9-11. ネネ視点:「夢の方を向いている」
アイドルになって変わりゆくものがある中で、変わらないものもあった。
護衛がつけられるようになった。
わたしはハオの留学期間が終わるまで、ハオに護衛をお願いしたいと断った。
しかし、ほかのメンバーには一人ずつ護衛がつけられていた。
もし護衛がつくとしたら、わたしは女性の護衛をつけたいとも思っていた。
わたしはハオだけが好き。
他の可能性を少しでも生みたくなかったから。
護衛の話が出た時、ハオとの時間が限られていることがますます浮き彫りになった。
……実は、この前、勢いで「好き」と言ってしまったことが、今もずっと心に残ってる。
ハオはどんな顔をしていたっけ。
あの時、ちゃんと伝わったのかな。
わたしはもっと、ちゃんと気持ちを伝えたかった。
……あんなふうに、唐突にじゃなくて。
緑夏の日差しに当たり、じりじりと汗ばむ…
まるで、わたしの焦る気持ちを表すかのように…
どんな言葉で伝えよう…
どうやったらわたしの気持ちが伝えられるかな…
ハオと離れてしまっても繋がり続けるにはどうしたらいい…?
考え事をしながら朝練ができるダンスホールへ向かっていると、ふいに後ろから声をかけられた。
「ネネルーナ!」
久しぶりの声に反応して後ろを向くと、微笑むアレキ先輩が立っていた。
「アレキ先輩、おはようございます。お久しぶりですね。」
「おはよう。ほんと、久しぶりだな。あと、合格おめでとう!ネネルーナもアイドルになるんだな」
「ありがとうございます。アレキ先輩もデビューおめでとうございます。」
「ありがとう。これからは一緒にアイドルの道に進めるな」
アレキ先輩は公開オーディションで合格し、その半年後にデビューを果たしていた。
同じ事務所の先輩グループで、頼りになる存在だ。
わたしは笑顔で答えた。
「はい!頑張りましょうね!」
「あ、ところでなんだけど、この事務所、やっぱりアイドルになったら3年間恋愛禁止のルールがあったよ」
この事務所にはそのルールがあると噂で聞いていたけど、やっぱり本当だったんだ。
「じゃあ、アレキ先輩は今は恋愛できないんですね」
わたしは目を細めて、ちょっと揶揄うように伝えた。
「あぁ…そうなんだ」
なぜか目の前のアレキ先輩は苦笑いしている。
どうしてだろう…
「このルールは適応される前、実は俺たちの男子メンバーも色々あってさ…」
何それ…とても気になるのですが…!
わたしは聞く体勢を見せて、話の続きを促した。
「メンバーの中に貴族もいてさ。恋愛禁止になる前に婚約してしまおうと躍起になってたんだ」
わたしは衝撃が走った。
…婚約……その手があったんだ!?
ルール適用前に婚約しちゃうという抜け道が!
「確かに、もう婚約している身なら、仕方ないですもんね!」
わたしは可能性が見えた気がした…
恋愛禁止でも、婚約していれば……一緒にいられる……!
わたしは期待に胸が膨らんだ。
もしかして、これって運命じゃない!?
わたしの顔、今めちゃくちゃニヤけてる気がする……
……あれ?なんだろう。
アレキ先輩、ちょっと苦笑いしてた?
うーん、まさかね。
きっと気のせいだ。
わたしが顔に出過ぎちゃってるからだよね。
するとアレキ先輩がパッと顔を上げた。
緑夏の日差しに負けないくらい、輝いている。
中性的な整った顔。
アイドルになって、ますますカッコよくなった気がすると、そんなことを思ってしまった。
「せっかくだし一緒に練習しないか?事務所の先輩、後輩として。事務所でコツを教わったから、教えようか?」
アレキ先輩の優しさは変わっていないな。
「はい!お願いします!」とわたしはアレキ先輩の横にちょこんと並んだ。
わたしは、わたしの道を進むだけ。
でももし——少しでも早くハオと未来を繋げる方法があるなら、迷わずに選びたい。
そんなことを思いながら、アレキ先輩と並んでダンスホールへと歩き出した。




