1回裏
「部活なんだけどよーギリギリまでは用紙出すなよ。そっちの練習に参加しないといけなくなりそうだからな」
ホームルームの後すぐに家に帰り、グラウンドに集合して、キャッチボールをしながら時雨は言った。
グラウンドと言っても中学校のではなくて、2人が数週間前まで在籍していたリトルチームのグラウンドである。山の中腹らへんにあり、周りはフェンスに囲まれて、部外者は一切来ない絶好の場所にある。小学生が使うにはかなり広いグラウンドだと当初は感じたが、それは本当に最初だけだった。
今日は練習試合を申し込まれたとかで、みんな留守にしている。
「野球部も弱くはないんだよね」
と、言う秋月に時雨が言う。
「昨年の総体は県大会で1勝してる。地区を勝ち抜く実力はあるみたいだな」
秋月は軽くうなづき相槌の代わりとする。
「よし。肩も温まったし、後は素振りにトスバに遠投かな。お前肩弱いもんな」
「別に弱くないし」
時雨に言われ、心外とばかりに秋月は強めのボールを投げつけた。
「おはよ秋月。同じクラスだな」
次の日、秋月が教室に入って席にカバンを置いたところで、坊主頭に丸顔でニキビを2つ3つ付けた男子が話しかけてきた。と、言うより秋月が来るのを待っていたというのが正しいだろう。
「あぁ山田じゃん。一緒だったの?」
実際は昨日から気づいていたが、対角線の位置だし遠いから話す機会はないと安心したいたのだが。
「なんだよ。本当は気づいてただろ?それよりさ、部活は当然野球部に入るんだよな。まぁ俺が入る時点で安泰なんだけど、2人が入部すれば俺がさらに引き立つからね」
と、得意げに記入済みの申請書を見せてきた。
山田は地元で有名な何度も全国出場経験のあるリトルチームに所属していた。そこでスタメンだったのかベンチだったのかは覚えていない。ちなみに秋月や時雨がいたのは現在結成4年目とまだまだ歴史の浅いチームだ。
「まぁ、入る予定だよ。野球部」
筆記用具ぐらいしか入っていないカバンを横に下げて秋月は言った。