9-12. アレキ視点「君の方を向いていた」
なんでだろうな…
あんなことを言ったのは…
俺は公開オーディションでアイドルデビューが決まった。
一緒に選考に進んでいたネネルーナは、なんと最終審査で落ちてしまった。
一緒にアイドルになれると思っていたのに…
ネネルーナのそばで力になりたいと思いつつ、合格した俺が支えようとすると、ますますツラい思いをさせるんじゃないか?
……俺の夢が、あの子の涙の理由になった気がして、怖かった。
そう思うと、わざわざ俺から声をかけることができなかった。
ネネルーナなら、乗り越えられる。
あの子はアイドルとして、必ず戻ってくる。
それを信じるしかないと思った。
アイドルとしてデビューして半年の間、俺の世界は180度変わっていた。
顔が知られ、街中で声をかけられることも出てきた。
それでも、ファンの人たちの応援が俺の力になっていると強く感じた。
アイドルとしてみんなの前でパフォーマンスできることに感謝が溢れた。
そんな時、同じ事務所で新しいオーディションが行われると聞いた。
今回は公募型で進めるらしく、型破りなメンバーを集めるのが目的だと聞いた。
これならネネルーナも行けるんじゃないか?そう直感した。
俺たちと同時にデビューした女性アイドルグループPhase9は、セクシーなダンスナンバーが多いと感じる。
ネネルーナも出来るとは思うが、ちょっと彼女のイメージとはズレていると思っていた。
一般公開はなかったが、最終審査では1000人もの観客を動員して行われた。
俺たちも初心を思い出すという目的でその会場で最後のパフォーマンスを見守っていた。
正直、負けたくないって思った。
感動の波が何度も押し寄せるようなパフォーマンスだった。
作詞作曲、ダンス構成まで自分たちでやってしまうなんて…
さすが公募型。
これからデビューしたら、間違いなく新鋭の星になる。
——俺も負けてられない。
だが、まずはネネルーナに直接会っておめでとうを伝えよう。
そう思いながら日々を過ごしていた。
朝、久しぶりにネネルーナを見かけた。
俺はアイドルになって忙しくなり、ネネルーナはオーディション準備でなかなか会えなかったからだ。
「ネネルーナ!」
後ろから呼び止めると、朝からまぶしい笑顔を向けてくれた。
「アレキ先輩、おはようございます。お久しぶりですね。」
彼女が元気にしていたみたいでホッとする。
「おはよう。ほんと、久しぶりだな。あと、合格おめでとう!ネネルーナもアイドルになるんだな」
やっと直接おめでとうが言えた。俺は心が軽くなった。
「ありがとうございます。アレキ先輩もデビューおめでとうございます。」
「ありがとう。これからは一緒にアイドルの道に進めるな」
この後輩からたくさん刺激をもらえるだろう。
俺も頑張らないとな。
ネネルーナはこれから3年間の恋愛禁止が待っている。
事前に伝えた方がいいんじゃないか…?
「あ、ところでなんだけど、この事務所、やっぱりアイドルになったら3年間恋愛禁止のルールがあったよ」
「……そうなんですね」
ネネルーナは少しだけ目を伏せてから、また顔を上げた。
その瞳に、ほんのわずかに迷いの色が見えた気がした。
ハオがいるからだろうか…
あの子の目が潤んでるのを見て、つい手を伸ばしかけたけど、ぎりぎりでやめた。
そんなことをしたら、気づかれてしまうかもしれない。
俺のこの気持ちに。
「じゃあ、アレキ先輩は今は恋愛できないんですね」
ネネルーナのちょっと揶揄うような言い方が意外で、パッと目を見開いた。
やっぱりネネルーナは可愛いな。
なぜか苦々しいものが俺の中に少しだけ広がった気がした。
「あぁ…そうなんだ」
そう言えば、恋愛禁止ルールといえば、俺のグループでもちょっとあったんだよな…
あの時を思い出して、つい苦笑いになる。
「このルールが適応される前、実は俺たちの男子メンバーも色々あってさ…」
ハオとネネルーナが正式に付き合うまで秒読みという噂も最近耳にしている。
あれだけ仲がよくいつも一緒にいるのに、逆に付き合っていないことが不思議に思えた。
だったら、俺の経験を伝えたらいいんじゃないか?
わかってる。
あの子の視線の先に、自分はいないってことは——とっくに。
だからもう、俺がこれ以上踏み込むべきじゃない。
「メンバーの中に貴族もいてさ。恋愛禁止になる前に婚約してしまおうと躍起になってたんだ」
やっぱり、ネネルーナにとっては寝耳に水だったようだ。
俺もネネルーナを見ていると、守ってあげたいと思うことがある。
でも、それはきっと大切な後輩だから。
俺はこんな形でネネルーナの恋の応援をさせてもらう。
俺の中に一点のシミができたけれど…
でも、ネネルーナの笑顔がみたいと思ってしまったんだ。
——あの雷の従者。
あいつがどれだけ本気なのか、見極める目くらいは、俺にもあるつもりだ。
彼女への淡い想いを断ち切るように、俺はパッと顔を上げた。
緑夏の太陽に照らされ、俺は応援してもらっていると感じた。
俺はアイドル活動に集中しようー
それでいいんだ。
「せっかくだし一緒に練習しないか?事務所の先輩、後輩として。事務所でコツを教わったから、教えようか?」
……けど、それでも隣にいたいって、思ってしまうのは、ズルいかな。
「はい!お願いします!」
彼女の明るい響きが俺の中にこだました。
この手を引くのは、たぶん今日じゃない。
せめて、もう少しだけ。
——この場所にいさせてくれ。




