10-2. 素直になれた夜
ハオがデレている姿を晒すのは、ハオの体裁に関わるということで、私たちは虹色ベールで姿を隠して特別室へ移動した。
特別室は、使節団のメンバーの寮部屋のすぐ近くにある寝泊まりできる部屋だった。
使節団の人たちは相談室も用意されているし、意外と待遇がいいんだなと思った。
移動する時はもちろんハオはわたしにべったり。
わたしの腕を掴んで、顔を預けてくる。
正直言って、かなり歩きづらい…。
夜ご飯の時間が近かったから、テイクアウトを持ってきてもらった。
ハオを連れて買いに出かけるのは大変すぎると判断したからだ。
テイクアウトを届けてくれた王子がわたしに言った。
「ネネルーナ、大丈夫そう?」
心配してるけど、ちょっと茶化しも入ってる気がしたのはわたしだけかな…
「今のところ、何とかやってます。テイクアウトもありがとうございます。助かりました。」
「お安いご用だよ。それより、多分、これからの方が大変だと思うから…頑張って」
最後、若干笑い気味だったよね?!この状況でなぜ…
わたしが王子の反応に困っていると
「あぁ、ごめんね。多分、ハオのことだから手を出したりはしないと思うんだけどさ。あいつ、意外と純粋だし?!でも、男だからいつ化けの皮がはがれるかわかんないよな…まあ、気をつけるに越したことはないか…」
まるで独り言のようにぶつぶつ言っている。
ハオが純粋という発言がなぜか耳について離れなかった。
王子から見るとハオって純粋なの?
モテモテ男子なのに…と不思議だった。
特別室でテイクアウトを食べる時、それはそれは甘い時間だった。
「ネネは座ってて。俺が準備するから」
率先して袋から食べ物を出してくれて、至れり尽くせりだった。
「これ、ネネが好きなやつだよな」
ハオの発言一つ一つが、わたしを見ていてくれたのかな?と感じて嬉しくなる。
そのあとは普通に座らせてくれなかった。
ご飯を食べるのに膝の上に座るよう言われた。
食べる時もハオから「あーん」と何度もされたし、「美味しい?もっといる?」と完全デレデレモードだった。
ふいに恋人繋ぎをしてきたハオ。
薬の効果ってわかってるのに、やっぱり嬉しくてキュンとなる。
「ネネとずっと手を繋いでみたかった」
繋いだ手をポン、ポンとベットに上げ下げしている。
ちょっと、可愛過ぎないか…
「ネネの手って小さいんだな…可愛い」
そう言うと、わたしのほほにそっと手が触れた。
こ、これは?!?!キスされる?、?
ハオの手はすっと離れた。
あ、今のはわたしを大切に扱ってくれたってことなんだね。
なんだ…
嬉し恥ずかしかった。
惚れ薬ってこんなに人格変わるんだ…
怖すぎ…
しかも、これきっと覚えてないよね…
なんだか、それは寂しいなと思う。
せっかくならこの甘々シーンを覚えてて、もっとわたしを意識してくれたらいいのにな…なんて思っちゃった。
ふと、ハオがポツリと呟いた。
「俺さ、ネネが朝、先輩と一緒にダンスの練習してるの見た時、嫉妬したんだ…
レオが呼んでるってのは嘘だった。」
「あ…そんなことあったね、覚えてたんだ。
ハオ、嫉妬してくれたの?」
「先輩に笑顔を向けてるのがやだった。」
目が潤んでて、ちょっと焦点が合ってない気がする……
でも、言葉はやたらリアルで、わたしの胸に突き刺さる。
ハオの本音がポロポロと出ている気がする…
惚れ薬をというか、なんというか…
聞いちゃっていいのかなって思ってきた。
わたしがお手洗いへ行こうとすると、ちゃんとついてきて、トイレの前で待っているほどだった。
これは、もはやママと赤ちゃんでは?
