12-15. クロ視点:影はただ、主のために
「ソランティア様、戻りました。」
血まみれの王子と、呼吸の荒いドラゴンを引きずりながら戻ったとき、視線が刺さるようだった。
俺たちの姿を見たソランティア様は目を丸くしたが、すぐに的確な指示を飛ばす。
「すぐに治療しよう。マミーナ、来てくれ!」
マミーナ様は黒魔法と白魔法を同時に発動させ、強力な治癒魔法を施していた。
王子の命が助かるとわかり、俺はホッと息をついた。
レオハルド王子が治療を受けている間、ソランティア様は俺に状況を尋ねた。
「自分の息子にすることとは思えんな…」
想像を絶する出来事に、ソランティア様も受け入れがたい様子だった。
同じ世界でも、こんな国がある。現実を突きつけられた気分だった。
「咄嗟の判断で、レオハルド王子の命を救ってくれた。ありがとう。」
王子を見つめるその目は、まるで本当の息子を見るような、慈愛に満ちたものだった。
それは、時々俺に向けられる目と同じで──居心地が悪くなる。
俺は、かつて魔物と一体になった怪物だった。
黒魔法師を操り、世界を支配しようとしていた。
普通なら、ただの魔物として退治される存在。
だが、ソランティア様とマミーナ様は俺の命を救ってくれた。
命をかけて恩返しするために、俺は二人に仕えると決めた。
ソランティア様は影として俺を使う。
だが時折、優しすぎる目で俺を見ることがある。
あの目は、俺のようなものに向けられるものじゃない。
……けれど、否定しきれないのは——
俺がまだ、“誰かの子ども”でいたかったからだろうか。
俺は、二人を親だとは思ったことはない。
今回も、ソランティア様の命──レオハルド王子を守るために動いただけだ。
俺に血はない。ただ、救われた命を燃やしているだけだ。
だからこの身は“影”で十分だ。
「こんなことを言うのは不謹慎だが……それにしても派手にやったな。」
王子の症状が回復に向かい、ソランティア様が安堵の表情を浮かべながら言う。
「中途半端な攻撃で魔法陣を壊せなかったら、元も子もないので、本気でやりました。」
「いや、クロの判断は正しい。よくやってくれた。」
少しの沈黙のあと、低い声が落ちる。
「王子は……もう、戻れないな……」
これからのことを考えているようだった。
ソランティア様には、何か考えがあるのだろう。
「あそこは、生きる場所じゃありません。」
俺がそう言うと、ソランティア様は俺をチラと見て──
「……そうだな」 と、静かに頷いた。
——目を覚ました時、王子は何を思い出すのか。
あの炎の中で、何を見ていたのか。
まだ俺たちは、本当のことを何も知らない。




