12-12. ハオ視点: その瞬間、命の鎖が切れた
順調に進めていると思っていた。
この一歩を踏み出すまでは。
まさか、俺の寝室に魔方陣が仕掛けられているとは…
空気が変わった。
わずかな魔力の揺らぎ──それだけで“それ”が発動したことを、ハオは悟った。
「……っ、しまった」
足元に広がる、古代語の混じった複雑な魔方陣。
鈍く青紫の光が収束し、空間がゆがむ。
逃げ道は、もうない。
敵は誰か。
わからない。
ただ、明らかに俺を狙ったもの──
そして、致命的な魔術だ。
ソランティア様の影が、今ここにいないことが最大の誤算だった。
自分の動向を報告するため、ほんの数分、目を離しただけだ。
「まさか、このタイミングで来るとは──」
俺は絶望的だった。
この魔方陣は中から魔方陣を破壊することはできない。
魔法が無効化されてしまうからだ。
そして、時間が経てば発動する。
全身を切り裂く魔法が…
俺はここで死ぬのか…
せめて……
ネネの笑顔を、最後に思い出せればよかった…
*
クロ視点:
俺はレオハルド王子の元を離れ、ソランティア様の部屋に来ていた。
「ソランティア様、ご報告に参りました。」
「クロ、そちらの状況はどうだ?」
「うまく動けていると思います。和平派の仲間が増えてー」
……その瞬間だった。
何かが“切れた”感覚。首筋に電流のような衝撃が走る。
「何だこれは──!」
背後の空気がざわめいたように感じた時、俺はもう動き出していた。
これほど悪質な魔法を感じたことがあるだろうか…
どうか間に合ってくれ。
✳︎
ハオ視点
クロが戻ってきた。
鋭い眼光が魔方陣を見て、即座に判断する。
「クロ!この魔法陣は内側から壊すことはできない。このままだと俺は全身が切り裂かれる。どうすればいいんだ」
「最悪ですね。よくこんな魔法陣を…」
クロの殺気が全身から溢れ出す。
俺は絶望に打ちひしがれていた。
「……やるしかないか。魔法が発動する前に外から壊すしかありませんね」
クロの目はもう決まっていた。
揺るぎないものに。
「ハオ、お前は無傷ではいられない。強力な魔法で破壊すれば、お前も危険だ。でも、魔法陣の中で死ぬよりはマシだろう」
「わかった。そうするしかないな。」
俺も覚悟を決めた。
生き残るためには、こちらを選ぶしかない。
「俺はありったけの魔法をぶつけて、この魔法陣を壊す。俺の魔法で死ぬなよ。」
俺は身震いした。
死を覚悟した。
この魔法陣が破られた瞬間に防御魔法で守る。
その数秒を逃してはならない。
冷や汗が背中を伝っている。
「3.2.1でいくぞ。」
3.2.1ー
クロの黒魔法が放たれた瞬間、部屋全体がきしむ音を立てた。
床がうねり、壁の装飾が崩れ、空気が一瞬、真空のようになる。
ハオの足元の魔方陣に、ピシッと鋭い音が響いた──。
まだ俺の魔法は使えない。
いつだ、この魔法陣はいつ壊れる?
全身を切り裂く魔法が発動する前に、何とか壊れてくれ
そして、タイミングを見誤るな。
パリンと魔法陣が砕け散った。
俺は瞬時に防御の魔法を自分にかけたが…
「ぐっ…!」
痛みと共に、赤い光に包まれた視界の中で、どこか遠くで雷鳴のような音がした。
誰かの咆哮。
……いや、あれは──俺の……?
「帰るぞ、ハオ。あの姫が待っている」
名前を呼ばれた瞬間、遠くにいるはずの彼女──ネネルーナの顔が浮かぶ。
そうだ、ネネ……!
その名を思ったとき、不意に胸元で何かが震えた。
(…まさか、魔力共鳴?)
互いの想いが届いたように、微かに感じるぬくもりを最後に俺は意識を失った。




