12-2. 近くて遠い距離
アイドルデビューを明日に控えた緑夏の夕方、卒業式を終えたわたしは、ひとり屋上へと足を運んだ。
教室のざわめきも、校舎の喧騒もここには届かない。
あたたかい風だけがそっと髪をなでていく。
1年が終わった。
一瞬の月日の中に変わったことも変わらなかったこともある。
ふと空を見上げると、また涙があふれてきた。
「同じ青空の下にいると思うと、強くなれる気がしないか」
ハオのあの声が、不意に耳元でささやかれるようによみがえる。
あの時、初めてもらったプレゼント、嬉しかったな…
わたしはブレスレットを握りしめた。
あのときの目線、ぬくもりまで――
勝手に思い出して、涙が止まらなくなる。
「ネネルーナ!」
わたしは急いで目元にたまった涙をぬぐって、声のする方に向き直る。
卒業証書をもったアレキ先輩だった。
「アレキ先輩、ご卒業おめでとうございます」
わたしは笑顔でお祝いした。
「ありがとう」
優しく微笑む先輩。
そっか、アレキ先輩も卒業しちゃうんだ。
同じ事務所の先輩アイドルグループで、学校と両立していたけれど、これからはアイドル一本でやっていくんだな。
そんな先輩の存在がまぶしく見えた。
「ネネルーナ、聞いたよ。ハオのこと…」
突然のハオという名前にドキっとしてしまった。
わたしはぎこちなくなってしまう。
「わたしもびっくりでした。でも、ハオも今学期で卒業でしたから、別れの時期が少し早くなっただけだと思ってます。」
これは、事実だ。
少し早くなっただけ。と自分に言い聞かせる。
「大丈夫か?」
先輩の声は、いつもより少し低くて、静かだった。
わたしの強がりなんて、とっくに見透かされてる。
アレキ先輩がわたしにそっと手を伸ばしかけた、そのとき――
「……ごめんなさい」
わたしは、半歩だけ身を引いた。
先輩の手が、空を切る。
だけど、強くも引き寄せようとはしなかった。
「……いや、俺の方こそ、悪かったな」
少し寂しそうな声だった。
「…今は、こうしてそばにいることしかできないけど。
ネネを支えたいと思ってる。それだけは、本当だ」
優しさの中に、迷いと覚悟がまじっていた。
わたしはそれ以上なにも言えなくて、ただ青空を見上げた。
何かいいたげなアレキ先輩の視線を感じつつ、
「わたしもこれから5年生。時が流れるのは、ほんと早いですね。」
ニコっと微笑むと
「わたしは明日、アイドルデビューします。
アイドルも、勉学も――自分の力で、ちゃんと歩いていきます。
だから……同じ空の下で、わたしも頑張ります」
そう呟くと、アレキ先輩に向かって笑顔で言った。
「そっか。ネネなら、きっと大丈夫だ」
アレキ先輩はそう言って、まっすぐわたしを見て笑った。
その笑顔が、ほんの少しだけ――
寂しそうに見えたのは、気のせいだったのかな。




