表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

33/35

最終章1 待ちわびた対決

 俺たちは、眠りの森を黙々と進んだ。

 手ごわい魔獣と戦い、

 警戒を緩めることなく夜を越え、

 一歩一歩、足元を確かめながら。


「気づいたんだけどさ」

 ソフィアが、ぽつりと言う。

「この森……全然、楽しくないね」


「そうね」

 アカネが肩をすくめる。

「暗いし、寒いし」


「早く、抜け出したいよね」

 ナディアも小さくうなずいた。


(まあ……)

(魔王城へ続く道だ)

(楽しいはずがない)


 それでも、娘たちは歩みを止めない。

 不満を口にしながらも、確実に、前へ進んでいく。


 ――大器晩成。

 そんな言葉が、ふと頭をよぎった。


 クラリスは、剣技と魔術を融合させた、

 勇者独自の戦い方に、戦うたび磨きがかかっている。


 アカネの剣は、確実にセリシアの背中を追っている。

 いずれ、《剣聖》へと至る――

 そう、確信できるほどに。


 ソフィアの祈りも、深く、強くなっていた。

 より速く、より強く、より多く、より長く。

 支援の魔法は、明らかに別次元に近づいている。


 とくに――

 この森でのクラリスの成長は、目を見張るものがあった。


 思うに。

 勇者の力は、最初は微力だ。

 だが、鍛錬と試練を重ねることで、ある瞬間を境に、

 一気に伸び始める。


 臨界点。

 それを越えた力は、指数関数的に膨れ上がる。


(……今だな)


 クラリスは、まさにその地点に立っている。

 そして、それは――

 魔王にとって、紛れもない脅威だ。


 今、娘たちは。

 魔王との対決を前にして、

 この眠りの森で、一つの頂へと近づきつつあった。

 


 どれほどの日が過ぎただろう。

 その感覚すら薄れた頃、俺たちは――眠りの森を抜けた。


 その先に、小高い丘がある。

 丘の頂には、四十年前と寸分違わぬ姿で、魔王城がそびえ立っていた。


 ……とうとう、到着した。

 そして、また来てしまった。


 黒々とした城の佇まい。

 圧し掛かるような威圧感に、娘たちは思わず息をのむ。


「さあ。最終決戦だ。いこう」


 クラリスが、低く言った。


「いこう」

「いこう」


 アカネとナディアが声をそろえる。

 次の瞬間、娘たちは駆けだしていた。



 城の構造は、把握している。

 最短で、一直線に玉座の間へ。


 途中、城を守るゴーレム、鎧の騎士、ドラゴンが立ちはだかる。

 時に戦い、時にやり過ごし、

 薄暗い城内を、奥へ、さらに奥へと進んでいった。


 玉座の間へ至るには、必ず謁見の間を通る。

 かつてそこでは、将軍級の魔族と刃を交えた。


 そして今回も――

 俺たちは、その謁見の間へ辿り着く。


 重厚な扉を押し開け、足を踏み入れた。


 部屋の中央に立っていたのは、魔女レティシアだった。


「ようやく、たどり着いたか」

「魔王様は、待ちわびておられたぞ」


 懐かしい声だった。

 強敵に再会したという感覚と、古い知己に再会した感覚が、

 胸の奥で絡み合う。


「本来であれば、

 ここで我らが『黒曜の大将軍』バル=グロウが相まみえる手筈であった」

「しかし、大将軍は病に伏し、動くことができぬ」


 レティシアは、わずかに目を伏せる。


「口惜しいが……勇者どもよ。この先へ進め」

「魔王様が、すでに待っておられる」


「わかった。いってくる」


 クラリスはそう言って、レティシアの前を通り過ぎた。


「じゃあね、レティシア」

 アカネが言う。


「元気でね」

 ナディアも続いた。


 ――これが最後の別れになる。

 娘たちは、そう理解している。


 そして、俺がレティシアの前を通り過ぎようとした、その時。


「大魔導士殿よ」


 レティシアが、そっと声をかけた。


「よく、勇者たちをここまで導いてくれた」

「これで、魔王様は勇者と対峙できる」

「……間に合ったのだ。礼を言う」


 奇妙な礼だな、と怪訝に思った、その瞬間。


 レティシアは、寂しげに目を伏せ、


「まもなく――魔王様の寿命が、尽きる」


 それだけを告げて、口を閉ざした。


 扉の向こうで、

 最終の時が、静かに待っていた。

 


