12-9. 魔法アイドル大運動会!
陽春から緑夏へ移り変わる頃、私たちアイドル事務所では一大イベントが企画されていた。
観客を総動員して、「魔法アイドル大運動会」が行われるのだ。
毎年恒例の企画らしいが、わたしはその存在を全然知らなかった。
特に大きな催しは「リアル鬼ごっこ」だ。
これはよく番組などでも企画される有名なゲームだった。
防御魔法が使えないというスリリングなルールの中、攻撃魔法が当たってベールが光ればゲームオーバー──そんな『リアル鬼ごっこ』が行われる。
わたしはアイドルと勉学の両立を目標に、この一年過ごしてきていた。
その成果が活かせる場ができ、わたしは一段と気合が入っていた。
攻撃魔法のレパートリーも増やしておいたから自信がある。
数日前から、騎士団の次期団長と噂されるお兄様が付きっきりで特訓してくれた。
その手のひらの痛みが、まだ残っている。
今日は、動きやすいラフな格好でみんなは出場していた。
観客は推しの応援で声を枯らし、ゲームの実況は魔法スクリーンで放送され、いろんな人が楽しめる1日となりそうだ。
見事、優勝した人には何か景品も出るらしい。
一つのアイドルグループがA.Bに分かれて2回試合が行われる。
わたしはAでヒヨナと一緒だった。
ヒヨナに負けないように、わたしも気合を入れた。
「絶対に2人で生き残ろうね!」と声を合わせた。
・・・
スタートの合図と同時に、地響きのような歓声が空を裂いた。
「ついに始まりました。「リアル鬼ごっこ」です。開始早々、攻撃魔法の光線が飛び交っています」
アナウンスが流れるが、それどころではなかった。
「来るよ!」ヒヨナが叫ぶ。
わたしは反射的にしゃがみ、肩越しに魔法が空をかすめた。
防御魔法は使えない。
だから、攻撃魔法を迎撃に使うしかない――
それが、このゲーム最大の特徴だった。
魔力量は後のために温存しておきたい。
避けるか、迎え撃つか、瞬時の決断が迫られる。
ひと呼吸のうちに、色とりどりの魔法が放たれる。
青い水柱。
紫の稲妻。
赤い閃光が目を焼き、風を裂く音が鼓膜に刺さる。
魔法のにおい──
焦げた草と、雷の鉄のような匂いが鼻をつく。
「こちらのゲーム、防御魔法は使えないというルールがあります。攻めこそ防御!
おーっと、脱落者が出てきました!
このゲームを勝ち抜くのはいったい誰でしょうか?」
アナウンスが遠くに聞こえるようだった。
わたしとヒヨナは一旦物陰に身を潜めようと走り出す。
地面を蹴って走りながら、汗が額を流れるのを感じる。
砂の粒が靴に入るのが分かった。
焦るな。
一旦落ち着くのよ。
自分に言い聞かせる。
「プレーヤーは特殊なベールに包まれています。攻撃魔法が当たるとベールが光ってゲームオーバーです。実際に魔法攻撃を受けることはないのですが、それにしてもすさまじい攻撃合戦が繰り広げられています!」
アナウンスの途中、光線が──見えた。
ヒヨナとの間を裂くように、赤い閃光が走った。
「ヒヨナ!」
光線が私たちの間を引き裂いた。
わたしは右へ、ヒヨナは左へ。
…もう、声も届かない。
追撃の雷を放ちながら、彼女の姿が煙の中に消えていった。
心がざわめいた。
でも今は、立ち止まれない。




