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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

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25娘たち生贄になる

 港町ルミエール。

 宿で夕食を終え、ゆっくりとくつろいでいると――

 宿の亭主が、ひとりの男を連れてやってきた。


 年嵩だが、背筋の伸びた人物だ。

 落ち着いた外套に、どこか切迫した表情。

 聞けば、町長だという。


「勇者ご一行様。お願いがあります」


 慣れた仕草で、胸に手を当て、

 クラリスが一歩前に出る。


「伺いましょう」


 その微笑みは、穏やかで、堂々としていた。


 ……立ち振る舞いが、少しずつ勇者らしくなってきたな。

 そんな成長を感じて、胸の奥に、静かな感慨が湧く。


「実は――この先にある、玉藻村たまもむらでのことです」


 町長は、言葉を選ぶように続けた。


「一昨年、魔物が現れまして」

「毎年、村の娘を生贄に捧げねば、

 村人全員を喰らうと……そう、脅しております」


 部屋の空気が、重くなる。


「今年も、その約束の時期が近づいています」

「このままでは……村に、娘がいなくなってしまう」


 町長は、深く頭を下げた。


「勇者様。どうか、魔物を退治していただけないでしょうか」


 ――物騒な話だ。


「その魔物は、何者ですか?」


 クラリスの問いに、町長は、はっきりと答えた。


「ヤマタノオロチです」


 ヤマタノオロチ。

 八つの頭と、八つの尾を持つという、超巨大な蛇。

 村人にとっては、畏怖そのものの存在だろう。


 クラリスが、ちらりとこちらを見る。


「うむ」

 俺は、短くうなずいた。

「今のお前たちなら、叶わぬ相手でもない」


 その言葉を聞いて、

 クラリスは、ほっとしたように息をつき――

 そして、まっすぐ町長を見据えた。


「わかりました」

「その依頼、引き受けます」


 力強い声だった。


 こうして、

 港町ルミエールでの穏やかな日々は終わりを告げ、

 俺たちは――

 新たな因縁の地、玉藻村へ向かうことになった。

 

 

