自称イケオジ殿下(45)がやっと婚約破棄してくれたのに
僕の名はリーンハルト。
四十五歳。
王国の第一王子であり、いずれ国王となる男だ。
自分で言うのもナンだけど、若い頃から女性にはモテた。最近も侍従に「殿下は渋みが増されましたね」と言われたばかりである。
渋み。そう渋みである。
若い男には出せない大人の余裕。力強さ。経験に裏打ちされた包容力。
それを理解できない女はまだまだお子様ということ。
僕の婚約者であるメリルリアは十八歳。少々おとなしく、僕のキレッキレの冗談にもあまり笑わない娘だった。
だから僕は彼女のためを思い……婚約破棄を言い渡してやった。
「君には僕の魅力を理解するのはまだ早かったようだ。残念だけど……僕たちの婚約はここまでにしよう」
メリルリアは一瞬、目を丸くした。
それからほんの少し口元を緩めた。
可愛いな……泣くのを我慢していたのだろう。
かわいそうに。僕ほどの男を失うのだから無理もない。
でも大丈夫。僕も鬼ではない。
この婚約破棄は恋の駆け引き。僕がどれだけナイスガイなのか痛感してほしい愛の試練。
その日の夜。
僕はさっそく彼女に手紙を書いた。
◆
【一通目】
愛しのメリルリアちゃんへ♥
今日は少し驚かせちゃったかな?(^_^;)
でもね、男には時として心を鬼にしなければならない時があるんだよ。
君はもう十八歳。立派なレディだしね(^^)
いつまでも僕の隣でモジモジしているだけじゃダメだぞ!!
僕は君の将来を真剣に考えたからこそ、今回の決断をしたんだ。
わかるかな~?
この大人の愛情……。
ナンチャッテ(*´艸`*)☆
まあ、今は寂しいかもしれないけれど、いつか君も「あの時の殿下は、私のためを思ってくださったのね」と気づく日が来ると思うよ。
その時は素直に謝ってくれればいいからねぇ(^_-)-☆
返事は急がなくていいよ。
ただ、僕は待っているから♥
追伸:今日は庭園を散歩したヨ。風が気持ちよかったな~。こういう日は、隣に可愛い女性がいてくれたら最高なんだけどね(笑)(´ε` )
◆
三日経った。
返事がない、だと……?
おかしいな……。
我ながら文才が爆発していると思ったのだが。
そこで僕はもう一通送ることにした。
◆
【二通目】
メリルリアちゃん、元気にしてるカナ?^^;
お返事がないのでちょっと心配になっちゃった(^_^;)
もしかして、まだあの日のことを気にしているのかな……?
ゴメンネ(;´∀`)
僕って思ったことをハッキリ言っちゃうタイプなんだよね。
でもそれが僕の良いところでもあるんだよ。
裏表がない。嘘をつかない。大切なことから逃げない。
そういう男って意外と少ないんだよね。
ちなみに今日は騎士団の若い連中と訓練をしたんだけど、模擬戦は連戦連勝!
まだまだ僕も現役だね!(#^^#)
「殿下、お若いですね!」なんて言われちゃったよ(笑)
まあ、精神年齢は君に合わせてあげられるし、見た目も若いしさ。
僕って年齢差を感じさせないタイプなのかもなー(*´艸`*)
君はそういうところも恥ずかしくて言えなかったのかな?
大丈夫。女の子は好きな人の前だと素直になれないものだからね♥
そうだ!!
今度二人でお茶でもどう??☕️
おじさんが手取り足取り女の子としての立ち振舞を、いろいろ教えてあげるからね!!
ナンチャッテ(*´艸`*)
◆
返事はなかった。
胸キュンする彼女の姿を想像したのだが、ありえなくないか?
しかし僕はめげない。
恋愛とは押したり引いたりするものだ。
若い女の子は、特に追いかけられることで自分の気持ちに気づくものだから……。
翌週……廊下でメリルリアを見かけた。
彼女は僕を見るなりくるりと向きを変えて歩いていった。
恥ずかしがっているのだろう。
仕方ない。年長者の僕がここは人肌脱ごうではないか。
その日の夜……三通目を書いた。
◆
【三通目】
メリルリアちゃん、今日は廊下で会ったね!!(^^)
目が合ったのに、すぐに行っちゃったから僕はちょっと寂しかったぞ~(T_T)
そんなに照れなくてもいいのにな(笑)
僕は君が思っているほど怖い男じゃないよ(^^)
むしろ好きな女性には、とことん優しいタイプなんだ。
ただねぇ、僕も立場のある男だから誰にでも優しくするわけにはいかないんだよ。
君は特別だったんだ。
……こういうこと面と向かって言うのは、照れるね(;´∀`)
ところで、最近ちゃんと食べてるかな?
君は少し痩せたように見えたよ。若い女性は無理なダイエットをしがちだからね。
僕の好みで言えばちょっとふっくらしているぐらいが抱き心地も良くて好きかな!!(笑)
ちゃんと食べてよく眠って笑顔を忘れないこと。
女の子は愛嬌があるのが一番だよ(^^)
今度、僕が美味しいお店に連れていってあげよう。
もちろん二人きりでネ(´ε` )
あ、誤解しないでね!!