 玉座の間。

 薄暗く、そして、やけに広い。

 冷気が、じわりと体を包み込む。


 ――ああ。

 四十年前と、同じ空気だ。


 その中央。

 黒い石で造られた玉座に、魔王が座していた。


 しかし――


「あれが、魔王?」

「すっごい……おじいちゃんだよ!」


 クラリスたちが、戸惑いの声を上げる。


 魔王は、確かに老人の姿をしていた。

 人間で言うと百歳を優に超えている風貌だ。

 背は曲がり、肌は皺に覆われている。


 レティシアの言葉が脳裏をよぎる。

 ――まもなく、寿命が尽きる。

 なるほど、と思った。


「よく来た。勇者よ」


 だが、その声は。

 見た目とは裏腹に、圧倒的な威厳を帯びていた。

 そして、瞳は――爛々と輝いている。


「勇者よ。われのものとなれ」

「さすれば――世界の半分を、お前に与えよう」


 朗々と、歌い上げるような声が玉座の間に響き渡る。


「断る!」


 クラリスは、迷いなく即答した。


 魔王は、その答えを待っていたかのように、

 満足げに、ゆっくりとうなずく。


「――よい」


 一瞬の沈黙。


「それでこそ、勇者だ」


 そして、穏やかな声で、しかしはっきりと告げた。


「ならば……力尽くで、従わせるまでのこと」


「今こそ、相まみえようぞ」

「わが術を、受けてみよ!」


 気迫のこもった声が、玉座の間にこだました瞬間――

 場の空気が、反転した。


 魔王が作り出す、強力な“場”。

 ここは、完全に、魔王の手中だ。


 刹那。

 前に立つ娘たちの様子が、明らかに変わった。


「……あれ?」

 クラリスが首をかしげる。

「なんで、ルドさんが、玉座に座っているの?」


「あ、セリシア様」

 アカネが微笑む。

「お久しぶりです」


「ソフィア様……?」

 ナディアが困惑した声を上げる。

「どうして、こんなところに?」


 ――幻影の術だ。


 魔王は、それぞれの心に潜む、

 最も重要な存在を映し出している。


 まずい。


 魔王が、愉快そうに笑った。


「おお、クラリス。お前の後ろに、俺の偽物がいる」

「退治するのだ」


 クラリスが振り返る。

 俺を見る。


 ――目が、青く光っている。

 焦点が定まらない。

 完全に、“場”に取り込まれた目だ。


「……あれ?」

「ルドさんが、二人いる」

「どっちが……本物?」


「クラリス!」

 俺は、腹の底から怒鳴った。

「落ち着け! お前は、魔王の場に支配されている!」


 玉座から、魔王が嗤う。


「さあ、その男が偽物だ」

「お前には、分かるはずだろう?」


 場の圧が、さらに強まる。


 クラリスが、剣をこちらに向けた。


「……あなたが、偽物?」


「違う!」

 俺は、さらに声を張り上げる。

「自分の心を閉ざすな! お前なら、真偽を見破れる!」


 そのとき。

 玉座から、ひときわ大きな怒声が響いた。


「なにを、もたもたしている!」

「クラリス! そいつに、とどめを刺すのだ!」


 クラリスは、びくりと肩を震わせ、


「……わかった」


 そう言って、剣を振りかざす。

 刃に、魔術が宿り、青い光が溢れ出す。


 ――万事休す、か。


 刹那。


 クラリスは、くるりと身を翻し、

 玉座へ向き直った。


「――違う」


 剣が、振り下ろされる。


 青白い火球が放たれ、

 一直線に、魔王へと飛ぶ。


 魔王は、とっさにそれを払いのけた。


「なに……!?」


 驚愕が、その顔に浮かぶ。


 クラリスが叫んだ。


「本物のルドさんは!」

「私に命令しない!」

「叱る代わりに、信じてくれる!」


 一拍、置いて。


「本物の大魔導士ルドルフは――」

「全力で、私を、甘やかす!!」


 その瞬間。


 魔王の“場”が、音を立てて崩れ去った。


「……あれ?」


 アカネが、目を瞬かせる。

「やっぱり、魔王が座ってる」


 ナディアも、正気を取り戻す。


 そうだ。


 勇者が、勇者たる所以。

 勇者は、

 魔王の力に抗う力を持つ。

 魔王の力を、無効化する存在だ。


 クラリスは、それを見事に証明した。


 ――さあ。

 まやかしは、ここまでだ。


 ここからが、

 本当の決戦だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