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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第2章

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24港町ルミエール、夏のひととき

「海の幸が食べたいわ!」

 アカネの一言で、行き先は即決した。


「せっかく、海まで来たんだしね!」

「おいしいもの、食べたい!」


 行き先は、港町ルミエール。

 白い石畳の港町。

 海鮮、市場、土産物、音楽――観光地として名高い場所だ。


 俺たちは、海沿いの街道をゆく。

 右手には海と砂浜。

 左には青々とした山々。

 青空には入道雲が浮かび、

 街道沿いには、さまざまな店が立ち並び、人々でにぎわっている。


 ただ歩いているだけで、自然と気分が浮き立ってくる。


 娘たちは、昨日の海水浴でよく焼けた小麦色の肌を太陽にさらし、

 露店で買ってやったイカの丸焼き串にかぶりつきながら、

 意気揚々と先を進んでいく。


「わたしね」

 ナディアが、ふと思い出したように話し出す。

「王宮でお世話になっていた時、

 ソフィア様に、いろいろなところへ連れていってもらったの」


「困っている人たちのところ。孤児院や治療院……」

「私の知らない世界が、そこにはいっぱいあった」


 潮風に吹かれながら、ナディアは続ける。


「あの御年で、人々を助けて、皆に慕われて……

  すごい人だと思ったわ。さすが聖女」

「少し、あこがれた」

「わたしも、あんなふうになりたいな、って思ったの」


「うむ」

 俺は、うなずく。

「ナディアなら、ソフィアの後継者になれると思うぞ」


「そうかな?」

 少し照れたように、ナディアが首をかしげる。


 それを聞いていた二人が、すぐに答えた。

「うん」

「ナディアなら、なれるよ」


「ありがとう」

 ナディアは、はにかんで笑う。

「ソフィア様には、ほんとにいっぱいお話してもらったの」


 そして、何気ない調子で付け加えた。


「そういえば、ソフィア様ね。

 『ルドが、良い人と一緒になれて良かった』って言ってたわ」


「ずっと気にかけていたんだって。

 『ルドには、少し気の毒な思いをさせたから』って」


「……?」


 ソフィアは、俺の気持ちに気づいていた、ということか?

 そんなそぶりを見せたことはなかったはずだが。

 女の感、というやつか。

 それとも、俺が分かりやすすぎただけなのか。


 だとしたら――合わせる顔がない。


「え、ルドさん、なにされたの?」

 クラリスが、無邪気に聞いてくる。


「さあな」

 俺は視線を逸らしつつ答える。

「まったく、心当たりはないのだが」


「ほんとに?」

 アカネが、じっと見てくる。


「ああ。ずっと、昔のことだしな」


「あやしいなー」

 ナディアが、くすっと笑った。


 どうやら、娘たちも「女の感」とやらを持っているらしい。

 変な汗が、背中を伝う。

 


 夕方。

 前方に、港町ルミエールが見えてきた。


 カモメが鳴いている。

 街は夕日に照らされ、

 まるで宝石のように、美しく輝いていた。


 娘たちは、街が見えると同時に駆けだした。

 我先にと石畳を踏み、

 街に入ってすぐのところにあった食堂へ、そのまま飛び込む。


 まずは、腹ごなし――というところだろう。


 案内されたのは、テラス席だった。

 眼下には海が広がり、

 水平線の向こうへ、夕日が沈もうとしている。


 オレンジ色に染まる海。

 ゆっくりと色を変える空。


「きれい……」


 娘たちは、揃ってため息をついた。


 そして――

 間を置かず、次々に海の幸を注文し始める。


 焼き魚。

 貝の蒸し物。

 香草をまぶした白身魚。

 皿が運ばれるたび、テーブルはみるみる埋まっていった。


 娘たちは、

 遠慮もなく、

 迷いもなく、

 片っ端から平らげていく。


 俺は、その見事な食いっぷりを眺めながら、

 エールをぐびっと喉に流し込んだ。


 うまい。


 夏。

 海。

 そして、冷えたエール。


 ――最高ではないか。


 沈みゆく夕日と、賑やかな食卓。

 このひとときが、

 ずっと続けばいいと、

 そんなことを思ってしまうほどには。



 翌朝。

 クラリスは浜辺に座り、剣を掲げ、目を閉じて詠唱をしていた。


 俺は、その隣に腰を下ろし、静かに様子を見守る。


 アカネは少し離れた場所で素振り。

 ナディアは海を背に、朝の祈りを捧げている。

 それぞれが、それぞれの鍛錬に励んでいた。


 そして――

 その合間に行われるのが、クラリスと俺の魔術の特訓だ。


 これが、いつの間にか定着した、娘たちの毎朝のルーティンだった。


 クラリスの集中が、さらに深まる。

 潮騒の音が遠のき、

 最後の詠唱が、静かに紡がれる。


 ――そして。


 ぼう、と、淡い炎が剣を包んだ。


 通常、魔術師や神官は、魔術を使う際に杖を持つ。

 杖は、魔力を一点に集め、

 術の暴発や暴走を防ぐためのものだ。


 だが、勇者であるクラリスは、杖を持たない。

 その代わりとして、剣を使わせている。


 剣は武器であると同時に、

 彼女にとっての「魔力の焦点」でもあった。


 クラリスは、ゆっくりと目を開ける。


「やった。成功!」


「ああ。上出来だ」


 飲み込みが早い。

 やはり、クラリスには魔術の素質もあった。

 そろそろ、実戦でも使わせられそうだ。


「おーい」

「朝ごはんにしよー」


 浜辺の向こうから、

 ナディアとアカネの声が飛んでくる。



 朝食後は、街の散策だ。

 にぎやかな街で、

 見るものにも、食べるものにも事欠かない。


 娘たちは、

 あちらを覗いては立ち止まり、

 こちらで何かを買っては口に運び、

 実に精力的に街を巡っていた。


 ただ――

 とにかく、人が多い。


「ねえ、どこから来たの?」

「みんな、かわいいね」

「よかったら、これから、俺たちと…」


 人混みの中で、

 ときおり、同世代の男子が声をかけてくる。


「ごめんー。おじいちゃんが一緒なの」

「すぐ、どっか行っちゃうから」

「目を離せないの」


 そのたびに、

 俺を盾にして、やんわりと断る娘たち。


 しかし、男子たちが去っていくと――


「タイプじゃない」

「ちょっと、違うよね」

「三十二点かな」


 辛辣である。

 女は怖い。

 

 だが、こうしてみると、普通の女の子たちである。


 本来であれば、

 青春を謳歌している年頃だろうに。

 魔王退治という責務を果たそうとしている彼女たちには、

 素直に頭が下がる。


 かつて、自分もそうだった。

 若い時間を犠牲にし、

 自身の運命と宿命のために生きる。


 少し、残酷な気もする。

 だが、それもまた、

 人のひとつの生き方なのだと思う。


 生まれながらに自由な人間などいない。

 人はそれぞれ、役割を背負って生まれてくる。


 ただ――


「ルドさん。あれ、おいしそう。たべたい!」


 そう言って、

 屈託なく露店を指さす彼女たちを見ていると、

 この旅の中で、

 彼女たちなりに、きちんと楽しんでいるのが分かる。


 それなら、

 まあ――なによりだ。

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