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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

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27近づく紅葉、迫る決着

 夏も、終わりに近づいていた。


 照りつけていた日差しは、

 少しずつ角を失い、

 朝夕には、涼しい風が混じるようになっている。


 そんな中、

 娘たちは、次の目的地について相談していた。


「紅葉狩りに行きたい」


 最初に口を開いたのは、アカネだった。


「王国随一の紅葉の名所、ルージュフォレストに行かない?」

「グランヴェル境界山脈と、そこから流れるルージュ川の近辺、

 紅葉がすごくきれいらしいの」


「着くころには、ちょうど見頃だね」

「そこにしよっか」


 話は、あっさりとまとまった。


 ――まったく。

 魔王退治、などという言葉は、

 欠片も出てこない。


 だが。


 グランヴェル境界山脈は、

 人間の領地と、魔族の領地を分かつ山々だ。


 そこへ向かうということは、

 確実に――

 魔王城へ、近づくことを意味する。


 悪くないルートだ。


「……良い選択だ」


 俺がそう言うと、

 娘たちは、少し意外そうな顔をした。


「え、私たちの決定を、ルドさんが褒めるなんて、珍しいね?」

「いつも、苦虫を嚙み潰したような顔してるのに」


 好き放題、言ってくれる。


 だが、

 それも、今は悪くない。


 ルージュフォレストへは、

 ここから北へ、寄り道をしながら進んで、

 およそ一か月ほどの道のりだ。

 

 その先には――

 いよいよ、

 魔族の領地が広がっている。

 

 そこからは、魔王城も近い。

 すなわち、最終決戦へと近づくということだ。

 

 この娘たちは、

 そこまで分かった上で、

 この行き先を選んだのだろうか。


 ……まあ。


 分かっていようが、

 分かっていまいが。


 紅葉の季節は、

 待ってはくれない。


 そして、

 運命もまた、

 同じなのだ。

 


 魔王様の寝室に、呼ばれた。


 近頃、魔王様は、

 この寝室で過ごされる時間が、明らかに増えていた。


 厚いカーテンが閉ざされた室内は、

 昼であるはずなのに、薄暗い。


 ベッドに伏したまま、

 魔王様は、ゆっくりと視線だけをこちらへ向けた。


「レティシアよ」

「儂は……勇者と、決着を付けたいのじゃ」


 静かな声だった。

 だが、その言葉には、

 逃げ場のない決意が滲んでいる。


 ――もう、時間は残されていない。


 そう、悟らされた。


 先日、

 人間の領地において、

 ヤマタノオロチが、勇者たちに打ち取られた。


 あれほどの魔物ですら、

 もはや、歯が立たない。


 人間の領地では、

 魔物の力は、大地そのものに抑え込まれる。


 強大な存在であっても、

 発揮できる力には、限界がある。


 かの地で、

 勇者に抗える魔物は、

 すでに、ほとんど残っていない。


 ――人間界で、勇者を討つことは、

 ほぼ不可能。

 もはや、消耗戦に持ち込む余地すらない。

 

 であれば。


 勇者には、

 グランヴェル境界山脈を越え、

 こちら側――

 すなわち、魔族の領地へと、

 足を踏み入れてもらう必要がある。


 魔族の領地に生息する魔物は、

 人間界のそれとは、格が違う。


 勇者どもを打ち取れる可能性は、

 格段に、高くなる。


 さらに言えば――


 魔族の領地に入った時点で、

 魔王城は、そう遠くない。


 早々に、

 城へ辿り着いてもらい、

 魔王様ご自身の手で、

 決着を付けていただく。


 おそらく、

 魔王様が、もっとも望んでおられるのは、

 その展開だ。


 幸いなことに、

 勇者は、現在、

 グランヴェル境界山脈へと向かっている。


 だが――


 問題は、季節だ。


 彼らが山脈に差し掛かる頃、

 かの地は、すでに冬へと入っているだろう。


 たとえ勇者であろうと、

 人間が、

 冬のグランヴェル境界山脈を越えることはできない。


 雪。

 吹雪。

 凍てつく大気。


 待つしか、ない。


 冬が終わる、その時まで。


 では、

 山脈を迂回するか。


 その場合、

 魔族の領地へ辿り着くまでに、

 少なくとも、半年。


 ……半年。


 おそらく、

 魔王様は、

 そこまで、待てはされまい。


 残された手段は、

 ひとつ。


 船を使い、

 海から、

 山脈を大きく迂回するルート。


 だが――

 海には、致命的な問題があった。


 あの近海一帯は、

 人間の海賊どもの縄張りだ。


 堅気の人間が、

 うかつに近づける海域ではない。


 ましてや、

 勇者を乗せて航海しようなどと考える船が、

 あるはずもなかった。


 船を出した瞬間に、

 海賊に目を付けられる。


 積荷は奪われ、

 命があれば、まだ運がいい。


 ――そんな場所だ。


 さらに、

 季節も悪い。


 これからの海は荒れる。

 風は気まぐれに牙を剥き、

 波は容赦なく船を叩く。


 並の船乗りでは、

 舵を保つことすらできまい。


 熟練の水夫。

 荒海を知り尽くした船長。


 そうした者が、

 どうして、

 勇者一行などという

 目立ちすぎる積荷を引き受けるだろうか。


 無理な話だ。


 そして――


 仮に、

 船が手に入ったとしても。


 勇者一行が、

 自力で船を操れるはずがない。


 剣は振れても、

 舵は取れぬ。


 魔法は使えても、

 帆は張れぬ。


 海は、

 陸とは、まるで勝手が違う。


 つまり。


 海路は――

 理屈の上でも、

 現実の上でも、

 ほぼ、不可能。


 ……それでも。


 残された道は、

 もう、そこしかなかった。


 ――もはや、

 選択肢は残されていない。


 魔王様は、

 浅い呼吸を繰り返しながら、

 天井を見つめておられた。


 その姿を前に、

 私は、静かに、頭を垂れる。


 すこし――

 いや。


 大いに、

 策を練らねばならない。


 魔王様が、

 最期の時を迎える、その前に。


 勇者を、

 この地へ――

 必ず、導かねばならないのだから。

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