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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第1章

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21勇者の条件

 夏の日差しが、容赦なく照り付ける。


「そういえば――」

 ふと、ナディアが言った。

「私たち、海に行く途中だったよね」


 その一言で、次の目的地は決まった。


「海が呼んでいるわ!」

「行くなら、今しかないよ!」


 向かうは、

 

 白浜の町――

 ルミエール浜。



 道中、魔物には何度も遭遇した。


 ゴブリンの群れ。

 コボルトの群れ。

 オークの集団。


 だが――


 アカネの剣は、

 以前とは比べものにならないほど、研ぎ澄まされていた。


 一段、二段――

 否。

 それ以上だ。


 迷いがなく、

 無駄がなく、

 踏み込みには、確かな覚悟が宿っている。


 そして、

 力を取り戻したナディアから放たれる、無詠唱の魔法。


 詠唱も、溜めもない。

 ただ、意思と同時に現象が起こる。


 結果は――


 瞬殺。


 戦いと呼ぶには、あまりにも短い。



 森の中。

 朝。


 俺は、少し遅れて目を覚ました。


 昨夜は夜明け近くまで見張りに立っていた。

 そのせいだろう。

 どうやら、寝坊したらしい。


 身を起こすと、

 焚火のそばで、クラリスが一人、鍋をかき混ぜていた。


「ルドさん、おはよう」

「朝ごはん、食べる?」


「ああ。おはよう」


 伸びをしながら、周囲を見渡す。


「ナディアとアカネは?」


「ナディアはね」

「朝のお祈りをしに行ったよ。

 ソフィア様のまねなんだって」


 そう言って、森の奥を指さす。


「アカネは、向こうで素振りしてる」

「先生の技、できるようになりたいんだって」


「そうか」


 それだけ答えて、焚火を見つめる。


 ぱちぱちと薪が弾ける音。

 鍋から立ちのぼる、湯気。


 しばらくして――

 クラリスが、ぽつりと呟いた。


「……ふたりとも、すごいよね」


「……」


「アカネは、剣がどんどん強くなってるし」

「ナディアは、あんな魔法を当たり前みたいに使うし」


 鍋をかき混ぜる手が、少しだけ止まる。


「それに比べて……」


 クラリスは、小さく息を吸った。


「私って、中途半端だよね」

「剣じゃ、アカネにかなわないし」

「ナディアみたいに、魔法も使えないし」


 そして、

 焚火の向こうにいる俺を見て、問いかける。


「ねえ、ルドさん」


「勇者って……なんなんだろう?」


 ようやく、その疑問にたどり着いたか。

 その問いが口をついたということは、

 クラリスが「勇者」という存在に、真剣に向き合い始めた証だ。

 それは、確かな成長のあかしだった。


「俺はな。勇者の、勇者たるゆえんは――三つあると思っている」


 過去、共に戦った勇者たちの顔を思い浮かべながら、そう答えた。


 クラリスが、まっすぐに俺を見つめてくる。

 その瞳に、ほんのわずかだが、確かな光が宿っていた。


「ひとつめ」


 俺は、静かに言葉を継ぐ。


「魔王は、それぞれが特殊で強力な力を持っている。

 その性質は、魔王ごとにまったく違う」


 一拍置いて。


「そして勇者は――その力に、対抗できる力を持つ唯一の存在だ」


「対抗……できる力?」


「そうだ」


 記憶をたどるように、ゆっくりと語り出す。


「俺が最初に戦った魔王は、強力な精神魔法を操っていた。

 幻影、眠り、混乱……。

 俺もソフィアも、それに散々苦しめられた」


 言葉を切り、過去の戦場を思い返す。


「だがな。勇者エドガルには――その精神魔法が、一切効かなかった」


 クラリスが、小さく息を呑む。


「そんなエドガルにとって、魔王を倒すことは……

 それほど難しい戦いじゃなかった」


 それが、ひとつめだ。


「ふたつめ。勇者の武器は、その汎用性だ」


 今度は、少しだけ口調を和らげる。


「時には戦士と並び、前線で剣を振るう。

 時には神官と共に、仲間を支える側に回る」


 天性のオールラウンダー。


「剣も振れる。

 状況も読める。

 無茶もできるし、引く判断もできる」


 そして――


「パーティが最大限の力を発揮できるように、立ち回れる」


 誰が前に出るべきか。

 誰が守られるべきか。

 誰が、今、力を必要としているか。


「その中心に、自然と立てるんだ」


 勇者とは、尖った刃ではない。

 刃を“活かす柄”のような存在だ。


「みっつめ」


 そこで、わずかに声を落とす。


「カリスマ性だ」


 クラリスの目が、わずかに見開かれた。


「命令しなくてもいい。

 説得しなくてもいい」


 ――そこに、いるだけで。


「皆が、一歩、前に出られる」


 剣を握る手に、力が戻る。

 詠唱の声が、ぶれなくなる。

 祈りが、届くと信じられる。


「勇者の存在そのものが、パーティに力を与える」


 そして、静かに結ぶ。


「神はな。

 これらの資質を持つ者を――勇者として選ぶんだ」


 俺の話を聞いて、

 クラリスは、少し元気を取り戻したように見えた。


「そうなんだね……。でも、まだ、ちょっとピンとこないなあ」


「そうだろうな。まだ、勇者に選ばれたばかりだ」


 俺は、肩をすくめる。


「だが、焦る必要はない。

 これまでの勇者も、皆同じ道を通ってきた。

 歩みを止めずにいれば――

 やがて、自分が進むべき道は、おのずと見えてくる。」


「……わかった」


「とはいえ」


 少し笑って、付け加える。


「すぐに効果が出そうな、具体的な手立ても欲しいところだろう」


「それ」


「なら、簡単な呪文の詠唱を練習してみるか?

 勇者に選ばれたんだ。そっちの才覚も、きっとある」


「うん……。わたし、やってみようかな」


「よし。じゃあ、少し手ほどきしてやろう」


「はい。お願いします」


 そのとき――

 アカネとナディアが、ちょうど戻ってきた。


「おなかすいたー。あ、ルドさん起きた」

「ねえ、みんなで朝ごはんにしようよ」


「よし。今、よそってあげるね」


 クラリスの声は、もう迷いを感じさせない。

 すっかり、元気を取り戻していた。

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