13カフェ・ド・モードリスの攻防
モードリスでも指折りの洒落た喫茶店――
「カフェ・ド・モードリス」。
店の中央に設えられた、ゆったりとしたファミリー席に、
俺たちは向かい合って座っていた。
クラリス、ナディア、アカネ。
三人が並んで腰掛けている。
その正面に、
魔女レティシアと、その部下と思しき男。
そして――
両陣営の、ちょうど真ん中に、俺。
娘たちは、あからさまに警戒の視線を向けている。
対するレティシアは、肘をつき、余裕の微笑みを浮かべたまま。
店内に、目に見えない緊張が漂った。
他の客たちも、
ただならぬ雰囲気を察したのか、
ちらちらとこちらに視線を向けている。
――と、そのとき。
「モードリス特製パフェ、六つ、お待たせしました~」
明るい声とともに、
店員がテーブルにパフェを並べ始めた。
次の瞬間。
「なにこれ……すごい!」
「おっきい! これ、全部食べていいの!?」
「輝いてるよ! ねえ、神々しいよ!」
三人娘のテンションが、文字どおり跳ね上がった。
目は完全に、パフェに釘付けである。
層になった果実、きらめくソース、
山盛りのクリームと宝石のような飾り。
レティシアは、その様子を満足げに眺めてから、
軽く手を差し出した。
「どうぞ。召し上がれ」
「いっただきまーす!」
声を揃え、スプーンが一斉に突き立てられる。
「おいしー!」
「あまーい!」
「つめたーい!」
全神経が、パフェへと集中している。
そのとき。
「ところで――」
レティシアが、静かに切り出した。
その一言で、
娘たちの手が、ぴたりと止まる。
スプーンを握ったまま、
視線だけが、ゆっくりとレティシアへ向けられた。
「これまでの、お前たちの行動――実に不可解だ」
「魔王様も、理解に苦しんでおられる」
紅茶の湯気が、ふわりと立ち上る。
「だから今日は、お前たちと情報交換がしたい」
「もちろん、話せる範囲で構わない」
「お前たちが話せば、その分、わたしも話す」
「……どうかな?」
娘たちは、一斉にこちらを振り返った。
(この人、なんか難しい話を始めたので、よろしく)
――そんな顔である。
なるほど。
こちらを探りながら、手札を引き出そうという算段か。
知恵比べ、というわけだ。
「おもしろい。いいだろう」
俺が応じると、
レティシアは、くすりと笑った。
「ふふ。さすが、大魔導士殿。話が早い」
「では、わたしからでいいかな」
紅茶を一口含み、続ける。
「これまでの勇者パーティは、
まっすぐ魔王城を目指すか、
途中で鍛錬の地を巡るか――
だいたい、その二択だった」
「でも、お前たちは違う」
「温泉、遺跡、また戻って温泉連泊」
「挙げ句に、このモードリス」
「まるで、観光地を遊び歩いているようにしか見えない」
視線が鋭くなる。
「……いったい、どういう策略なのだ?」
「その通りよ!」
アカネが、ぱっと目を輝かせた。
「私が行きたい場所百選!」
「それを全部制覇するのが、旅の目的よ!」
(この娘、言い切りよった)
「……」
レティシアが、ゆっくり瞬きをする。
「すまないが、剣士よ」
「お前が何を言っているのか、さっぱり分からない」
すぐに気を取り直したように、話を続けた。
「まあいい。」
「では、次の質問だ」
「大魔導士殿に掛けた混濁魔法――
どうやって解いた?」
「王国に、新たな魔術師組織でも誕生したのか?」
「それは、私が解きました」
ナディアが、さらりと言った。
「……あなた、あれ。ちょっと、やりすぎよ」
「……」
レティシアは、じっとナディアを見つめる。
「どうしても、しらを切るつもりのようだな。まあいい」
そこへ、クラリスが口を挟んだ。
「あのね、あなた」
「私たちのこと、あんまり調べても――たぶん、無駄よ?」
「どういうことかな?」
「だって、わたしたち」
「もうすぐ、魔王退治をギブアップする予定ですもの」
「別の人を調べたほうが、いいんじゃない?」
「……」
そして、レティシアは声を上げて笑った。
「ははは。おもしろい」
「どこまでも、真実は語らぬか」
「魔導士殿……」
「よくも、ここまで仕立てたものだ」
「さすがだな」
(うむ。この魔女、なにか盛大な勘違いをしているようだが……
今は放っておこう)
「そろそろ、こちらから質問してもいいかしら?」
クラリスが切り出す。
「ふむ。よいだろう」
(これは好機だ。
魔王側の重要情報を――)
と、思った、その瞬間。
クラリスの瞳が、きらりと光った。
「あなた……」
「ふむ?」
「そのプロポーション」
「太らない秘訣は、なに?」
「!!」
ナディアとアカネの、
パフェと口を往復していたスプーンが、同時に止まった。
「ふふ……」
レティシアは、得意げに微笑む。
「まず大切なのは、運動より食事だ」
「特に――夜のおやつは、悪手!」
「ほう。」
「そこ、詳しく聞かせてもらおうかしら」
こうして。
場は完全に、女子トークへと突入した。
その横で、
俺と部下の男は、無言でパフェを食べ続ける。
――小一時間ほどが、経過した。
◇
「では、次は――戦場で相まみえよう」
手を振り、レティシアは街の人波へと消えていった。
「うん! またねー!」
娘たちが、元気よく手を振り返す。
……すっかり、打ち解けている。
いや。
打ち解けてどうする。
心の中で、ひとり突っ込む俺であった。




