12-17. 魅了の魔法より、優しさにやられそう
今日は事務所のアイドルグループが全員集まってBBQが行われた。
緑夏といえば、太陽、海、BBQ!
最高のロケーションを貸し切って、みんなも楽しそうにしている。
私たちのグループは末っ子で1番新しいグループ。
周りにいるのは全員先輩方。
顔を知っている人も、初めて見る先輩も、有名で超ベテランの先輩も一堂に集結していて、みんなのオーラに圧倒される。
私たちは女の子だけど、周りに気を配って手伝いメインで動いていた。
先輩に可愛がってもらうのも大切だと思うから。
忙しくしていたい気持ちがあることも認めるけど…
お肉を焼いていたら、ベテランのミダン先輩がやってきた。
アイドル5年目で、安定して人気曲を輩出している男性グループメンバーの1人。
ミダン先輩はメインボーカルで、おちゃらけキャラだが、甘い声のギャップが魅力。
何度か顔を合わせたことがあったので挨拶をする。
「ミダン先輩こんにちは。どのお肉がいいですか?焼きますよ」
「おお!ネネ!焼肉焼いてくれてるんだ!ありがとな」
キラッと輝く笑顔を見せる。
ミダン先輩の香水の匂いが少し強いんだよね。
会話の時、距離近めだし…
おちゃらけキャラだから、これが通常運転なんだろうけど…
横の人に押されて、ミダン先輩にぶつかってしまう。
「あっ、ごめんなさい。」
「全然いいよ」
すると、急にわたしの顔をじっと覗き込んでくる。
グレーの瞳が珍しく、わたしも見つめ返してしまう。
「ダメですよ、ミダン先輩。後輩にはお手柔らかにお願いします」
後ろからわたしの目が塞がれた。
聞き慣れた声と、ふわっと爽やかな香りが漂い、一瞬で誰かわかってしまう。
「何のことを言ってるんだい、セオ?」
「何でもないですよ」
あれ…?
真剣な表情を見せるアレキ先輩、いつもの優しい王子様感が薄いような…
「ネネもBBQ楽しんでね。」
お目当てのお肉を取ると、肩をポンポン叩いてミダン先輩は行ってしまった。
「油断も隙もないな…」
アレキ先輩がボソッと呟く声がした。
「ミダン先輩は、天然で魅了の魔法が使えてしまうんだ。」
「魅了の魔法って、相手を惚れさせる魔法ですか?」
「そうだ。目をじっと見つめると、相手が勝手に惚れてしまう。」
「そんな魔法を天然で使える人がいるんですね。知らなかったです…」
「そうなんだ。すごい能力だよね。
先輩がネネを落としにかかっていたから、後ろから目を塞いだんだ。」
そんな危ない状況だったなんて…
惚れ薬にかかったハオを見ていたから、自分が魔法にかかるのは怖いなと感じた。
「助けてくださってありがとうございます」
わたしは安心してアレキ先輩に笑顔を見せて言った。
「…ネネのそういう笑い方、ずるいよ。守りたくなるに決まってるじゃん」
「えっ?」
先輩の声、小さくて聞こえにくかった。
「なんでもない。このお肉、いい感じに焼けてるよ」
先輩はニコっと優しく笑うと、わたしの手からトングをひょいっと取った。
「ところで、大運動会のあと、大丈夫だった?ゆっくり休めた?」
わたしの代わりに隣でお肉を焼きながら、アレキ先輩が尋ねる。
「大丈夫でした。あの時、わたしの暴走を止めてくださってありがとうございました。本当は早くお礼を伝えないと思ってたのですが…」
「全然いいよ、気にしなくて。」
アレキ先輩はいつも優しい。
そして、いつも助けてくれる。
お兄ちゃんみたいだけど、ハオと同い年なんだよね…
なんか不思議。
ふと、アレキ先輩のトングを掴む手をみて、大きいんだなと気付いた。
ゴツゴツしてて、男性ぽいというか…
あれ?なんでこんなこと思ってるんだろ?
わたしは自分に対してふふっと笑ってしまった。
「ネネ、どしたの?なんだか、楽しそうだね」
「何でもないです。」
アレキ先輩がそれを見て、一瞬だけ目を伏せてた。
なんだか、優しさに溢れた目をしている気がした。
「…そっか」
小さく言ったアレキ先輩を見上げると、日光に照らされた赤毛の髪が揺れていた。
わたしを見つめる瞳に熱が帯びた気がした。
わたしは思わず、急いで目を逸らしてしまった。
あれ…わたし、心臓がドキドキしてる…?
でも、そう思いたくない。
「キャンプファイヤー、わたし、何気に楽しみにしてるんです」
「青春って感じでいいよな。」
頼れる先輩なのに、気を使わずに話せることが有難いと感じた。
なんか、安心するな。




