第3話 初めての魔法
朝の光が、森の葉を透かして降り注ぐ。
リュミナは泉のそばで、羽をばたつかせる小さな相棒──シルフを見つめていた。
「シルフ、もう飛べるようになったね!」
『きゅい!』
青い鱗が朝日にきらめく。
翼を広げたシルフは、少しぎこちなくも空を舞い、リュミナの頭の上を一周して戻ってくる。
まるで、「見てて!」と自慢しているようだった。
「ふふっ、上手上手! ……あ、でも気をつけてね。泉に落ちたらまた風邪ひくよ!」
『きゅい〜!』
レイナがその様子を見て、穏やかに笑った。
『リュミナ、君は本当にこの森に光を運んできたね。』
「え?」
『前はね、ここまで明るくなかったの。あなたが来てから、木々も、泉も、まるで春を迎えたみたいなのよ。』
リュミナは少し頬を赤らめた。
「わたし……そんな大したことしてないよ」
『してるわ。あなたは“精霊の心”そのもの。光を分け与える力があるの。』
「……光を、分け与える……?」
レイナは手を広げ、優しく微笑む。
その掌から、ひとすじの光が舞い上がった。
『それが、“魔法”。精霊にとっては呼吸のようなもの。心が温かいほど、光はきれいに形を変えるの。』
リュミナはじっとその光を見つめた。
淡い粒が空気の中で踊り、やがて小さな花の形になって散っていく。
「わたしにも……できる?」
『もちろん。リュミナならきっと。心の中に浮かんだ“想い”を信じてごらん。』
リュミナは深呼吸をした。
胸の中に、泉の音、風の香り、シルフの鳴き声……そして“この世界が好き”という気持ちを思い浮かべる。
手を前に出し、そっと呟いた。
「──ひかり、でて……!」
一瞬の静寂。
……そして。
ぽんっ!
手のひらの上に、ふわりと小さな光の花が咲いた。
「わあっ……!」
シルフがくるくると回って喜び、レイナが目を細める。
『見事よ、リュミナ。あなたの魔法はとても優しい。光の精霊にしか生み出せない“癒し”の花ね。』
「癒し……?」
『この花に触れた者の傷は、ゆっくりと癒えていくわ。命をつなぐ力……それが、あなたの魔法。』
リュミナは花をそっと胸に抱きしめた。
暖かい。まるで、心そのものが灯っているようだった。
『魔法は力じゃないの。想いの形なの。怒りや恐れよりも、誰かを想う心が一番強い。』
レイナの言葉を聞きながら、リュミナは空を見上げた。
森の上には、あの金色の月が、昼でもうっすらと輝いていた。
「ねぇ、レイナ。私、この力で誰かを助けたい。森だけじゃなくて、もっと遠くの誰かも。」
『……その願いが、やがてあなたを導くでしょう。』
レイナは少し寂しげに微笑んだ。
それが、まるで“別れ”を予感しているようで——
リュミナの胸がきゅっと痛んだ。
『でも今は、ここでたくさん笑いなさい。世界は、笑う子を守るものだから。』
リュミナはうなずいた。
シルフが肩に飛び乗り、小さな鳴き声をあげる。
『きゅいっ!』
そして、森の奥から一陣の風が吹き抜けた。
風の中に、見知らぬ“声”が混じっていたような気がした。
『……助けて……』
リュミナは振り返る。
「……今の、声?」
レイナの表情がわずかに変わる。
『……聞こえたのね。リュミナ……どうやら、あなたの物語が少し動き始めたみたい。』
森の奥の影が、静かに揺れていた。
リュミナは光の花をぎゅっと握りしめる。
胸の奥で、小さな勇気の種が芽吹いていた。
第3話 完




