9-6. わたしたちの光になる歌
作詞作曲の制作は、学ぶことばかりで、気づけば時間があっという間に過ぎていた。
「なぜその言葉を選ぶのか?」
「その言葉で何を伝えたいのか?」
たくさんの表現の中から選び取る作業は、今までにないほど言葉と真剣に向き合う時間だった。
心の奥底を覗くようで、濃密で、熱くて、眩しい日々だった。
誰かを好きになる気持ち。
好きな人を想って胸が躍る瞬間。
この曲を作っていると、思い浮かぶのは、やっぱり――ハオだった。
ハオと出会ってから、わたしの人生には“彩り”が添えられた。
嬉しい、楽しい、幸せ――そんな感情だけじゃない。
イライラ、モヤモヤ、言いたいのに伝えられなかったもどかしい夜。
でも、そんな夜さえ、今となっては大切な記憶だと思える。
ハオから、わたしは“感情”という、かけがえのないプレゼントをもらっていた。
そのことをヒヨナとドロテアに話すと、二人とも「わかる〜!」と大共感の嵐になった。
それぞれにも、大切な“想い”があることがわかった。
ヒヨナは言った。
「わたしね、7歳年上の人に惹かれてて……でも、その人には婚約者がいたの」
「うんうん」
とわたしとドロテアは、静かに耳を傾ける。
「でも、その婚約者の方から、婚約を破棄したみたい。詳しくはわからないけど……」
「ええっ、それって……まるでドラマみたいな展開だね」
「最初は諦めようって思った。でも……婚約者がいなくなった今、やっぱり、まだ好きでいたい、諦めたくないって思ったの」
ヒヨナが伏し目がちにため息をついたとき、その横顔に宿る“芯の強さ”を、わたしは確かに感じた。
どんな状況でも想いを貫くヒヨナ。
彼女の恋、絶対に叶ってほしい。
わたしもドロテアも、心からそう思って「応援するよ」と伝えた。
一方でドロテアは言った。
「わたしは、幼馴染のことが好き。でも……あいつ、いつもへらへらしてて、わたしの気持ち、かわすのよ!ほんとムカつくの!」
そう言いながらも、その表情はどこか楽しげで――。
「恋って感じに持ち込むの、幼馴染だと難しいんだよね。もう、やになっちゃう!」
でも、彼女の言葉の奥には、愛しさが溢れていた。
「わたしの想いはね、怒りみたいで、でも……まるで嵐の中で揺れる灯火みたい。儚くて、でも大切なものなの」
その言葉に、わたしはドロテアの作詞力の高さを感じた。
恋する気持ちを、こんなふうに美しく言葉にできるなんて、本当にすごい。
三人で語り合った時間は、まるで魔法がかかったかのように、キラキラしていた。
こうして、わたしたち“恋する乙女三人組”で作り上げた青春ソングが、ついに完成した。
ドキドキの中、メンバー7人の前で発表の時がきた。
ドロテアがふわっと魔法をかけると、音楽が空間を包み込む。
曲が終わると、自然と拍手が湧き起こった。
円陣を組んで、これから演出を練っていくフェーズに入る。
「さわやかさを出したいね」ということで、曲全体のイメージは“水色と白”に決定。
最初の演出は、観客に魔法をかけるところから始まる。
観客一人一人の中に眠るワクワクやドキドキを呼び起こす魔法。
これは黒魔法の得意なメンバーが担当することになった。
演出のキーワードは“五感”。
風が吹いたり、光がきらめいたり、耳だけでなく、体で感じられる演出を目指した。
「魔法にかかって」という歌詞では、シャボン玉を飛ばす演出に。
光を反射して舞うシャボン玉は、まるで夢のかけら――青春のきらめきを映し出す。
「ジェットコースター」の歌詞には、聖獣に乗って空を飛ぶシーンを。
わたしたちはステージの空を、風のように駆け抜ける。
サビの「同じ空の下で」は、どうしてもわたしが入れたかったフレーズ。
あの時、ハオがくれた言葉――今ではわたしを支える大切な光。
ステージの天井には青空の魔法が広がり、クリスタルシャワーが降り注ぐ。
そして、アイドルに欠かせない“ペンライト”。
「きゅん」とした瞬間、虹色に輝く魔法をかけた。
誰かを想う気持ちが、光となって会場を照らす。
――その光景を想像するだけで、胸が震える。
わたしたちから生まれる光は、無限の可能性を秘めている。
歌で、魔法で、想いで。
人の心を動かすって、なんて素敵なことだろう。
わたし、やっぱりアイドルになりたい。
わたしたちが世界に放つのは――光。
そして希望。
どんなに暗い闇の中でも、誰かの心にそっと灯をともす。
その光が次の誰かへと繋がっていく。
わたしたちは、その“はじまり”になるのだと信じている。
たった2週間の期間だったのに、メンバーそれぞれが自分の役割に集中し、不思議なほど心が一つになっていた。
焦ることも、ぶつかることもなかった。
――この10人は出会うべくして出会った仲間だったのかもしれない。
初めて会ったのに、どこか懐かしく感じる。
そんな不思議な絆。
そして――いよいよその時が来る。
わたしたちの最終審査が、今――始まる。




