9-9. 運命のカウントダウン
舞台袖で感動の渦に巻き込まれていたけれど、わたしたちはまだ最終審査の途中。
終わったわけじゃない。
全員でステージへ戻り、手をつないで一列に並ぶ。
いよいよ、最後の結果発表を迎える時だった。
ステージ前方では、審査員の方々が円になって熱心に話し合っている。
わたしたちは、ただその結果を静かに──祈るような気持ちで待った。
やがて、一人の審査員がマイクを手にしてステージへ上がってきた。
その人は、わたしの公開オーディションでお世話になった方だった。
一呼吸おいてから、静かに言葉が放たれる。
「それでは、合格者を上から読み上げます」
会場の空気が、ぴんと張り詰めた。
「一人目、ユーナ・ディルク」
大きな拍手が起こった。
ユーナは一歩前へ出て、お辞儀をする。
真剣な表情のまま、視線をまっすぐ前へ向けていた。
まるで、全員の名前が呼ばれるまで責任を背負っているかのように。
「二人目は、ジャスミン・カーパー」
また拍手が湧く。
ジャスミンは手をつないだままお辞儀をし、少しだけ笑った。
けれど、つなぐ手はしっかりと離さなかった。
「三人目、ドロテア・クーデン」
ニコッと笑って、ペコッとお辞儀。
ドロテアは作詞作曲ができるから、きっとグループにとって必要な存在なんだ。
でも彼女も、感情を爆発させることなく冷静に手をつなぎ続けていた。
──名前がひとつずつ、読み上げられていく。
「七人目、ヒヨナ・コーガン」
その瞬間、わたしはヒヨナを見た。
彼女もすぐにわたしに目を向けて、何とも言えない表情を浮かべる。
ヒヨナは優しいから、自分が受かったことより、まだ名前が呼ばれていないわたしたちのことを気にしてるんだ。
そういえば──このグループって、何人なんだろう?
まだ「最後の合格者です」とは言われてない。
ということは、8人?9人?
……いや、まさか7人で終わりってことは──?
焦りがじわじわと心を覆ってくる。
わたしの心臓はバクバクと音を立てて、手には汗がにじみ出ていた。
「八人目、シルビア・カルペン」
……これで8人。
でも、まだ「最後の一人」とは言われてない
──ということは、もう一人いる!
残るは、わたしとイルサのふたりだけ。
合格したい。
でも、イルサが落ちるのは嫌だ。
頭の中がぐるぐるして、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
お願い、どうか──
「九人目、イルサ・ホークス」
会場から拍手が起きた。
でもそのすぐあと、客席からざわめきが広がった。
「えっ……ってことは……」
「9人グループなの?」
「まさか、一人だけ不合格……?」
残されたのは、わたし一人。
何かが胸に刺さったような感覚と、時間が止まるような沈黙。
そして──
「十人目、ネネルーナ・エストラーダ」
……え?
一瞬、言葉の意味がわからなくて、体が動かなかった。
でもすぐに、つないだ手のぬくもりがわたしを現実へ引き戻してくれた。
わたしは一歩、前に出て礼をした。
その瞬間、会場がざわめいた。
すると、マイクを持った審査員の方が改めて語りかける。
「本来、このプロジェクトの合格枠は、最大7名の予定でした。
けれど、今日のステージを見て、私たちは決断しました」
「実力、表現力、そしてチームワーク。
どれもが私たちの想像を超えるものでした。
この10人だからこそ、“未来”を託せると、そう強く感じたのです」
「──よって、ここにいる10人全員を、合格とします!!」
会場がどよめき、一瞬の沈黙のあと、大歓声が巻き起こった。
わたしたちは飛び跳ねて、ハイタッチをし合い、歓びいさんだ。
そして自然と、涙があふれてきた。
10人全員で抱き合う。
一番泣いていたのは、ユーナだった。
きっと、最初に名前を呼ばれたからこそ、最後まで気を張っていたんだと思う。
彼女はひとりひとりに熱いタックルをかましていく。
笑いながら、泣きながら。
「この10人こそが、私たちの“未来”です!」
──パーン!
花火が上がる音とともに、キラキラと紙吹雪が舞い上がった。
わたしはアイドルになったんだ。
この最高のメンバーで。
夢だったステージで、未来を照らす存在として、いま──。
心はふわふわと浮かんでいるようで、それでも視線はしっかり前を見ていた。
そう、ここからがスタート。
わたしが、みんなの“希望の星”になるんだ。




