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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

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29紅葉と焼き芋と不穏な作戦

 秋も、すっかり深まったころ。


 俺たちは、

 ルージュフォレストへと辿り着いた。


 道中、

 それなりの難敵には、

 幾度も遭遇した。


 トロール。

 サーベルタイガー。

 そして、ワイバーン。


 いずれも、

 少し前であれば、

 慎重に、

 あるいは命懸けで相対する相手だっただろう。


 だが――


 今の娘たちは、

 それらを、

 もはや危なげなく攻略していった。


 連携。

 判断。

 迷いのなさ。


 戦いは、

 もはや試練というより、

 力を確かめる場になっていた。

 

 俺は、

 一歩引いた位置から、

 その様子を見守るだけだった。


 そうして倒された魔物たちは、

 すべて――

 娘たちの経験値となり、

 確かな糧として、積み重なっていった。


 ……気づけば。


 いつの間にか、

 彼女たちは、

 「守られる側」ではなくなっていた。



 村の外れに立ち、

 眼前に広がる景色を見た瞬間――

 誰も、言葉を発することができなかった。


 ルージュ川。


 その両岸に広がる森は、

 まるで炎が揺らめくかのように、

 一面、深紅に染まっている。


 赤。

 朱。

 橙。


 幾重にも重なる色彩が、

 川面に映り込み、

 ゆるやかに揺れていた。


 そして、その奥――


 そびえ立つ、

 グランヴェル境界山脈。


 山の中腹までは、

 赤や黄色に彩られ、

 だが、さらにその上――

 山頂は、すでに白銀に覆われている。


 紅と黄。

 そして、白。


 まるで、

 季節そのものを積み重ねたかのような景色が、

 そこにはあった。


 幻想的――

 その言葉すら、

 安っぽく思えてしまうほどだ。


 娘たちは、

 ただ、ぽかんと口を開けたまま、

 その雄大な光景を見つめていた。


 誰一人、

 すぐには声を出せなかった。


 ……無理もない。


 俺自身、

 グランヴェル境界山脈を、

 この季節に訪れるのは、初めてだった。


 息をするのも忘れ、

 娘たちと並んで、

 ただ、立ち尽くす。


 紅葉の森の向こうに、

 白銀の峰が連なるその姿は――


 これから踏み越えていく境界を、

 静かに、

 だが確かに、

 俺たちに示しているようにも見えた。


 美しく、

 そして、

 越え難い。


 そんな場所が、

 確かに、

 この先に待っているのだと。

 

