表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/35

最終章2 決着のあとに

「我が術を破るとは――さすがは、勇者だ」


 魔王の声が、さらに力を帯びる。


「やはり、力と力で決着をつけようぞ!」


 その言葉と同時に、魔王の身体が眩く輝いた。

 光が膨れ上がり、玉座の間を満たし――

 やがて、すっと掻き消える。


 そこにいたのは、もはや老人ではない。


 巨大なドラゴン。

 灼熱を宿す鱗、燃え盛るような双眸。


 ――魔王の真なる姿。

 龍と化す魔王。古来よりそれは、

 魔焔竜まえんりゅうと呼ばれる。


 以前対峙した黒龍など、比べものにならない巨躯だった。


「……すごい」


 クラリスたちが、思わず息をのむ。


 ――最終決戦が、始まる。


 魔焔竜が咆哮した。

 玉座の間が、地鳴りのように震える。


 俺は詠唱に入る。

 クラリスも、同時に詠唱を開始する。

 ナディアは瞬時に、ありったけの補助魔法を展開した。

 アカネは抜刀し、大地を踏みしめるように、竜へと歩み出す。


 魔焔竜が炎を吐いた。

 空間そのものを焼き尽くす灼熱。


 ナディアの防壁が受け止める――

 が、耐えきれない。


 俺たちが飛びのいた瞬間、

 防壁は砕け散った。


 だが、止まらない。


 ナディアが、即座に次の防壁魔法を展開する。

 アカネは、炎の隙間を縫うように、さらに距離を詰めた。


 そのとき――

 俺の詠唱が、完成する。


《無限火球》


 無数の火球が生まれ、

 アカネを追い越し、魔焔竜へと降り注いだ。


 魔焔竜が、怒りの咆哮を上げる。


 その隙を逃さず、

 アカネが一気に間合いへ飛び込んだ。


 太い腕。

 長大な首。

 重厚な胴体。


 すべてが、彼女を叩き潰そうと迫る。


 だが、アカネはかわす。

 いなし、弾き、流す。


 ――まるで、セリシアを見ているかのようだ。


 直撃を紙一重で避けながら、

 縦横無尽に、竜の懐を駆け巡る。


 そこへ。


 影のように、クラリスが間合いを詰めた。


 その剣は、すでに青い炎に包まれている。

 魔力が満ち、竜の皮膚すら切り裂く輝きだ。


 クラリスの斬撃が走る。

 魔焔竜の胴に、深い傷が刻まれた。


 俺は、なおも詠唱を重ねる。


 光の矢。

 火球。

 雷電。

 風の刃。


 ありったけの魔法が、魔焔竜を襲う。


 魔焔竜も応じる。

 炎を吐き、腕を振るい、首を叩きつける。


 ――まさに、力と力の激突。


 アカネが、攻撃を引き受け、おとりとなる。

 その隙に、クラリスが切り込む。


 完璧な連携だった。


 一瞬の隙。

 クラリスの剣が、胴へと深く突き立つ。


 剣が、白く輝きを増す。

 渾身の一撃。


 だが――

 踏み込みが、深すぎた。


 魔焔竜の間合い。

 太い首が、クラリスを捉える。


 吹き飛ばされ、

 クラリスは壁に叩きつけられた。


「――っ」


 刹那。


 すでに、

 アカネは――

 魔焔竜の頭上に、跳び上がっていた。


 剣を、振りかざしている。


(……そうか)


 クラリスの突撃は、おとり。

 本命は――アカネ。


 アカネは、祈るように、

 その剣を、竜の頭上へ振り下ろした。


《竜を屠る一撃》


 ――すぱん。


 魔焔竜の頭部は、

 あまりにも鮮やかに、二つに割れた。


 どすん、と。


 轟音とともに、

 魔焔竜は、巨体を崩れ落とす。


 場を満たしていた威圧が、

 一気に引いていった。


 そこには、

 魔焔竜の亡骸が、静かに横たわっている。


 ナディアが、倒れたクラリスへ駆け寄り、回復魔法をかけていた。

 アカネは、その場にへたり込む。


 俺は、ゆっくりと魔焔竜に近づく。


 割れたその顔は――

 心なしか。


 微笑んでいるようにも、見えた。

 


