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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第1章

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22/35

22ビーチから始まる魔王討伐

 俺たちは、

 白浜の町――

 ルミエール浜に到着した。


 着くなり、娘たちは歓声を上げて走り出す。


 青い空。

 白くきらめく海。

 どこまでも続く白浜。


 荷物を海の家に預け、

 俺たちは水着に着替えた。


 娘たちは、それぞれワンピースの水着に身を包んでいる。

 実に、華やかだ。


 クラリスは、鮮やかな黄色のワンピース。

 手にはビーチボール。


 アカネは、黒のシックなワンピースにシュノーケル。

 すでに泳ぐ気満々だ。


 ナディアは、花柄のワンピースに浮き輪。

 胴に通して、ぷかぷか浮かぶ準備をしている。


 全員、遊ぶ気しかない。


「ルドさん! いくよー!」


 俺はそのまま手を引かれ、海へと引きずり込まれた。


 照りつける太陽の下、

 冷たい海水が、火照った体に心地いい。


 クラリスはビーチボールを高く放り上げ、

 アカネは潜り、

 ナディアは浮き輪に揺られて漂っている。


 娘たちは、文字どおり大はしゃぎだった。


 海水浴など、フローラが小さかったころ以来だ。


 一通り遊び尽くしたあと、

 俺たちは浜辺へ戻る。


「ルドさん、埋めてあげる!」


 有無を言わさず、俺は砂浜に仰向けに寝かされ、

 娘たちに埋められた。


 温かい砂の重みが心地よい。

 このまま眠ってしまいそうだ。


 そんな俺の横で、

 クラリスがビーチボールを抱えあげ、元気よく言う。


「よし!じゃあ、もうひと泳ぎしよっか!」

 

 ――そのとき。


 前方から、

 ひときわ強い気配が漂ってきた。


 視線を向けると、

 深紅の水着に身を包んだ女性が、こちらへ歩いてくる。


 ――魔女レティシア。


 艶やかな深紅のビキニ姿の彼女の後ろには、

 短パン型の水着を着た屈強な男。

 以前見た部下だ。


 部下はパラソルを差し、

 レティシアに影を作っている。


 しかし――

 レティシアは、抜群のプロポーションだった。

 

 周囲の男たちは、軒並み釘付けだった。


 娘たちも、その気配に気づく。


「こんなとこまでついてきたの?」

「この前は、よくもナディアを!」

「やる気? ねえ、やる気?」


 多くの視線が集まる中、

 レティシアと娘たちは、砂浜で向かい合う。


 大人の余裕をまとった魔女レティシア。

 ビーチボールとシュノーケルと浮き輪の娘たち。

 

 残念ながら――

 初手は、レティシアの圧勝と言わざるを得ない。


「こ、このやろう!」


 こらえきれず、

 クラリスがビーチボールを投げつける。


 レティシアは、それをパシッと払いのけると、

 わずかに口角を上げる。


「少し――話をしないか?」


 一瞬の沈黙。


 娘たちは息をのみ、

 次に続く言葉を待った。


「やきそばを、ご馳走しよう」


「いいだろう!」


 クラリスが、即答した。

 

 

 海の家。


 低いテーブル席に、

 俺たちは向かい合って座っていた。


 クラリス、ナディア、アカネ。

 三人が並んで腰掛けている。


 その正面に、

 魔女レティシアと、その部下の男。


 そして――

 両陣営の、ちょうど真ん中に、俺。


 もぐもぐ。

 もぐもぐ。


 先ほどから、娘たちは焼きそばに夢中だ。

 いっぱい遊んで余程おなかが空いていたのだろう。


 ――それにしても。


 本来、勇者パーティというものは、

 自ら試練に向かい、鍛錬を重ねていく存在だ。

 試練なくして、魔王に対抗できる力は得られない。


 ……はずなのだが。


 この娘たちは、試練に向かおうとしない。

 避けて通っている、というより――

 完全に、眼中にない。


 強くなるために危険へ飛び込む、

 などという発想が、そもそも存在しないのだ。


 非常に、困ったものだと思う。


 だがしかし。


 この勇者パーティの場合、

 わざわざ試練のほうが、向こうからやってくる。


 ――レティシア、という姿で。


 そしてそのたびに、

 娘たちはその試練を乗り越え、

 確実に、少しずつ、強くなっていく。


 正直に言えば――

 ありがたい。


 当初は、彼女の登場を警戒していた。

 いや、むしろ厄介な存在だとすら思っていた。


 だが、いつの間にか。

 俺は、レティシアの姿を見て――

 どこか、感謝の念を抱いている自分に気づいた。


 彼女は、必要なときに――

 試練を伴って、きちんと現れてくれるのだ。

 

 もしそれを無意識でやっているのだとしたら、

 かなり筋金入りの天然である。

 


「今日はな。お前たちに――苦言がある」


 不意に、レティシアが切り出した。


「ちゅる?」


 クラリスが焼きそばをすすりながら、顔を上げる。


「どうも、

 お前たちは大人に頼りすぎだ。少し、甘えすぎではないか?」

「勇者パーティなら、本来は――

 若い自分たちの力で、難局を乗り越えるべきではないのか?」


 クラリスが、勢いよく箸を置く。


「ルドさん! この人、すごくひどいこと言ってます!」

「なんとか言ってやってください」


 しかし、

 俺は思わず感心し、肩をすくめた。


「いや。この魔女……至極まっとうなことを言っているぞ。」


「そ、そんな……!」


 クラリスが、目を見開く。


「さすがだな、大魔導士殿。話が分かる」


 レティシアは、満足そうにうなずいた。


「ならば、行動を改めるべきだ」

「まずは、

 この大魔導士殿に――

 パーティから外れてもらうのが良いのではないか?」


 ふむ。俺を外し、戦力を削ぐ算段か?


