12-18. ハオ視点:黒猫ハオの潜入レポート 〜副音声付き〜
体調が快復し、バレンシャンへ戻る前に、どうしてもネネの様子を見に行きたくなった。
今日はアイドル事務所のBBQイベントがあるらしい。
たくさんのアイドルが集まる場所——
そんな中で、ネネの可愛さに気づく男が出てきたらどうするんだ。
……落ち着かない。
俺はヒヤヒヤしながら海の会場へ向かった。
変身している間、俺は魔法が使えない。
そのため、クロにはそばで気配を消しながら見守ってもらうことにした。
クロの魔法の知識と技術は本当に底が知れない。
今回かけてくれたのは「強聴術」。
意識を合わせた相手の会話が聞こえる魔法らしい。
つまり、黒猫に変身した俺は、ネネの声を丸ごと拾えるというわけだ。
……正直言って、これは完全にストーカーだ。
だけど、今日だけは許してほしい。
人混みの中でも、ネネを見つけるのは簡単だった。
意識を向けるだけで、彼女の声が聞こえてくる。
ネネ:「ミダン先輩こんにちは。どのお肉がいいですか? 焼きますよ」
ミダン先輩:「おお! ネネ! 焼肉焼いてくれてるんだ! ありがとな」
(俺)
《ちょっと待て。ミダン先輩、なんかネネに近くね? けしからんな。もう少し離れろ》
(クロ)
《王子、嫉妬してる場合じゃないでしょ。ネネさん、狙われてますよ》
(俺)
《わかってるけど、どうすればいいんだ…》
ネネ:「あっ、ごめんなさい」
ミダン先輩:「全然いいよ」
(俺)
《おい、なんか見つめ合ってないか? ネネをそれ以上見つめるな》
——見られるな。惹かれるな。俺の大事な人なんだ。
アレキ先輩:「ダメですよ、ミダン先輩。後輩にはお手柔らかにお願いします」
ミダン先輩:「何のことを言ってるんだい、セオ?」
アレキ先輩:「何でもないですよ」
(俺)
《おい! ネネに目隠ししてるじゃねぇか。距離が近いぞ。しかも……何だ? この意味深なやり取りは…》
アレキ先輩:「油断も隙もないな…」
「ミダン先輩は、天然で魅了の魔法が使えてしまうんだ」
ネネ:「魅了の魔法って、相手を惚れさせる魔法ですか?」
アレキ先輩:「そうだ。目をじっと見つめると、相手が勝手に惚れてしまう」
(俺)
《はぁ? あの先輩、ネネに魅了の魔法をかけようとしてたのかよ…!》
——ふざけんな。ネネはそんな魔法で落ちるような子じゃない。
アレキ先輩:「先輩がネネを落としにかかっていたから、後ろから目を塞いだんだ」
ネネ:「助けてくださってありがとうございます」
アレキ先輩:「…ネネのそういう笑い方、ずるいよ。守りたくなるに決まってるじゃん」
(俺)
《はい、待った! 待った! アレキ、心の声もれてんぞ。》
——……嫌な感じはしない。むしろ。
《……安心した。ネネは守られてる》
《……でも、俺じゃない》
《俺の居場所、まだ残ってるのか……?》
アレキ先輩:「大運動会のあと、大丈夫だった? ゆっくり休めた?」
ネネ:「大丈夫でした。あの時、わたしの魔力暴走を止めてくださってありがとうございました。本当は早くお礼を伝えないとと思ってたのですが…」
(俺)
《ネネは魔力暴走起こしてたのか…? 何がトリガーになったんだ…俺がいない間に……》
アレキ先輩:「ネネ、どうしたの? なんだか、楽しそうだね」
ネネ:「何でもないです」
アレキ先輩:「……そっか」
(俺)
《なんか、見つめあってないか…? そっかの言い方も、妙にしっとりしてるし……》
ネネ:「キャンプファイヤー、わたし、何気に楽しみにしてるんです」
アレキ先輩:「青春って感じでいいよな」
(俺)
《……ネネが笑ってる。》
《あぁ、でもその笑顔の隣にいるのは、俺じゃないんだな》
——それでも、ネネを守ってくれる存在がいてくれて、よかったと思う気持ちもある。
……複雑だ。
キャンプファイヤーが始まる頃、ネネはだんだん口数が少なくなっていった。
俺はその静けさの裏にあるものが気になって仕方なかった。
金髪が夕日に染まって、オレンジにきらめく。
焚き火のゆらめきに照らされるネネの姿は、息をのむほど美しかった。
(俺)
《……ネネって、いい女だよな。他の男がほっとくはずないよな……》
そのとき、ネネが立ち上がった。俺の方へ、歩いてくる。
——気づくか? 俺のこと。ここなら分かるか?
(俺)
《ネネが俺に気づいた! ネネの瞳が俺を見つけてくれた! 嬉しい……!》
ネネの腕に抱きしめられると、胸元に頬が当たる。あたたかくて、ほんのり甘い香りがした。
(俺)
《この温もりを、忘れるな——俺》
アレキ先輩:「ネネ。何でここにいるの?」
ネネ:「猫ちゃんを見つけて、戯れてました。えへへ」
アレキ先輩:「どうした? もしかして、泣いてる?」
(俺)
《ネネの泣きそうな声に、胸が締め付けられる…》
ネネ:「キャンプファイヤーを見てたら、ちょっと思い出してしまって…」
アレキ先輩:「そっか…ハオ、のことだよね…?」
(俺)
《ネネがうなずいている! 俺を思い出してくれた…でも……》
《……泣くな。俺のせいで泣かないでくれよ…》
アレキ先輩:「魔力暴走も、きっと彼を思ってだったんだよね…」
「俺じゃダメかな…」
ネネ:「……え? それは、どういう…」
アレキ先輩:「俺は、ネネに笑っていてほしい」
(俺)
《……っ! アレキ先輩が、ネネに告白してる……!》
——ネネの腕の中にいる俺は、逃げることも、立ち去ることもできない。
アレキ先輩:「俺をネネの心の片隅に入れてくれないか?」
(俺)
《この沈黙が怖い…》
ネネ:「わたし、まだ心の中にハオがいるんです。溢れそうなほどいっぱいで、アレキ先輩を入れるのは難しそうです…」
(俺)
《……ネネ。俺のこと、まだ想ってくれてるんだ……》
ネネ:「アレキ先輩がいつも優しく支えてくださっていること、本当に感謝しています。でも、先輩の気持ちには答えられません」
(俺)
《嬉しい。こんなにも胸が温かくなるなんて……ネネ、ありがとう》
《……でも、まだ言えない。俺もだよ、って。伝えたいのに》
アレキ先輩:「うん。そうだと思った」
「でも、覚えていて。俺はいつもネネのそばにいる。2年後、恋愛禁止が解けたら、俺も本気で行くから、覚悟しといてね」
(俺)
《……俺はまだ、やるべきことが残ってる。》
《でも、必ず、ネネを迎えに行く》
《安全で、ネネが安心して笑える国を作ったら……絶対に》
《だから——お願いだネネ。俺を、待っていてくれ》
《それが、俺の覚悟だ》
これで第12章が終わりました!
次から第13章です!