 ――魔王は、倒れた。


 成し遂げたのは、あの娘たちだ。

 世界に君臨し続けてきた存在を、

 彼女たちは、確かに終わらせた。

 

 俺は――

 心から、彼女たちを誇りに思った。


「あいたたた……」


 ナディアが、ありったけの回復魔法を重ねているというのに、

 クラリスは、まだ自力で立ち上がることができない。


「死んじゃったかと思った……」


 ナディアは半泣きだった。

 あれは、本来なら即死していてもおかしくない一撃だ。


 それでも、死ななかった。

 日ごろの鍛錬のおかげか、ナディアの防御魔法のおかげか、

 いずれにしても、

 ――さすがは、勇者である。


 俺は、動けないクラリスを背負い、

 アカネとナディアとともに、玉座の間を後にした。


 背後には、

 静かに横たわる魔焔竜の亡骸。


「……さらばだ。魔王よ」


 それだけを告げ、振り返らなかった。


 謁見の間に、レティシアの姿はなかった。


 魔王の死により、

 魔族の力は、大きく弱まった。


 魔王城でも、眠りの森でも、

 俺たちに牙を剥く魔物は、もはや現れない。


 再び、深い眠りの森を抜け、

 バル=グリム岩砦へ辿り着くころには、

 クラリスの傷も、すっかり癒えていた。


 岩砦でしばし休息を取るうちに、

 長かった冬が終わり、春が訪れる。


 やがて俺たちは、

 グランヴェル境界山脈を越え、

 人間の領地へと戻った。


 山越えは、老体にはきつかったが――

 それでも。


 雪解けの進む春の山々は、

 どこか、晴れやかで、心地よいものだった。



 その後、俺たちは、

 かつて訪れた町や村を巡りながら、

 王都を目指して旅を続けた。


 ポルト・ルージュでは、

 ヴァルドと再会し、久しぶりに酒を酌み交わした。


 ルージュフォレストでは、

 芽吹いたばかりの新緑が、目に眩しかった。


 白環はくかんの治癒神殿では、

 ナディアとアカネが、神官っ子トリオに囲まれた。


 玉藻村では、

 元生贄の少女たちの見違えるような成長に、

 クラリスが満足げにうなずいていた。


 港町ルミエールでは、

 春の海鮮に舌鼓を打ち、

 ルミエール浜の白い砂浜を、ゆっくりと歩いた。


 モードリスでは、

 買い物を楽しみ、

 締めくくりに特製パフェを味わう。


 そして、夏の気配が、街に満ち始めたころ。

 俺たちは、王都へと凱旋した。



 城門をくぐった瞬間、歓声が波のように押し寄せる。


 王都の市民たちは、熱烈な歓迎で迎えてくれた。

 花が舞い、旗が振られ、

 誰もが笑顔で、俺たちの名を呼んでいる。


 そして王宮にて、

 国王エドガル・レオンハルト、王妃ソフィア・レオンハルト

 との謁見が執り行われた。

 