「だめです!」


 即座に、クラリス。


「ほかに、適任者がいないの!」


 ナディアも続く。


「魔法使いなしで、魔王に勝てるわけないでしょう?」


 アカネが、きっぱりと言い切った。


「ふむ」


 レティシアが、腕を組む。


「それとも――」

 クラリスが身を乗り出す。

「ルドさんの代わりに、あなたがパーティに入ってくれるの!」


 ……おいおい。

 魔王の幹部を勧誘する勇者なんて、初めて聞いたぞ。


「ほう。それは面白い発想だ」


 レティシアは、楽しそうに口角を上げた。


「前向きに検討してやってもいいぞ」


「ほんと!?」


 クラリスの目が輝く。


 いや、なぜそんなに嬉しそうなんだ。

 話が、完全におかしな方向へ進み始めている。


 これはまずい。

 流れを変えねば――


 その時、

 

「それは、だめ!」


 アカネが、ぴしゃりと言った。


 そして、レティシアの全身を下から上まで、じっくりと眺め――


「この人、ぜったい」

「おいしいところ、ぜんぶ一人で持っていくわよ!」


「あ」


 ナディアが、納得したように声を漏らす。


「そのとおりだわ」


「……あぶないところだった」


 クラリスが、胸をなで下ろす。


「この話は、なしよ!」


 レティシアは、呆れたように両手を上げた。


「まあ、いいだろう。今日はこの辺にしておこう」

「どうせ、今回は――バカンスのついでだ」


 そう言い残し、颯爽と海の家を後にする。


「また、会おう」


 勇者たちは、その背中に向かって、

「やきそば、ごちそうさまー」

 手を振る。

 

 俺は、やきそばをすすりながら、思う。

 

 俺たちは、

 とうとう“ことのついで”にされてしまったらしい。


 しかし――

 本当に、あの魔女は敵なのだろうか。


 正直なところ、

 分からなくなってきた。



 レティシアとの対峙後も、

 何事もなかったかのように

 娘たちはめいっぱい遊び尽くした。


 そして、

 太陽は西の地平線へと傾き、

 海が夕焼け色に染まるころ、

 俺たちは、海の家に落ち着いた。

 

 娘たちは、夕食を兼ねてテーブルを囲み、

 地図を広げて次の目的地を選び始めた。


「ねえ、次の『アカネの行きたい場所百選』は、どこ行くの?」


 クラリスが、やけにノリノリでアカネに問いかける。


「海の次なら、山?」

 ナディアも身を乗り出して催促する。


 だが、当のアカネは――

 いつもよりずっと真剣な顔で、地図を見つめていた。


 そして、ぽつりと口を開く。


「……わたし、行きたいところがあるの」


「うんうん。どこ?」

「どこでもいいよー」


 期待に満ちた二人の視線を受け止め、

 アカネは少しだけ照れくさそうに言った。


「うんとね」


「うん」


「……魔王城」


 一瞬の沈黙。


 次の瞬間、

 クラリスが見事なまでに腰を抜かした。


「えええ!?」

「アカネちん、なに言ってるの!?」


 アカネは、いたって真剣な顔のまま続ける。


「わたし、魔王と戦ってみたい」

「剣士として、

 目指すべき頂点は……

 やっぱり、魔王との一騎打ちだと思うの」


「ルドさん!」

 クラリスがアカネを指さし、俺に詰め寄る。

「アカネが、へんなこと言い出したよ!」


「いや、アカネ。えらいぞ」

「それでこそ、勇者パーティだ」


「感心してる場合じゃないでしょう!」

 クラリスが叫ぶ。


 助けを求めるように、ナディアを見る。


 だが――


「でも、わたし、魔王にも負ける気しないな」


 最近やたらと自信過剰なナディアが、さらっと言った。


「ナディアまで……!」


 クラリスは、言葉を失ったまま固まった。


 結局。

 ひとり最後までだだをこね続けたクラリスをなだめる形で、

 折衷案が提示された。


 ――アカネの「行きたい場所百選」を順に巡りながら、

 最終的に魔王城を目指す、というルートだ。


 かくして、

 前代未聞の“観光経由・魔王城到達ルート”が誕生した。


「これなら、魔王城に着くころには、

 私たち、もっと強くなってるよ」


 アカネのその慰めにも、

 クラリスはまだ、完全には踏ん切りがつかない様子だ。


「……いいわ。わかったわ」

「でも、なるべく、ゆっくり行きましょうね。ね?」


 メンバーに首根っこを引っぱられながら進む勇者なんて、

 ――俺は、これまで一度も見たことがない。


 なにはともあれ――


 ようやく、

 この勇者パーティは、スタート地点に立った。

  

 ビーチから始まる、魔王討伐の旅。

 

 いかにも、

 この娘たちらしいではないか。

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