 村では、

 俺たちは、

 秋の味覚に、舌鼓を打った。


 焚き火のそばで振る舞われたのは、

 山で採れた木の実や、

 川魚の塩焼き。

 そして、香ばしく焼かれた茸。


 どれも、

 素朴ながら、

 文句のつけようがない出来だった。


 食を楽しみ、

 景色を堪能したあと、

 俺たちは、次の予定を立てることにした。


 ルージュ川の川岸。

 焚き火を囲み、

 夜気に包まれながらの相談である。


「グランヴェル境界山脈を越えれば、魔族の領地だ。どうする?」


 俺の問いに、

 真っ先に答えたのは、クラリスだった。


「グランヴェル境界山脈を越えよう」

「魔族の領地へ行くわ」


 ……意外だった。


 これまで、

 一番慎重だったのは、

 他でもない、クラリスだったはずだ。


 心境の変化、か。


「私、オロチの件で思ったの」

「私と同じくらいの女の子を、生贄にするなんて……許せない」


 なるほど。

 勇者は、誰よりも正義感が強い。

 クラリスもまた、その思いに突き動かされたのだろう。


「うん」

「行こう」


 ナディアとアカネも、

 迷いなく、うなずいた。


 以前は、

 途中でギブアップすると言っていた娘たちが、

 ここまで頼もしく成長するとは。


 ……感慨深いものがある。


「よく言った」

「では、問題は――どうやって、山を越えるかだ」


「これからの季節、山越えは不可能だ」

「春まで待つか、あるいは、大きく迂回するか……」


「ここで、じっとしているのも嫌ね」

 クラリスが、きっぱりと言う。


「急ぐ旅でもないし、迂回しましょうか」

 アカネも、現実的な意見を出した。


「そうだな」

「迂回が、無難だろう」


 話が、

 まとまりかけた――そのとき。


 ぞくり、と。

 背筋を撫でるような、

 ひときわ強い気配を感じた。


 振り向くと――


 そこにいたのは、

 魔女レティシア。


 秋物の装いに身を包み、

 いつの間にか、すぐそばに立っている。

 その手には、大きな紙袋。


「でたな、魔女レティシア!」


 娘たちは、

 一斉に身構えた。


「まあ、そう警戒するな」

「少し、話をしよう」


 そう言って、

 レティシアは、紙袋の中を探り――

 一本のサツマイモを取り出した。


「焼き芋を、ごちそうしよう」


「「「やきいも!」」」


 少女たちの声が、

 見事に、重なった。



「レティシア、話ってなに? ほくほく」


 焚き火の遠赤で火を通した、ほくりと崩れる焼き芋を頬張りながら、

 向かいに座るレティシアに、クラリスが切り出した。


 口元に芋をつけたまま、

 まるで雑談でも始めるような調子だ。


 レティシアもまた、

 焼き芋をほくほくと頬張りながら答える。


「お前たちの話は、聞かせてもらった」

「グランヴェル境界山脈を越えようとする計画――悪くない」


 ひと息、

 芋を噛みしめてから、続ける。


「だが、迂回ルートは時間がかかりすぎる」

「もっと短い時間で山脈を越える方法がある」

「……私が、手を貸そう。ほくほく」


 俺も焼き芋を口に運びながら、眉をひそめる。


「どういう風の吹き回しだ?」

「魔族が勇者の旅路を助けるなど、聞いたことがないぞ。ほくほく」


「魔王様が、しびれを切らしておられるのだ」


 レティシアは、あっさりと言った。


「お前たちの到着を、のんびり待つつもりはない」

「できるだけ早く、こちらへ来てほしい、とのことだ」


「なるほどな」

「だが……どんな案があるという?」


 俺の問いに、

 レティシアは、にやりと笑った。


「海から、山脈を越える」


 一瞬、

 意味が理解できなかった。


「……しかし、あの近海は海賊の巣窟だ」

「誰も、船など出してくれん」

「お前も、知っているだろう?」


「ああ。もちろんだ」


 レティシアは、平然とうなずく。


「だからこそ、逆を突く」

「――海賊船に、乗せてもらえばいい」


 突拍子もない一言に、

 俺たちは、揃って言葉を失った。


「……海賊船に、乗る?」


「そうだ」


 レティシアは、焼き芋を最後まで食べきり、

 指をぬぐいながら説明を始める。


「私たちは、身分のある貴族かなにかに化けて、海岸を歩く」

「それを見た海賊が、目を付ける」

「で、誘拐――いや、拉致される」


「海賊船に乗せられたところで……」

「今度は、こちらが船を乗っ取る」


「……とんでもない作戦だな」

「本当に、うまくいくのか?」


「仕込みは、万全にできる」

「奴らを誘い出すこと自体は、難しくないだろう」


 それを聞いて、

 アカネとナディアが顔を見合わせる。


「でも……ちょっと、無謀じゃないかな」

 アカネが、控えめに言った。


「危ない目に、遭わないかしら……」

 ナディアも、不安そうだ。


 だが――


「海賊船を、乗っ取る……」


 クラリスが、ぽつりと呟いた。


「……面白そうね」

「それ、乗ったわ」


 即答だった。


 ……クラリス。

 最近、ぐいぐい来る。

 少し、キャラが変わったように思う。


 ナディアが、恐る恐る言う。


「でも、もし捕まったときに……」

「変なこと、されそうになったら……?」


 その問いに、

 クラリスは、即座に答えた。


「そのときは、仕方ないわ」


 一拍。


「――ぶっ殺そう」


 ……やはり。

 どう考えても、

 キャラが変わっている。


 俺は、

 焼き芋の残りを見つめながら、

 小さくため息をついた。


 ――海賊船を強襲する勇者なんて、聞いたこともない。

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