僕は紳士だから、君が嫌がることはしないよ。
ただ君が本当は何を望んでいるのか、僕にはわかる気がするんだ。
長年、色んな女の子たちを見てきたからね(・∀・)
返事、待ってるヨ♥
追伸:君が好きそうな香水を見つけたヨ。今度、プレゼントするから!!(^_-)-☆
◆
翌日。
侍従が困った顔で報告してきた。
「殿下。メリルリア様より今後のお手紙はお控えいただきたいとの伝言が」
僕は思わず笑ってしまった。
「なるほど。照れが限界に達したわけだな」
「いや、どうでしょうか。おそらくそういう意味では……」
「わかっている。女性は複雑だからね。君はもう少し女性心理を勉強したまえ」
侍従は何か言いたそうな顔をしていた。
まったく。若い者は、恋愛の機微というものがわかっていない。
僕は四通目を書いた。
◆
【四通目】
メリルリアちゃんへ♥
お手紙を控えてほしいという話を聞いたよ。
どうしたのかな?(;´∀`)
僕、何か気に障ることを言っちゃった……??
もしそうなら、ゴメンネ(T_T)
でもねぇ、君も少し考えてみてほしい。
僕は君のことを気にかけているだけなんだよ。
それなのに突然そんなことを言われたら、僕だって傷つくんだ。
四十五年生きてきた僕だけど女の子に関しては、いつだって真剣なんだ♥
君はまだ若いから、誰かに好かれることの責任がわからないのかもしれないね。
僕ほどの男が君だけに時間を使っている。
それがどれほど特別なことか……。
いつかわかってくれると信じているよ(^^)
それから来週の木曜日。午後三時に迎えに行く。
王宮の馬車を用意させたから。
返事は不要だよ!!
君も可愛くなるための準備で忙しいだろうからね。
それじゃ、またね(´ε` )♥
追伸:当日は、できれば青いドレスがいいなー。君には、あの色がよく似合うと思うからね。僕の隣に立つんだから、身だしなみも大切だヨ(^^)
◆
その翌朝、僕は父上に呼び出された。
部屋には、侍従長となぜか王宮監査局の役人までいた。
机の上には僕の手紙がずらりと並んでいた。
「リーンハルト。これは何だ」
「メリルリアへの手紙ですが?」
「彼女からは連絡を控えるよう求められたそうだな」
「ええ、少し誤解があったようで」
「誤解?」
父上は一通の手紙を持ち上げた。
「あまり洗練された文章には見えんが」
「これが若さですよ。父上」
「迎えに行くというのは? 婚約破棄しているのにも関わらず……このような真似をするのは迷惑ではないか?」
「サプライズです」
「サプライズ? それ以前に返事がない時点で嫌がっていると思わないのか?」
「父上。女性の言葉をそのまま受け取ってはいけません。特に若い女性は素直になれないものです」
父上は呆れたような表情で僕を見つめた。
「お前はメリルリア殿が何を考えているか、本人から聞いたのか」
「手紙で十分に気持ちは伝えています」
「お前の気持ちではない。彼女の気持ちを聞いているのかどうかを尋ねているのだ」
……なるほど。
父上は、どうやら恋愛というものを忘れてしまったらしい。
結局、非常に遺憾だが僕はメリルリアへの接触を禁じられて王族としての一部の公務も外された。
まったく窮屈な世の中だ。
しかし僕は大人だ。ここは寛大な心で受け止めよう。
残念だなぁ。この恋文を読んだらメリルリアちゃんもメロメロになっちゃうと思うんだけど。
◆
【幻の五通目】
メリルリアちゃんへ♥
今回の件ではいろいろあったね。
君も少し落ち着いた頃かな~?(^^)
僕はもう怒っていないよ。
むしろ君には感謝しているんだ。
僕ほどの男を手放したことが、いつか君の人生の教訓になると思うから(^_-)-☆
人生は勉強だ。
失って初めてわかるものもある。
君がいつか僕のような大人の男性と出会った時、きっと思い出すだろう。
「ああ、あの時の殿下は、本当に素敵な方だったんだ」ってね。
その時にはもう遅いかもしれないけれど……。
ナンチャッテ(*´艸`*)
僕はいつだって君の幸せを願っているよ♥
ただし僕より幸せになれる男性がいるとは思えないけど(笑)
それじゃあ元気で(^_-)-☆
◇
「これが生涯独身を貫いたと言われる名君。リーンハルト王の手紙ですか? 画期的な政策の数々で国を繁栄させたという」
「そのとおりだ」
「しかし不思議です。手紙の内容はさておきこれほどの実績がある名君が生涯独身だったとは。婚約していたということは結婚する気はあったはずですし」
「さすがに生理的に無理すぎるのではないか?」
「はぁ……そういうものですかねぇ」
最後まで読んでくださってありがとうございます!!
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