この惚れ薬、何を目的に作ったんだろう…
「ネネルーナ、今日は一緒に寝よ?」
寝巻きに着替えたハオからのお誘い…
破壊力が…
わたしの手を掴むと優しくベットへ導く。
惚れ薬を飲んでるのはわかるんだけどさ、この流れるような動きに引っかかってしまう…
他の人にもこういうことしてたんじゃないのって。
「ハオは他の女の子と一緒に寝たことあるの?」
横に座って、ハオの顔を覗き込む。
惚れ薬にやられてるハオはなんと答えるのか興味があった。
「ある訳ないだろ。ネネが初めて」
そういってわたしを抱きしめてきた。
反則なんですけど…!!!
何、この可愛い生き物はっ!
「前からしてほしかったんだけどさ、頭なでなでしてくれない?」
わたしを覗き込むハオの瞳に熱が灯っている気がする。
惚れ薬は甘え上手にもなるのか…?
こんな危ない薬が、学校の実験室の棚に普通に置いてあるなんて…
ハオの黒髪に触れる。
ハオは背が高いから、髪の毛を触ったのって初めてだったと気づく。
サラサラの髪をなでさせてもらえて、キュンとした。
こんなことできるのは、きっとわたしだけ。
その特別感が嬉しかった。
いつか恋人同士になって、こんな日常が当たり前になったらいいのにな…
頭をなでられながら、ハオがポロっと言った。
「好きって、こういう気持ちなのかな……いや、ずっと前から好きだったけど」
ん?!それは、わたしに対して?
それとも、頭を撫でられてることが?
こんなストレートなこと、ハオは言うのかな…
「わたしはハオが好き。初めて会った時からずっと…」
ハオの言葉につられて、わたしも想いを口にする。
きっとこの瞬間をハオは覚えてない。
それが切なかった。
でも、わたしの気持ちを今伝えてもいいよね。
頭を撫でられていた体勢からハオはわたしに向き直った。
顔をじっと見てくる。
そんなにじっと見られると…
恥ずかしくて…
つい、目をそらしてしまう。
「ネネ、いつもありがとな」
真剣な顔でわたしを見つめながら。
彼の紫色の瞳の光がぐっと強くなった気がした。
あれ?これも惚れ薬?
「急にどうして?」
わたしもハオを見つめる。
どうして急にありがとうなんだろう…?
「いつも、俺のそばにいてくれてありがとう」
その言葉を聞いた時、ふと涙が溢れそうになった。
ハオからの想いがとても伝わったから。
「わたしも、いつもありがとう。ハオのおかげで、わたしは…」
泣きそうな私をハオがもう一度抱きしめる。
ハオの香りをいっぱい吸い込んで、幸せをかみしめる。
「俺は、これまでもこれからもずっとネネを想ってる」
わたしの心臓がドクンと大きく鼓動した。
こんな幸せな言葉をハオの口から聞くことができるなんて…
たとえ惚れ薬の効果だったとしても、わたしはこの瞬間を忘れない。
「わたしも…」
わたしはより一層ハオをぎゅっと抱きしめた。
涙が出そう…
そう思った瞬間、ぐっと体を持ち上げられた。
…え?ベットに寝かされた?
「今日のネネの寝る場所はここな」
横になって後ろからハオが抱きしめる。
きゃー!
泣きそうになってた涙がシュッと引っ込んでいった。
心臓のバクバクが止まらない。
これ以上、何もしてこない…よね…?
「ほんとは、怖かった。俺のことなんて、好きになってくれないって…」
ハオ、うとうとしてる?
声がなんだか眠そう…
「俺の本当の姿を知っても、それでも…」
ハオの腕がわたしのお腹に回った。
グッと体に自然と力が入ってしまう。
「大丈夫。ネネが怖がることはしないから。」
耳元でそう囁くと、そのまま寝息を立てはじめた。
何この放置プレイ…!
そして、意味深の発言…
ハオは何を想ってるの…?
わたしばっかりドキドキしてるよ…
こんな体勢ですぐに寝ちゃうなんて…
早く眠れますようにと、目を瞑るけれど、ハオのぬくもりで顔が熱くなって、なかなか寝付けなかった。




