれているが男である。
「久しぶり?そうだっけか。それより野球部には入るのかい君たちは?」
「入るよ。よろしくね小田ちゃん」
と、秋月が言った。
「うん。それはよかった今年は新入部員も結構多いみたいだしうれしいよ。けどね君たち。流石に先輩をちゃん付けはまずいよ。これからは小田切先輩あるいは小田切さんと呼びなさい君たち」
「ところで、小田ちゃんはレギュラーなの?」
と、時雨は聞く。
「時雨君。話を聞いていたかい?まぁ僕は昨年3年の先輩方が引退して新チームになった際にレギュラーになる事が出来たよ」
「1年生でももう練習してる子はいるの?」
と、秋月が聞く。
「あぁ。まだ借り入部の扱いだがもう来てるよ。早く部の練習になれといた方がいいからね」
「そうか。オレらはギリギリまで来ないからそのつもりでいてくれ」
「了解。ではまたグラウンドで会おう」
と、言って小田ちゃんはクラスから出ていった。