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引退した大魔導士、孫娘勇者に魔王討伐へ引っ張り出される ~今日も老魔導士は、孫娘勇者を全力で甘やかす。~  作者: しばたろう
第1章

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13カフェ・ド・モードリスの攻防

 モードリスでも指折りの洒落た喫茶店――

 「カフェ・ド・モードリス」。


 店の中央に設えられた、ゆったりとしたファミリー席に、

 俺たちは向かい合って座っていた。


 クラリス、ナディア、アカネ。

 三人が並んで腰掛けている。


 その正面に、

 魔女レティシアと、その部下と思しき男。


 そして――

 両陣営の、ちょうど真ん中に、俺。


 娘たちは、あからさまに警戒の視線を向けている。

 対するレティシアは、肘をつき、余裕の微笑みを浮かべたまま。


 店内に、目に見えない緊張が漂った。


 他の客たちも、

 ただならぬ雰囲気を察したのか、

 ちらちらとこちらに視線を向けている。


 ――と、そのとき。


「モードリス特製パフェ、六つ、お待たせしました~」


 明るい声とともに、

 店員がテーブルにパフェを並べ始めた。


 次の瞬間。


「なにこれ……すごい!」

「おっきい! これ、全部食べていいの!?」

「輝いてるよ! ねえ、神々しいよ!」


 三人娘のテンションが、文字どおり跳ね上がった。


 目は完全に、パフェに釘付けである。


 層になった果実、きらめくソース、

 山盛りのクリームと宝石のような飾り。


 レティシアは、その様子を満足げに眺めてから、

 軽く手を差し出した。


「どうぞ。召し上がれ」


「いっただきまーす!」


 声を揃え、スプーンが一斉に突き立てられる。


「おいしー!」

「あまーい!」

「つめたーい!」


 全神経が、パフェへと集中している。


 そのとき。


「ところで――」


 レティシアが、静かに切り出した。


 その一言で、

 娘たちの手が、ぴたりと止まる。

 スプーンを握ったまま、

 視線だけが、ゆっくりとレティシアへ向けられた。


「これまでの、お前たちの行動――実に不可解だ」

「魔王様も、理解に苦しんでおられる」


 紅茶の湯気が、ふわりと立ち上る。


「だから今日は、お前たちと情報交換がしたい」

「もちろん、話せる範囲で構わない」

「お前たちが話せば、その分、わたしも話す」

「……どうかな?」


 娘たちは、一斉にこちらを振り返った。


(この人、なんか難しい話を始めたので、よろしく)


 ――そんな顔である。


 なるほど。

 こちらを探りながら、手札を引き出そうという算段か。

 知恵比べ、というわけだ。


「おもしろい。いいだろう」


 俺が応じると、

 レティシアは、くすりと笑った。


「ふふ。さすが、大魔導士殿。話が早い」

「では、わたしからでいいかな」


 紅茶を一口含み、続ける。


「これまでの勇者パーティは、

 まっすぐ魔王城を目指すか、

 途中で鍛錬の地を巡るか――

 だいたい、その二択だった」


「でも、お前たちは違う」

「温泉、遺跡、また戻って温泉連泊」

「挙げ句に、このモードリス」

「まるで、観光地を遊び歩いているようにしか見えない」


 視線が鋭くなる。


「……いったい、どういう策略なのだ?」


「その通りよ!」


 アカネが、ぱっと目を輝かせた。


「私が行きたい場所百選!」

「それを全部制覇するのが、旅の目的よ!」


(この娘、言い切りよった)


「……」


 レティシアが、ゆっくり瞬きをする。


「すまないが、剣士よ」

「お前が何を言っているのか、さっぱり分からない」


 すぐに気を取り直したように、話を続けた。


「まあいい。」

「では、次の質問だ」

「大魔導士殿に掛けた混濁魔法――

 どうやって解いた?」

「王国に、新たな魔術師組織でも誕生したのか?」


「それは、私が解きました」


 ナディアが、さらりと言った。


「……あなた、あれ。ちょっと、やりすぎよ」


「……」


 レティシアは、じっとナディアを見つめる。


「どうしても、しらを切るつもりのようだな。まあいい」


 そこへ、クラリスが口を挟んだ。


「あのね、あなた」

「私たちのこと、あんまり調べても――たぶん、無駄よ?」


「どういうことかな?」


「だって、わたしたち」

「もうすぐ、魔王退治をギブアップする予定ですもの」

「別の人を調べたほうが、いいんじゃない?」


「……」


 そして、レティシアは声を上げて笑った。


「ははは。おもしろい」

「どこまでも、真実は語らぬか」


「魔導士殿……」

「よくも、ここまで仕立てたものだ」

「さすがだな」


(うむ。この魔女、なにか盛大な勘違いをしているようだが……

 今は放っておこう)


「そろそろ、こちらから質問してもいいかしら?」


 クラリスが切り出す。


「ふむ。よいだろう」


(これは好機だ。

 魔王側の重要情報を――)


 と、思った、その瞬間。


 クラリスの瞳が、きらりと光った。


「あなた……」


「ふむ?」


「そのプロポーション」

「太らない秘訣は、なに?」


「!!」


 ナディアとアカネの、

 パフェと口を往復していたスプーンが、同時に止まった。


「ふふ……」


 レティシアは、得意げに微笑む。


「まず大切なのは、運動より食事だ」

「特に――夜のおやつは、悪手!」


「ほう。」

「そこ、詳しく聞かせてもらおうかしら」


 こうして。


 場は完全に、女子トークへと突入した。


 その横で、

 俺と部下の男は、無言でパフェを食べ続ける。


 ――小一時間ほどが、経過した。



「では、次は――戦場で相まみえよう」


 手を振り、レティシアは街の人波へと消えていった。


「うん! またねー!」


 娘たちが、元気よく手を振り返す。


 ……すっかり、打ち解けている。


 いや。

 打ち解けてどうする。


 心の中で、ひとり突っ込む俺であった。

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