12-16. ハオ視点: 終わりの始まり
俺が目を覚ましたのは、サーラーン王国の特別室だった。
魔法陣を破壊するために放たれた強烈な黒魔法を喰らい、俺は意識を失った。
発動直前に防御魔法を展開したが、クロの魔力はそれを凌駕していた。
なんとか魔法陣が起動する前に脱出はできたが、その代償は大きかった。
俺の聖獣・ノクターンが、俺の意思とは無関係に飛び出し、自分の体を盾にして俺を守ってくれたらしい。
意識が遠のく直前、黒い影が揺れ、鳴き声が聞こえた。
あれは、俺を守ろうとしたノクターンの最後の意思だった。
クロが俺とノクターンを抱えて転移魔法を使ってくれ、マミーナ様の治癒で、俺は命を繋ぎとめられた。
短い数時間の出来事だったが、一秒一秒が永遠のように感じられた。
命を狙われることはこれまで何度もあったが、
ここまで“死”を近くに感じたのは初めてだった。
……父は、本気で俺を殺しに来ている。
手段など選んでいない。
今回の罠が、クロの不在を狙ったものかは不明だが、魔法陣から俺が脱出できたという事実だけで、協力者の存在がバレた可能性がある。
もう、あの家には戻れない。
仲間たちの安否も気になる。
みんな…無事だろうか。
隣には、ノクターンが眠っている。
酷い傷を負っていたが、今は落ち着いて、穏やかな寝息を立てている。
俺の命を守ってくれたその想いに、胸が熱くなる。
こいつは寡黙だけど、芯が強くて、優しい。
俺の大切な相棒だ。
俺はテレパシーで、ハオに呼びかけてみる。
彼は俺の従者であり、留学中も「レオハルド王子」として振る舞ってくれていた。
俺とハオの聖獣は“番”であり、俺たちは魔法的にもパートナー関係にある。
(ハオ、聞こえるか…?)
応答はない。
やはり、サーラーンとバレンシャンの距離は遠すぎるか…
(ハオ、俺だ。ちゃんと生きてる)
胸がざわつく。
もし、仲間たちに何かあったら──。
その時、不意に「バシン!」と音がして、目を向けると──
そこにはクロとハオの姿があった。
転移魔法で現れた瞬間だった。
「ハオ!」
「レオ!」
声が重なり、ハオが俺に駆け寄ってくる。
「心配したんだぞ、このヤロウ!」
バシン、と肩を叩かれ、
「いってぇ…」
傷に痛みが走る。
「こっちは心配したんだからな!勝手に傷つきやがって」
「おい、口が悪いぞ。王子のマネはどうした」
俺がいつもの調子でからかうと、ハオはふんっと笑う。
このやり取りができるってことは、きっとみんなも無事なんだ。
「もう王子のマネなんてごめんだからな!」
そう言い放った後、ハオは言った。
「レオ、気になってると思うが、俺たちはみんな無事だ。」
その言葉を聞いて、俺は思わず息を吐き出した。
「バレンシャンの騎士団団長、そして幹部たちとも契りの魔法を交わした。
これで、奴らも俺たちを裏切ることはない」
「本当かっ」
喜びがこみ上げる。ついに…!
「バレンシャンはもう終わりだ。崩れるのは時間の問題だ」
ハオは、まっすぐ俺を見て、言った。
「──レオ、お前が終わらせるんだろ?」
その目はまるで、希望の光そのものだった。
俺の未来を信じてくれている。どんな時も、そばにいてくれる。
「もちろんだ。一緒に終わらせよう。これからも、力を貸してくれ」
「レオの願う未来を、現実にしようぜ」
熱い想いが交差し、俺たちは無言のまま強く頷き合った。
……だが。
「ところでレオ、お前のお姫様には会えてるのか?」
その一言に、俺は沈黙する。
会いたい。
だけど、会えば、張りつめた糸が切れてしまいそうで。
気持ちが揺れる。
矛盾する想いがせめぎあう。
今の俺には、まだ“彼女の隣に立てる自分”になれていない。
俺が答えられずにいると、ハオはそっと俺に紙を押し付けた。
「レオ、お前は死にかけたんだ。
そのとき、姫様に会いたいと思ったんじゃないか? 自分の目で、見てこいよ」
紙には、古代の変身魔法の陣が描かれていた。
顔を上げると、ハオがニッと笑う。
「俺はお前の従者だ。主人には、笑っていてほしいからな」
……こいつには、何もかもお見通しか。
悔しいけど、嬉しい。
体力が戻ったら、ネネに会いに行こう。
俺の胸が高鳴っていた。
また、会える。
気づいてくれるだろうか──。