 翌朝。

 俺たちは馬車に乗り、港町ルミエールを後にした。


 海の気配は次第に遠ざかり、

 道は山あいへと入っていく。

 途中、休憩を挟みながら進み、

 日が完全に落ちる頃――

 ようやく、玉藻村に到着した。


 村の入り口で、

 ひとりの老人が深く頭を下げて出迎えた。


 村長だった。


「勇者様が……

 ヤマタノオロチを退治しに来てくださった……」


 その声が村に広がると、

 家々から人が現れ、

 村は一気に騒然となった。


 泣き出す者。

 手を合わせる者。

 遠巻きに、こちらを見つめる者。


 俺たちは、

 村長に案内され、その家へ向かった。


 卓には、料理が並べられていた。


 豪華ではない。

 だが、村が精一杯もてなそうとしていることは、

 一目で伝わってきた。


 クラリスたちも、それを感じ取ったのだろう。

 少し恐縮した面持ちで、

 一皿一皿、丁寧に口に運んでいる。


 食事が一段落すると、

 村長が、静かに口を開いた。


「――おととしのことです」


「突然、ヤマタノオロチが村に現れまして」

「毎年、村の娘を三人。生贄に捧げよと申しました」


「もし従わなければ、村人全員を喰らう、と……」


 重苦しい沈黙。


「ヤマタノオロチの言うことは、聞くしかない、と……」

「生贄は“必要な犠牲”だと」

「我々は、そう諦めておりました」


 村長は、拳を握りしめる。


「しかし、この度」

「勇者様が近くまでお越しだと聞き……」

「退治をお願いする決意をしたのです」


 さらに、村長は言葉を続けた。


「実は先日」

「去年、生贄に出した娘が……逃げ帰ってきました」


 クラリスたちの表情が、強張る。


「その娘の話では」

「生贄となった娘たちは、まだ生きている、と」


「二年間、じっくり太らせてから食べるつもりだと」

「……オロチが、そう言っていたそうです」


「……許される話じゃないわね」


 クラリスが、顔をしかめて言った。


「今回、ヤマタノオロチを退治できれば」

「生贄となった娘たちは、全員、生きて帰ることができます」


「……しかし」


 俺は、首をかしげた。


「その逃げ帰ってきた娘」

「よく、逃げてこられたな」


「はい」

 村長は、うなずく。


「閉じ込められているわけではなく」

「逃げ出すこと自体は、難しくないそうです」


「ただ……」

「他の娘たちは、誰一人、自ら逃げようとはしない、と」


「……何らかの術で、心を縛られている可能性があるな」


 俺は、低く言った。


「で、そのヤマタノオロチは、どこに?」


「はい」

「毎年、村から山を少し行ったところの祭壇に」

「娘を連れていくと、そこへ現れます」


「いつも、人の姿に化けてやってきます」

「そして、そのまま棲みかへ連れていくのです」


 約束の日は、明後日だという。


 話を聞き終え、

 俺たちは、そのまま作戦会議に入った。


「今年は」

「そこまで、生贄のふりをして、私たちが出向く」

「……そういう作戦ですね」


 クラリスが、確認する。


「俺も付き添いとして同行する」

「娘三人と、老人一人」

「ヤマタノオロチも、警戒はしまい」


「ところで」

 クラリスが、ふと首をかしげた。


「ヤマタノオロチって、どんな魔物なの?」


 ……あきれた。

 相手が何者かも知らずに、引き受けていたのか。


「驚くほどでかい大蛇だ」


「でかい大蛇!?」


 娘たちが、声を揃えて仰天する。

 みるみる顔が青ざめる。


「しかも、首が八つある」


「八つも!?」


 さらに、仰天。


「ルドさん!」

「それ、先に言ってください!!」


 今さらだが、

 娘たちは、そろって、ぶるぶると震えだした。


 ……まあ。

 詳しく知らなかったからこそ、

 ここまで来られたのかもしれんがな。

 

 

 翌日。

 村の中で、俺たちは、思いがけない扱いを受けていた。


 今回、生贄になる予定だった娘と、その親には、

 涙を流しながら、何度も礼を言われる。


 年老いた者たちには、

 手を合わせられ、拝まれる。


 しまいには、

 道端で、供え物まで置かれた。


 ……身に余るほどの待遇である。


 当のクラリスたちは、

 終始、居心地が悪そうだった。


 恐縮しきりで、

 どう振る舞えばいいのか分からない様子だ。


 そして――

 約束の日の朝が来た。


 クラリス、ナディア、アカネは、

 生贄を装うため、白いマントを羽織る。


 俺が先頭に立ち、

 四人で、祭壇へと向かった。


 山道を進み、

 やがて、視界が開ける。


 広い空間の中央に、

 祭壇が、ぽつんと置かれていた。


 その前に立つ、娘たち。


 息をひそめ、

 固唾を呑んで、待ち構える。


 ――そのとき。


 森の奥から、

 人影が現れた。


 ぞくり、とするほどの、強烈な気配。


 間違いない。

 人の姿に化けた、ヤマタノオロチだ。


 娘たちが、身構える。


 決戦の火ぶたが、

 今にも切られようとしていた。


 そして、

 ヤマタノオロチは、

 俺たちの前に、

 はっきりと姿を現した。

 

 それは――


 とんでもなく、

 整った顔立ちの、

 美青年だった。


「あ、かっこいい」


 娘たちから思わず声が漏れた。


 その視線は、

 一瞬で、青年に釘付けになっていた。


 ……嫌な予感しかしない。

 

「君たちが、今回の娘たちかい」


 声音は、驚くほど穏やかだった。


「あっ、はい」

 クラリスが、もじもじしながら答える。


 アカネは、なぜかマントの裾を払って身なりを整えはじめ、

 ナディアは、前髪にそっと手をやった。


 ……おいおいおい。


「じゃあ、いこうか」


「あっ、はい」


 そのまま、

 何の疑いもなく、

 ヤマタノオロチについていこうとする娘たち。


 ……おいおいおい!


 俺は、慌てて手をかざし、

 ヤマタノオロチめがけて火球を放った。


 火球は、

 娘たちの横をすり抜け、

 ヤマタノオロチの背中に直撃する。


「ちょっと、ルドさん!」

「いきなり、なにするんですか?」

「オロチさん、大丈夫ですか?」


 ――待て待て待て。

 お前たち、誰の味方だ。


 まったく。

 若者というのは、どうしてこうも面食いなのか。


 ……まあ。

 自分の若い頃を思えば、

 あまり人のことは言えんが。


「きさま……なにものだ?」


 振り返ったヤマタノオロチの顔は、

 すでに、先ほどの美青年のものではなかった。


 裂けた口。

 鱗に覆われた頬。

 冷たい、蛇の眼。


「ひっ!」


 娘たちは、

 一斉に後ろへ飛び退く。


「勇者一行だ」

「お前を、退治しに来た」


「ああ?」


 その瞬間――

 ヤマタノオロチの体が、軋むような音を立てて膨れ上がる。


 人の姿は崩れ、

 巨躯の大蛇が現れた。


 でかい。

 八つの首が、こちらを見下ろしている。


「人間め……」

「ふざけた真似を」


「この場で、喰らってくれようぞ」


 娘たちは、

 白いマントを一斉に脱ぎ捨て、

 慣れた動きで陣形を取った。


 ――ようやく、

 決戦の時間だ。

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