表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第1章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/35

07試される勇者たち

 翌朝。

 俺たちは村人たちに見送られながら、

 『アウラ温郷』を後にした。


 手を振る人々の顔には、安堵と名残惜しさが混じっている。


 そして――次の目的地。


 またしても、

 アカネの「行きたい場所百選」のリストから選ばれた。


「温泉でしっぽりした後はさ、

 やっぱり“遺跡”でしょ! ロマンでしょ!」


 次の行き先は、

 天空環状遺跡アストラ・リング


 ここからさらに山を登った先、

 山頂近くの空に浮かぶ、巨大な円環状遺跡だ。


 宙に連なる柱とアーチは、朝夕で光の色を変え、

 その姿は

 「一生に一度は見るべき風景」と称されている――らしい。


「ね、すごいでしょ?」

 アカネは目を輝かせながら、誇らしげに語る。


 クラリスとナディアも、その話にすっかり乗せられていた。


 三人娘は、意気揚々と山道を進んでいく。

 その背中を追い、俺も遅れまいと歩を進めたが――


 正直なところ、

 山道の連続は、年齢的にこたえる。


 足取りが重くなってきたところで、

 それを見かねたナディアが、こちらを振り返った。


《もっと、かるくな~れ》


 独特な言い回しと同時に、魔法が発動する。


 荷物の重みがすっと消え、

 身体まで軽くなったような感覚がした。


「……助かる」


 年寄りには、実にありがたい呪文である。


 そんな俺をよそに、

 三人は楽しそうに先を行く。



 ふと、先を行く三人が歩みを止めた。


 ――山賊か?


 反射的にそう思い、視線を前へやる。


 そこにいたのは――人影。


 赤いのマントを羽織った、小さな女の子。

 道端にしゃがみ込み、肩を震わせている。

 ……泣いている、ように見えた。


 こんな山道の途中で?

 人気のない、こんな場所で?


