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第2話 森の奥のドラゴンベビー

 朝の森は、まるで歌っているようだった。

 木々の葉が風に揺れ、鳥たちが高い枝から小さく笛を吹く。

 リュミナはその音に目を覚ました。

「……ふわぁ……あさ?」

 小さな身体を伸ばすと、淡い光が肩口から舞い上がる。

 どうやら、精霊の身体は眠る間にも少しずつ光を吸っているらしい。

『おはよう、リュミナ。今日は森の奥を案内してあげるね』

 レイナの声が柔らかく響く。

 彼女は朝の光をまとうように現れ、リュミナの頭を撫でた。

「うん! 昨日から楽しみにしてた!」

『ふふ。元気がいいね。じゃあ、行こうか』

 二人が歩くたび、足元の草花がふわりと光を灯す。

 道しるべのように光が連なり、森の奥へと導いてくれる。

 やがて、小さな泉が見えてきた。

 水面は鏡のように透き通り、覗き込むと自分の顔がゆらゆらと揺れる。

「これが……森の中心?」

『ええ。光葉の森の“心臓”とも呼ばれているわ。森の命が集まる場所なの』

 レイナがそう言いかけたとき——

「……きゅぅ……」

 小さな鳴き声が、どこかから聞こえた。

 リュミナが耳をすませると、泉のそばにある倒木の影で何かが動いた。

「なにか、いる……?」

 慎重に近づくと、そこには——

 青い鱗を持つ、小さなドラゴンの赤ちゃんがうずくまっていた。

「わあ……!」

 鱗はまだ薄く、翼も半分しか開かない。

 けれどその瞳は、まるで空そのものを閉じ込めたように澄んでいた。

「かわいい……でも、ケガしてる……」

『あら、本当ね。翼が折れているみたい』

 レイナが指先を光らせ、そっとドラゴンの体に触れる。

 淡い光が包み込むと、赤ちゃんドラゴンは安心したように目を閉じた。

「助けてあげられる?」

『少し時間がかかるけれど……大丈夫。この森なら癒せるわ』

 リュミナは膝をつき、そっとドラゴンの頭を撫でた。

 その瞬間、彼の小さな舌がぺろりと手の甲を舐める。

「ひゃっ……! くすぐったい〜!」

 レイナがくすくす笑う。

『ふふ、どうやら気に入られたみたいね』

「この子、名前つけてあげたい!」

『リュミナがつけるの?』

「うん! えっとね……“シルフ”ってどう?」

『風の子、という意味ね。ぴったりだわ』

 リュミナは満足げに微笑んだ。

 小さなドラゴン──シルフは、うれしそうに尻尾をぱたぱたと振る。

 その日から、森の新しい日々が始まった。

 リュミナは毎朝シルフに果実をあげ、泉の水を一緒に飲み、昼は光の輪っかで追いかけっこをした。

 夜にはレイナのそばで、みんなで寄り添って眠る。

『……ねぇ、レイナ。』

『なあに?』

『私、また誰かと“家族”になれるなんて、思わなかった』

『この森ではね、血よりも“光”がつながりを作るの。あなたが優しく笑うだけで、誰かの命があたたまるのよ』

 リュミナはそっとシルフを抱きしめた。

 胸の奥がほんのり光る。

 まるで、心臓そのものが「ありがとう」と言っているみたいに。

 森の夜空には、今日もあの金の月が浮かんでいた。

 そして小さな風が、ふたりの髪を撫でていった。

 ——この世界で生きるということは、

 きっと、誰かを包み込むことなんだ。


 第2話 完


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