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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第1章

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15聖女と剣聖

 エルディーン王国。

 王都ヴァル=ルクス。

 王宮・謁見の間。

 夕刻。


 玉座には、国王エドガル・レオンハルト。

 その周囲を、城の兵と重鎮たちが固めている。


 俺とクラリス、アカネは、揃って膝をつき、礼を取った。

 その隣で、犬ナディアが、おとなしくお座りしている。


 ひととおり、ことの顛末は説明した。

 魔女レティシアの襲撃。

 変化の呪い。

 そして、王妃ソフィアの力を借りたいという願い。


 玉座の上で、エドガルが大きくうなずく。


「勇者一行よ、魔王討伐の旅、ご苦労である。

 大魔導士エルディーン卿。そなたの望み、承知した。

 まもなく、ソフィアも戻るだろう。

 積もる話もある。

 この後は、別室にて、先の手立てを検討するとしよう」


 厳かにそう告げると、

 エドガルは立ち上がり、踵を返した。


 俺たちは、そのまま別室へと案内される。



 通されたのは、

 狭いが、落ち着いた小部屋だった。


 部屋にいるのは、

 エドガルと、俺たちだけ。

  

 犬ナディアには、椀に水が用意され、

 ぺろぺろと、実においしそうに舐めていた。


 ソファーにエドガルが腰掛け、

 促されて、俺たちも向かいに座る。


 とたんに、

 エドガルの表情が、がらりと変わる。


「なに? ルド。

 魔法、食らっちゃったの?

 お前がいながら?

 しょーがないやつだなー」


 あまりにも砕けた口調に、

 クラリスとアカネが、目を見開いたまま固まる。


「そう言うがな。

 あの魔女、強いぞ?

 お前なんて、転がされて終わりだぞ」


 俺の遠慮のない返しに、

 二人の仰天は、さらに深まった。


 ――王様に向かって、なんて口を。


 だが、俺たち三人は、

 かつて、同じ旅をした仲間だ。


 魔王討伐の旅を共にした、

 親友と言っていい。


 立場は変わっても、

 その関係まで変わることはない。


 思えば、大変な旅だった。

 命の危険も、絶望も、数えきれないほどあった。


 それでも――

 俺とエドガルと、ソフィアの三人旅は、

 本当に楽しく、幸せな時間だった。


 そのとき。


 ドアが、勢いよく開いた。


 バタン、という音とともに、

 一人の女性が飛び込んでくる。


「ルド!

 ひさしぶりじゃない!

 元気してた?」


 そう言って、

 彼女は迷いなく、俺の手を握った。


 王妃ソフィア・レオンハルト。


 もう齢七十だというのに、

 その態度は、若いころのままだ。


「ああ。

 ソフィアも、元気そうでなによりだ」

 喉の奥から、ようやく言葉を引きずり出す。


 ソフィアは、今でも各地を巡り、

 困っている人々を助けて回っている。


 その正義感と、底知れぬ行動力。

 今なお“聖女”と慕われる理由だろう。


 ……しかし。


 この距離感は、本当に困る。


 なお、ソフィアに、

 俺の想いを伝えたことは、一度もない。


 旅の中で、

 彼女とエドガルが惹かれ合っていくのを、

 目の前で見ていた。


 ――言えるわけがなかった。


「まあまあ、勇者のみなさん。

 あら、かわいいじゃない」


 そう言って、

 ソフィアはクラリスとアカネの手も、順番に握って回る。


 二人は、

 最初から最後まで、硬直したままだった。



「この呪い、解けるわよ」


 膝の上に犬ナディアを乗せ、

 その柔らかな毛並みを撫でながら、

 ソフィアはさらりと言った。


 その一言で、

 クラリスとアカネの表情が、一気に緩む。


 肩の力が抜け、

 張り詰めていた息を、同時に吐き出した。


 ソフィアは、人を安心させる。

 昔から、そうだった。


 言葉に、不思議な力があるのだ。


「ただし、材料が必要ね」


 その一言で、

 空気が、ぴしりと引き締まる。


 ソフィアは、犬ナディアの額に指を当て、

 じっと魔力の流れを読むように目を細めた。


「変化の呪い自体は、そう難しくないわ。

 でもこれは……二重構造。

 しかも、核が深いところに仕込まれている」


 犬ナディアが、

 不安そうに小さく鳴く。


「ワン……」


「大丈夫よ。痛いことはしないわ」


 そう言って、

 ソフィアは優しく笑った。


「必要なのは――

 竜血苔りゅうけつごけ


 聞き慣れない名に、

 クラリスとアカネが顔を見合わせる。


「竜の魔力を吸って育つ、特殊な苔よ。

 変化系の呪いを“引き剥がす”のに使うの」


 俺は、思わず腕を組んだ。


 ――嫌な予感しかしない。


「その苔は、

 『ヴァルグ=ドラケン山』の中腹、

 竜の巣へ続く古い岩場に生えている」


 さらっと言うが、

 要するに――


 ドラゴンの縄張りだ。


「あなたたち、とってきてくれるかしら?」


 ソフィアは、本当にさらっと言った。


「……ドラゴン?」


 クラリスとアカネが、同時に固まる。


 言葉を失い、

 まばたきすら忘れたまま、

 ぴくりとも動かない。


「簡単に言ってくれるがな……」


 俺は、思わず渋い顔をした。


「ヴァルグ=ドラケン山は、

 ドラゴンの巣窟だぞ?」


 すると。


「あら?」


 ソフィアは、きょとんとした顔で首をかしげた。


「ドラゴンよ?

 あなたの奥さんについて行ってもらえば、いいじゃないの」


 ――奥さん。


 その単語が出た瞬間。


 隣で聞いていたエドガルが、

 ぱん、と手を叩いた。


「そうか、それもそうだ!」


 妙に楽しそうな声だ。


「ついて行ってもらえ。

 剣聖セリシア・ヴァル=エルディーンに!」


 ……そういうことか。


 俺は、ゆっくりと息を吐いた。


 妻、セリシア。


 年は、すでに六十を越えている。

 だが――


 いまだに現役だ。


 毎朝、鍛錬場に立ち、

 弟子たちを相手に剣を振っている。


 衰えなど、微塵も感じさせない。


 頼んでみるか。


 俺の妻。

 剣聖セリシア・ヴァル=エルディーン。


 二つ名は――

 ドラゴンスレイヤー。

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