12-5. 知らないところで、守られてる
緑夏の学校休みは、風のように駆け抜けていった。
あっという間だったけど、胸の奥には確かに、いくつもの光が残った。
私たちはデビューしたてのアイドルグループだから、まずはファンに知ってもらうための活動がメインになる。
学校休みの期間はほぼ毎日がパフォーマンスだった。
音楽番組には週5本出演し、魔法ライブでLUXのみんなと交流したり、インタビューに呼ばれたり、私たちもコンテンツを作って発信したりと、それはそれは忙しかった。
睡眠時間が4時間を切ることもあり、1日の中で何度もヒーリングしてもらっていた。
4年生の終わりには、
「アイドルになっても、お仕事も勉学も頑張るぞ」
と意気込んでいたけれど、ここに学校生活が入ることが、想像以上でわからなかった。
アレキ先輩は学生期間中にデビューして卒業しているから、尊敬の眼差ししかなかった。
家に帰る暇もなく、倒れ込むようにベッドに入り、夢の中でも歌っている状態だった。
それでも、誰かが私たちを見て笑ってくれるなら、それが頑張る理由になる気がした。
お兄様はわたしの予定を聞いて、騎士団のお仕事が入っていない時に、よく差し入れを持ってきてくれた。
女性アイドルに取り囲まれて、一度大変なことになった時もあった。
でも、お兄様は相変わらずわたしへの溺愛っぷりが凄いから、可愛いアイドルたちからのアピールには気づいていないようだった。
「ネネ!」
「お兄様!」
待たせては悪いとそばに駆け寄ると、
「ちゃんと寝てるか? 変な虫はついてないか?」
…お兄様の口癖は、まるで日課みたいになっていた。
恋愛禁止って言ってるのに、お兄様はそれでも心配らしい…
女性アイドルグループは、お兄様を見つけるとさっと集まり、遠くから見ている。
本当に、よく見ていると思う。
「ちゃんと寝てるよ。」とニコッと笑う。
目の下にクマがないか、わたしの顔をじっと見て確認している。
初めてお兄様がきた時、わたしの顔があまりにも疲れていたことにビックリしたようだったから。
アイドルの表の顔だけでは語れない、タフなお仕事だと身をもって実感した。
わたしたちが話していると後ろから声がかかった。
「アドリアン様、お久しぶりです。」
爽やかに挨拶をしたのはアレキ先輩だった。
あれ、二人って繋がってたの?
練習が終わった後なのか、汗ばんでいる。
少し湿った髪の毛をかき上げてダンス着でこちらにやってくる。
アレキ先輩も、女性メンバーから人気なんだよね…!
お兄様とアレキ先輩が並び、わたしは完全に場違いになる。
汗ばんだアレキ先輩の髪から、ふわっと爽やかな香りがして、
「…ちょっと近いです、先輩…」
とつい口にしてしまった。
「あ、ごめん」
と少し距離をとる先輩。
お兄様は何か言いたそうにしていた。
わたしはそろそろ退散しようと「じゃあ、そろそろ」と行こうとしたら、
「待つんだ、ネネ。まだ話は終わってないぞ」
腕をぎゅっと引っ張られ、体勢が崩れる。
わたしはそのまま、ぽすっとお兄様に受け止められてしまった。
見ていた女性アイドルたちからキャッと声が上がる。
まずい…学校生活の時みたいに、禁断の恋設定にされたら大変…
「アレキ、ネネに変な虫がついていないか知ってるか?」
お兄様がアレキ先輩に聞いてる。
なんか、気軽な感じが伝わってきて、二人が親しい仲なのだと気づく。
「ネネルーナは今、デビューしたてなので、それどころじゃないと思いますよ」
微笑みながらアレキ先輩が、サラッと答えてくれたから助かった。
「そうか、それなら安心だ。さ、俺もそろそろ行くよ。ネネ、体調にはくれぐれも気をつけるんだぞ」
また頭をポンポンしてお兄様は帰っていった。
・・・
その様子を見ていたヒヨナがあとでこっそり教えてくれた。
「ネネ、あなたは相当守られてるわよ…」
「何が?なんのこと?」
わたしは首を傾げる。
「あなたのお兄さんからの無言の牽制、そしてアレキ先輩も後輩としてあなたを大切にしてます感がすごいもの…」
「え?そうなの?」
そんなことないと思うんだけど…
「もしネネに何かあったら、大変なことになるんじゃない?」
イタズラっぽく笑うヒヨナが先に歩いていく。
ヒヨナの言葉なんて、きっと気のせい。
わたしは今日も、お腹をすかせてるただの女の子だ。
「今日のおすすめ、何かな〜♪」
そんなことを考えながら、ルンルン気分で食堂に向かった。




