12-14. 揺らぎ
ゆっくりと目を開けると、見慣れた天井が目に入った。
ここは、公爵邸のわたしの部屋――
そうだ…わたし、魔力暴走を起こしてしまったんだった。
ベッドから身を起こすと、ズキンと頭に痛みが走った。
魔力暴走なんて初めてのことだった。
ハオと離れ離れになったときも、たくさん泣いたのに……
こんな風に感情を制御できなくなるなんて――
──コンコン。
扉がノックされ、入ってきたのはお父様だった。
「ネネルーナ、目が覚めたか」
そう言いながら、わたしの傍に腰を下ろし、そっと手を握ってくれた。
お父様と手を繋ぐなんて、いつ以来だろう。
そのぬくもりに、胸がじんわりと熱くなる。
「わたし…初めて、魔力暴走してしまいました」
「大丈夫だ。アドリアンがすぐに駆けつけて、場を収めてくれたよ」
お兄様が… わたしの異変に気づいて、来てくれたんだ。
それを聞いて、ほんの少しだけ心が軽くなる。
「何か、魔力が暴走するきっかけがあったのか?」
お父様の問いかけに、わたしはうなずいて口を開いた。
「実は…ハオからもらったお守りのブレスレットが、急にはじけて、壊れてしまったんです」
言葉にするだけで、また胸がざわつく。
わたしはそっと、壊れてしまったアメジストの水晶のかけらを手に取り、お父様に見せた。
「……そうか……」
お父様の瞳が、水晶を見つめながら微かに揺れた気がした。
(お父様…何かを知っている…?)
ふいに、そんな疑念が胸をよぎる。
「わたし…ハオが心配なんです。何とかして、彼の無事を確かめる方法はないでしょうか?」
必死に訴えるように、わたしは言った。
焦りを隠せなかった。でも、何か知らずにはいられなかった。
しばらく沈黙が流れたあと、お父様は重い口を開いた。
「……今、バレンシャン王国では、内部で深刻な対立が起きている」
その言葉に、胸が締めつけられる。
わたしも噂では聞いていたけれど、お父様の表情から、それがただの噂ではないと悟った。
「これまでの王政を支持する保守派と、新たな未来を望む和平派が衝突している。
いつ戦争が始まってもおかしくないほど、緊張状態なんだ」
「……っ!」
わたしは思わず、手で口を覆った。
そんな危険なところに、ハオはいるの……?
「ハオ君のことが気になるのはわかる。でもネネルーナ、まずは、自分の役目に集中するんだ。
アイドルとして、人々に希望を届けること――それが、託された使命だ」
「……はい」
その言葉が正しいことは、わかっている。
でも、心は晴れなかった。
「もし、何か確かな情報が入ったら、必ず伝える。安心していい」
「……ありがとうございます、お父様」
お父様の言葉に、少しだけ救われた気がした。
きっと今は、大丈夫。信じよう。
「さあ、今日はもう少しここで休みなさい。しっかり体を回復させるんだ」
立ち上がったお父様の背を見送りながら、
わたしの胸の奥に、ふと芽生えた小さな違和感――それを、無視することはできなかった。