 謁見の間は、王と王妃の玉座を中心に、

 王国中枢を担う重臣たち、

 近衛隊や正規軍の将校、

 列席を許された諸侯や名門貴族たちが居並び、

 まさに国を挙げての場といった様相を呈していた。


「勇者クラリス・ブレイブハート

 剣士アカネ・グレン

 神官ナディア・アル=サハル

 そして――

 大魔導士ルドルフ・ヴァル=エルディーン」


 エドガルは、一人一人の名を、はっきりと告げる。


「そなたたちは、見事に魔王を打ち取り、

 この世に平和をもたらした」


「全国民を代表して、礼を言わせてもらう。

 感謝する。本当に、ご苦労であった」


「そなたたちの名は、永遠に、

 エルディーン王国に受け継がれるであろう」


 その後も、ありがたい言葉がしばらく続いたが――

 正直なところ、

 何を言われていたのか、もうよく覚えていない。


 だが。


 謁見のあと、別室に呼ばれたときの言葉は、違った。


「クラリス、アカネ、ナディア……

 よくやってくれた。いや、ほんとうに、よかった」


 エドガルは、少し照れたように笑い、


「ルドも、お疲れ。ありがとね。ほんと、ありがとね」


 その短い言葉のほうが、

 先ほどの長い演説より、ずっと胸に残っている。


 ソフィアは、娘たちを一人ずつ抱きしめ、

 エドガルは、なぜか俺に抱きついてきた。


 ……王様、距離が近い。


 それからしばらくは、

 晩餐会だの、パレードだのと、息つく暇もない日々が続いた。


 三度目になるが――

 どうにも、こういうのには慣れない。


 ようやく落ち着いた頃、

 俺は自宅に、三人を招いた。


 再会を喜ぶ家族たち。

 とくにフローラは大喜びで、

 「無事でよかった」と号泣していた。


 娘たちは、しばらく滞在し、

 アカネは相変わらず、クラリスを引っ張って道場通いを続けている。


 その間に――

 クラリス、アカネ、ナディアのもとには、

 要職へのオファーが、雪崩のように舞い込んだ。


 国王近衛隊長、騎士団長、ギルドマスター、大神殿の要職。

 さらには、街の町長職や、名誉教授の席まで。

 その幅広さは、彼女たちが「英雄」として見られている証でもあった。


 だが三人は、口をそろえて、

「もう少し、考えさせてほしい」

 そう告げ、ひとまずすべての話を断ったらしい。


 ――しかし、それ以上に厄介だったのが、

 王族や貴族の子息との縁談だった。


 格式ある家柄から、

 これ見よがしに届く婚姻の申し入れ。

 中には、本人の意思を確かめることすらない話もある。


「お見合いって……嫌なんです」

「恋愛結婚がいいんです」


 三人は、そろって困惑していたが、

 このあたりは、大先輩であるソフィアとセリシアが指南役となり、

 うまいかわし方を教えてくれたらしい。



 俺は、わが家で、

 久しぶりに、のんびりとした時間を過ごしていた。


 午後。

 ラフな格好で、庭いじりに興じる。

 土の匂いと、風の音。

 それだけで、心が落ち着く。


 それにしても――

 俺にとっても、今回の旅は、実に有意義なものだった。


 三度も魔王退治に出向いた人間など、

 そうそういるものではないだろう。

 そう考えれば、少し誇らしくも思う。


 だが、それ以上に。


 クラリス。

 ナディア。

 アカネ。


 あの、かつては頼りなかった三人が、

 ここまで立派に成長したこと。

 それが、何よりも誇らしかった。


 そんなことを考えていると――

 ふと、背後から声がした。


「いっしょに来てくれたのが、ルドさんで……

 ほんとに、良かったって思ってるのよ」


 クラリスだ。

 縁側に腰を下ろし、俺の庭仕事を眺めている。


「そうかい?」


 俺は、背を向けたまま答えた。


「ほんとだよ」

 クラリスの隣に座ったナディアが続ける。

「魔王を倒せたのも、ルドさんのおかげだよね」


 さらに、その隣のアカネも言った。


「ばたばたしててさ。

 ちゃんと、お礼も言えてなかったよね」


 そして――

 三人が、声をそろえる。


「ルドさん。ありがとうございました!」


 ……まずいな。


 少し、泣きそうになった。

 こんな顔を、娘たちに見せるわけにはいかない。


 俺は、背を向けたまま、

 軽く手を上げて応えた。


 もうすぐ、夕食の時間だ。

 今日も――

 きっと、にぎやかな食卓になるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