12-6. ハオ視点:ネネにキスされた猫
ネネが公爵邸にいるなんて…完全に誤算だった。
アイドルとしてデビューしたから、てっきり宿舎暮らしだと思っていたのに。
俺は今、黒猫の姿で邸内を歩いている。
バレンシャン王家に伝わる特殊な変身魔法——
一度だけ、長時間、変身した姿を保てる古代魔法の一種だ。
王家に伝わる特殊な魔法陣を使えば、この古代魔法を発動できる。
好きなときに解ける代わりに、また元の姿に戻ることはできない。
黒猫の姿で歩き回る。
ソランティア様はどこだ…
「お兄様、、、」
懐かしい声がした。
ずっと聞きたかった声。
チッ、ここは隠れるところがないな…
廊下の隅にでもいるか。
「同じグループのメンバーのヒヨナが、お兄様が無言の牽制をしてると言ってたのだけど、それって本当?」
「当たり前だ。そこらのアイドルがネネに手を出しては困るからな」
「うそ…本当だったんだ…」
この兄妹の会話はいつもこんなだなと「クスっ」と笑ってしまう。
……しまった。
変な声出ちまった。
猫のくしゃみみたいな……
これ、バレたか?
「あれ?…猫ちゃん?こんなところでどうしたの?」
あ、まずい…
この猫の姿、魔法が使えないんだよな…
それだけが欠点…
猫の俺は後ろからネネに抱き上げられてしまった。
そのまま、ぐるんと顔がネネの方に向けられる。
「……あれ?紫の瞳……」
ネネが小さくつぶやいた。
「……ハオみたい……」
その声に、俺の心臓がドクンと跳ねた。
ハオと俺の名前を呼んでいる…。
ネネの赤い瞳に、俺の心臓はとらわれたように鼓動している。
元気にしててよかった…
「なんで公爵邸に猫がいるんだ?」
アドリアン様にかなり怪しまれてるな…
今の俺は魔力が出てないからバレないはずなんだが、この人は鋭いからな…
「なんでだろうね…それより!この猫ちゃん、すごく大人しいから、お部屋に連れていくわ」
俺を抱きかかえてそのまますたすたと部屋に向かう。
まずいな…
一度ネネから離れてソランティア様を探したいんだが…
しかも、猫の姿とは言え、ネネの部屋に入るのはちょっと…
「ダメだネネ、猫とはいえ何かわからないぞ」
「そうですよ」
すっと現れたのは、黒いフードを被った青年だった。
俺はビクッとした。
気がつけば、俺はネネの腕の中から引きはがされていた。
まるで影のような速さ——いや、影そのものだったのかもしれない。
現れた黒いフードの青年に、俺はなすすべもなく捕らえられていた。
ネネが俺を奪い返そうとするが、
「ネネルーナ様、ダメですよ。わたしがこの猫殿を連れていきますから。」
猫”殿”…こいつ、俺の正体がわかってるのか?
冷や汗が流れる心地がした。
変身をとけば魔法が使えるが、ここで戦いたいわけではない。
まずはこのまま様子を見よう。
「猫ちゃん、またね。」
ちゅっとおでこにキスをすると、ネネはアドリアン様と行ってしまった。
猫にまで優しいのか…ネネは優しいな。
一瞬だけど、彼女に会えてよかった。
安堵するのもつかの間、抱きかかえた俺を見下ろすと、
「あなたをお連れします。」
その瞬間転移魔法でぐるんと体がねじれた。