「あれあれ~。迷子かな?」


 アカネが首をかしげる。


 三人は疑いもなく、駆け寄ろうとした。


「どうしたの~」

「名前は?」

「お母さんは?」


 その瞬間。


 胸の奥を、冷たいものが走った。


 ――違う。


 これは、覚えがある。

 かつて、魔王城で感じたものと同じ――

 人ではないと、本能に告げる異質な気配。


「あぶない。近づくな」


 思わず、声を張り上げる。


 三人はびくりと肩を震わせ、その場で足を止めた。


 次の瞬間。


 女の子の身体が、みるみる引き伸ばされる。

 骨格が変わり、背が伸び、

 泣きじゃくっていたはずの姿は、

 成人女性のものへと変貌した。


 深紅のマントを翻し、

 全身から、魔力があふれ出す。


 ――魔術師だ。


「さすがだな、大魔導士殿」


 フードの奥から覗く顔は、はっきりと見えた。

 整った――息をのむほどに美しい顔立ちだ。

 だが、

 その若い声には、戦場を知る者特有の余裕が滲んでいた。


「相手が貴殿では、気配までは隠しきれぬか」


 言葉と同時に。


 女の手元から、光が弾ける。

 刃の形を成した魔力が、一直線に飛んできた。


 アカネが即座に跳び退く。

 クラリスはナディアを抱き寄せるようにして、

 地面に伏せた。


 ――速い。


 俺は反射的に詠唱を省き、魔力を叩きつける。


 火球。


 放たれた炎が、光の刃と正面からぶつかり合う。


 眩い閃光。

 衝撃が空気を震わせる。


 その一瞬の隙に、

 クラリス、ナディア、アカネは素早く距離を取り、

 陣形を整えた。


 ――上出来だ。


 俺は、静かに詠唱を開始する。


 目の前の深紅のマントの魔術師は、

 くつり――と、小さく笑った気がした。


「今日は挨拶がてら、勇者の顔を見に来ただけだ」


 落ち着いた声。

 余裕に満ちた口調。


「私は、魔王様の幹部の一人。

 レティシア・ヴァルグレイヴ」


 名乗りと同時に、空気が変わる。


「……ほう。勇者とは聞いていたが」

「まだ子供ではないか。拍子抜けだ」


 言葉だけで、周囲を押し潰すような威圧感。


 クラリスは、完全に飲まれていた。

 剣を握る手が、わずかに震えている。


「だが――」


 レティシアの視線が、俺に向く。


「大魔導士殿がお付きでは、分が悪いな」

「今日は、ここまでにしておこう」


 深紅のマントが、ふわりと揺れた。


「……また会おう」


 その瞬間。


 俺の詠唱が、完成する。


《裁きの火雨》


 空が赤く染まり、

 無数の炎の矢が生まれる。


 炎は雨となり、

 魔女レティシアへと、一斉に降り注いだ。


 ――が。


 閃光。


 そこに、彼女の姿はなかった。

 熱だけが残り、山道に静寂が戻る。


 張り詰めていた緊張が、一気にほどける。


 少女たちは、

 その場にへたり込んだ


「なんで、もう魔王の幹部が出てくるのー……」

「あんなのと、戦うの……?」

「……もう、帰りたい……」


 完全に、心が折れている。


 ――あの魔女。

 勇者パーティに“心理的ダメージ”を与えることには、

 見事なまでに成功したようだ。


 俺は、決して、


「情けない」

「これしきでどうする」


 などとは言わない。


 腰を下ろし、目線を合わせて、穏やかに言う。


「大丈夫だ」

「俺のほうが、ずっと強い」


 三人の顔を見る。


「守ってやるから、安心しなさい」

「ほら……ジュース、買ってやろう」


 とにかく、今は――なだめる。


 魔王の幹部と遭遇した後の勇者には、

 説教よりも、まず糖分が必要なのだ。


 

 夜。

 野営地にて、皆で焚火を囲む。

 今日もアカネが特製のキャンプ飯を作ってくれた。


 椀から立ちのぼる湯気とともに、

 アツアツのスープをいただく。


 ――ほっとする。


「ありがとう」

「いただきまーす!」


 クラリスとナディアも元気よく礼を言い、

 スープを口に運ぶ。


「ううん……おいしい」

「しみるー……」


 言葉通り、おいしそうに食べている。

 だが、その表情はどこか晴れない。


 ――昼間の出来事。

 魔王幹部との対面が、まだ心に影を落としているのだろう。


 しばらくして、クラリスがぽつりとつぶやいた。


「あの人……わたしたちのこと、ばかにしてたよね」

「なんか……くやしかった」


 顔をしかめる。


「うん」


 ナディアが、短く同意した。


 少し間を置いて、クラリスがこちらを見る。


「ねえ、ルドさん」

「わたし……あの人より、強くなれるかな」


「ああ、もちろんだ」


 迷いなく答える。


「勇者の一番の武器は、攻撃力でも魔力でもない」

「成長力だ。脅威的な伸びしろと言ってもいい」

「その気になれば、

 あの魔女を超えるのに、そう時間はかからないだろう」


 ――少しだけ、盛って答える。


 この子は、褒められて伸びるタイプだ。


 案の定、クラリスの表情がぱっと明るくなった。


 俺は、続ける。


「だが、勇者は一人では強くなれない」

「仲間と共に成長するものだ」

「だから――ナディア、アカネ。

 お前たちの頑張りが、勇者をさらなる高みに導く」


 二人の表情が、きゅっと引き締まる。


 焚火が、ぱちりと音を立てた。


 ――上位者からの激励は、何よりの糧になる。


 三人の顔から、先ほどまでの不安はすっかり消えていた。


 しかし。


 強敵――ライバルの出現。


 それが刺激となり、勇者が飛躍的に力を伸ばす。

 そんな場面を、俺はこれまで何度も見てきた。


 そう考えると――

 あの魔女、魔王側にとってとんでもない悪手を打ったことになる。


 焚火を見つめながら、

 俺は、思わず口元を緩めてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