エピローグ 「風の便り、光の記憶」
季節が、ひとつ巡った。
かつて黒い霧に沈んだ世界は、
今では柔らかな風と緑に包まれていた。
光葉の森の奥、澄んだ泉のほとり。
そこに、ひとりの少女が立っている。
――リュミナ。
相変わらず、髪は光を透かしてきらめき、
その笑顔は、朝日のようにやさしい。
「ふふ……静かだね、シルフ。」
『ねぇリュミナ、覚えてる? 最初にここに来たときのこと。
きみ、まだ歩くのもおぼつかなくてさ。』
「うん、あのときレイナおばあちゃんが名前をくれた日だよね。
“リュミナ――光を紡ぐ者”。」
『もうすっかり、世界を照らす存在になっちゃったけどね。』
リュミナは微笑んで、泉の水面を覗き込む。
水の中には、過去の記憶がゆらめいていた。
カイルと戦った日。
彼と笑った朝。
あのとき見た“黎明の光”。
「……カイル、元気かな。」
彼は今、王国の再建に力を貸している。
滅びかけた街に再び人が戻り、
“黎明の剣士”として、人々に語り継がれている。
『ねぇ、会いに行かないの?』
「ううん、いいの。
彼には“人の世界”があるから。
わたしはこの森で、見守ってるのがいちばん。」
『ほんと、変わらないね。
あいかわらず優しくて、ちょっと強がり。』
リュミナは少し笑って、手をかざした。
光が集まり、ひとつの花が咲く。
その花は淡く輝きながら、空へと舞い上がった。
「カイルに届くといいな。
この森の風が、あなたの頬を撫でたら……
それは、わたしの“ありがとう”だよ。」
風が吹いた。
花びらが散り、森を抜けて、遠い空へと消えていく。
やがて、レイナの声が風に乗って響いた。
『リュミナ。世界は光と闇が巡る輪。
でも、その真ん中にはいつも――“想い”がある。
あなたが紡いだ光は、これからも誰かの道を照らすわ。』
「……うん。わたしも、そう信じてる。」
リュミナは目を閉じた。
森の音、風の歌、精霊たちの囁きが耳に届く。
どこか遠くで、カイルが空を見上げる姿が見える気がした。
同じ風を感じながら、同じ光の下で――。
『行こう、リュミナ。新しい朝が来るよ。』
「うん。今日も、誰かのために光を紡ごう。」
森がきらめいた。
無数の光の粒が舞い上がり、
空を渡る風の中で、まるで祝福のように輝く。
その光は、遠く離れた人々の心に届き、
優しさという名の炎を、静かに灯していった。
Fin.




