12-18. 最後に戻る場所
太陽がゆっくりと沈むのをみんなで眺め、キャンプファイヤーの時間をみんなで待つ。
わたしはグループのメンバーと集まっていた。
結成してもう一年だね、と夕日を見ながら、みんなでしみじみしていた。
キャンプファイヤーが始まり、そばで踊り出す愉快な人たち、離れて話し込む人たち、みんなそれぞれの時間を過ごしていた。
わたしは何となく1人になりたい気分だった。
グループからこっそり抜けだす。
夜になると少し涼しくなる緑夏の風が頬をなでていく。
魔力暴走のことも、まだ胸に引っかかってる。
でも——本当は、ハオのことを思い出して苦しくなったんだと思う。
ハオと過ごした3年間は、わたしの人生にとってあまりにも大きくて…
ずっと忘れられそうにない。
キャンプファイヤーを見ると、学校休みにコテージでお泊まりした記憶が蘇ってきた。
わたしが紫のブレスレットをもらうきっかけになった、大切な思い出。
今は壊れてしまったけれど…
楽しかったな…
ふとした瞬間に思い出すハオの声、仕草、あたたかさ。
ハオの代わりはいない。
わかってるのに、比較してしまう…
暗闇の中に、黒猫がぽつんと座っていた。
紫の瞳が、夜の闇にほんのり浮かび上がる。
あれ?この前、公爵邸で見た子?
いやいや、そんなはずないよね。
場所も離れてるし、紫の瞳の黒猫は他にもいっぱいいるんだから。
でも、どこか懐かしくて、胸がぎゅっと締めつけられた。
わたしはその大人しい黒猫を持ち上げると、そのままぎゅっと抱きしめた。
なんだか、急に涙が溢れそうで、隠したかったから。
すると、後ろから声がした。
「ネネ。何でここにいるの?」
まずい…泣いてるところ見られちゃう…
猫にくっついて誤魔化そうとする。
「猫ちゃんを見つけて、戯れてました。えへへ」
「どうした?もしかして、泣いてる?」
わたしの震える声が気づかれてしまった。
わたしの顔を覗き込んだのはアレキ先輩だった。
何で、バレちゃったんだろう…
おかしいな…
「キャンプファイヤーを見てたら、ちょっと思い出してしまって…」
わたしは素直に言った。
猫から顔を離すと、アレキ先輩の顔が意外と近くにあって、胸がドキっとした。
「そっか…ハオ、のことだよね…?」
わたしは猫に顔を戻して静かに頷いた。
「魔力暴走も、きっと彼を思ってだったんだよね…」
ブレスレットが壊れたことは知らないのに…
きっと、わたしが泣く理由はハオだってバレてるんだろうな…
なぜか苦しいけれど、笑えてしまう。
こんなにわかりやすい自分に…
一人の人にこんなに恋焦がれてる自分に…
「俺じゃダメかな…」
静かに優しく、まるで世界に言葉を置くみたいだった。
「…それは、どういう…」
「ネネが泣いてるのもそうだし、泣かないように抑えてることも知ってるんだ。これまでたくさん…」
申し訳なさそうな顔でわたしを見つめる。
「俺は、ネネに笑っていてほしい。」
真剣な声、表情がわたしの心に響く。
わたしはわかってる。
アレキ先輩の胸にこのまま飛び込めたらって…
どれだけ助けられるかも理解してる…
正直、アレキ先輩の優しさに甘えたくなる時もあった。
でも——
……それでも、心が向くのはハオだった。
一年会っていなくても、ハオを想うだけで心配になるし、不安になるし、恋しくなる。
もちろん、苦しいと思うこともある。
でも、わたしはハオを想っている自分が好きだった。
そう、ハオを想ってる自分が愛しい。
これがわたしだって思えるから。
「今はお互いに恋愛禁止だから、関係をどうこうしたいわけじゃない。でも、俺がいる。俺をネネの心の片隅に入れてくれないか?」
ハオはここまでストートに言ってこなかった。
だから、正直、何を考えてるのかわからないことの方が多かった。
アレキ先輩は丁寧に言葉を紡いでくれる。
しっかりと伝えてくれる。
先輩の想いが、痛いほど伝わってきた。
でも、だからこそ、しっかりと伝えたいと思った。
「わたし、まだ心の中にハオがいるんです。溢れそうなほどいっぱいで、アレキ先輩を入れるのは難しそうです…」
真剣な目をわたしに向けてくれる。
耳を傾けてくれる。
最後まで、わたしは言葉を紡ぐ。
「アレキ先輩がいつも優しくあたたかく支えてくださっていることは、本当に感謝しています。ありがとうございます。でも、先輩の気持ちには答えられません。」
わたしの腕の中にいた猫がビクっと体を震わせていた。
猫を見ると、紫の瞳は真っ直ぐとこちらを見ていた。
先輩はわたしの言葉を聞いても優しい表情をしていた。
不思議に思っていると
「うん。そうだと思った。」
アレキ先輩はちょっと頭をかきながら言った。
「でも、覚えていて。俺はいつもネネのそばにいる。いつでも頼って欲しい。そして、2年後、恋愛禁止期間が終わったら、俺も本気で行くから覚悟しといてね」
わたしのことを想ってくれる、その気持ちが嬉しかった。
そよ風に乗ってわたしの想いが流れていく。
月明かりの中、黒猫はわたしの腕からしなやかに飛び降りて森の方へ歩いていく。
まるで——わたしの決断を受け入れて、背中を押してくれたみたいに。
わたしの決断が揺るがないよう、
静かに、祈るのだった。




