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魔法世界の王女は、恋をしてはいけない人に恋をしたーアイドルを夢見るわたしですが、世の中は厳しすぎますー  作者: りなる あい
第九章 ~4年生 アイドルオーディション~

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9-2. 陽春の木漏れ日の下で受け取ったもの

陽春の風に草花の匂いが混じる頃、わたしは新たなオーディションの審査を進めていた。

季節のエネルギーもかりて、この勢いに乗っていきたい。


今回のオーディションは公募型プロジェクト。

これは、別名:才能発掘プロジェクトと言われている。

才能や想いを重視する、非公開のオーディションだ。

技術より、どれだけ“夢”に本気かが問われるらしい。


ハオにそのことを伝えると、


「可能性を見てくれるから、公募型プロジェクトの方がいいかもな。一般公開じゃないし、前みたいに注目も浴びないから、まぁ、安心か…」


と言っていた。


公募型プロジェクトは、事務所のアイドルイメージに沿って選考が進むわけでない。

ハオがそういうことも知っているということに、わたしは驚いていた。

わたしのために、いろいろ調べてくれてたのかな?と良いほうに解釈しとこう。


前の最終オーディションで魔物が現れた時、ハオが助けに来てくれた。

それもあって、わたしの安全も考えてくれてることが純粋に嬉しい。


この公募型プロジェクトの最初の試験は、映像審査だった。

3分間の中に、わたしらしさを詰め込むにはどうしたらいいか…


たくさん考えた結果、希望、喜び、楽しさ、嬉しさ、ドキドキなどをダンスと魔法演出にして表現した。

この映像を作るプロセス自体、わたしはとてもワクワクした。

わたしのしたいことを、わたしのしたいように表現できたことがとても楽しかった。

わたしがアイドルになったら、大切にしたい要素をたくさん詰め込むことができた。

わたしを知ってもらえる映像にもなったと思う。


課題提出後、合格の結果が届いた。

とりあえず、一次審査を通過できたことに安堵した。

よし、これからも気を引き締めていこう!


そういえば、風の噂でアレク先輩は男性アイドルグループの公開オーディションでそのまま最後まで勝ち残り、無事にデビューすることが決まったと聞いた。

直接会ったら、お祝いの言葉を伝えられたらいいなと思うのだけど、なかなか学校で会う機会がなかった。

デビューが決まったことで、アレク先輩も忙しくしているのかもしれない。


第二審査はまさかの作文だった。

アイドルなのに?と驚いたけれど、文章での表現力も見ているのかもしれない。

テーマは自由に決めていいと言うことだったから、わたしは「なぜわたしがアイドルを目指すのか」に決めた。


わたしがアイドルと出会ったのは、4歳の時。

母の友人が初代アイドルグループのメンバーで、そのライブに連れて行ってもらったことがきっかけだった。

会場が一体となり、感動のエネルギーであふれるステージをみて、子どもながらアイドルに心が奪われた。

その時から、わたしはアイドルになることを夢見ている。


わたしはまだ作詞作曲をしたことはないが、これからはその分野も挑戦したいということも書いた。

わたしが世界に放つ音楽は、真善美であふれたものにしたいから。

聞いた人の心が軽くなったり、明るく前向きな気持ちになったり、勇気をもらえるような…

そんな音楽を私が奏でたいし、その思いが共鳴したらいいなと思うから。


わたしが通うミドバーレ魔法学校でも、音は波動であると教えられる。

音楽の祭典である青春祭は、音に乗せてエネルギーと想いを表現する場だ。

音一つで人々を嬉しい、楽しい、前向きな気持ちにさせたり、切ない、悲しい、辛い気持ちにもさせる。


音楽の力は大きい。

世界すら変えるものだと、わたしは感じている。


第二審査も無事に通過し、次は第三審査だ。

次の審査は、質疑応答。

作文をもとに、より深堀りする質問に自分の言葉で答えるというもの。

次はその場で臨機応変に、想いを目の前の相手に伝えられるかが評価される。


どんな質問がきても良いように、一人でぶつぶつと練習していた。

学校の中庭の木陰で風を感じながら練習するのは、とても心地が良いものだった。

木陰といえば、わたしがハオの素顔を見た時のことを思い出す。

ずっと仮面をつけていたハオの寝顔をみて、胸がドキッとしたんだよね…

いつか、恋をする気持ちも歌にできたらいいな…


「ネネ」


え…?

今、ハオのことを考えてたら、本物のハオにがこっちに向かってくる。

会えて嬉しいはずなのに、どこかぎこちなくなってしまう。

目を合わせるのが、少し怖い。

そんな自分が嫌になる。


「ハオ!どうしたの?」


だけど、ハオの顔を見るとやっぱり自然と笑みがこぼれた。

やっぱりハオが好き。

会えてうれしい。

ハオは、わたしの気持ちに気づいてる?


「ネネを探してた」


ハオの視線がやや伏し目で、少し口元が揺れている——

ハオの一言一言に胸がおどる。


「何かあったの?」


「実は…渡したいものがあって…ここ、座っていい?」


ハオが私に渡したいモノってなんだろう?

二人で木陰に腰を下ろす。

そういえば、こうやって二人でゆっくり落ち着けて話す時間、最近はなかったかもと思った。

わたしは学校の勉強とオーディションの準備に明け暮れているし、ハオはハオで最近忙しそうだし。


「手を出して」


と言われて、「はい」とわたしは右手を差し出した。


「利き手より、左手の方がいいかな」


そういって私の腕を優しくつかみ戻すと、次は左手をそっとすくって目の前にもってきた。

ハオの手が私の腕に触れた瞬間、心臓が跳ねた。

まるでお姫様のような扱いに顔が熱くなるのを止められない。

ハオの造作って、とても洗練されている。

なんというか、上品で気品があるというか…

従者にしては出来すぎているというか…


「はい、これがプレゼント」


ハオが私の手首に両手をかざすと、紫のブレスレットが現れた。

わたしは驚いてハオの顔を見つめる。


「あれ?これって、ハオがいつもつけてるブレスレットじゃないの?」


ハオの手首には、今はなにもついていなかった。


「いつだったか、このブレスレットをほしいって言ってただろ?」


そう、それは緑夏のお泊り会の時だった。

ハオが料理する手元のブレスレットを見た時に、ブレスレットほしいなって心の声が漏れちゃったことがあったんだよね…

あの何気ない会話を覚えていてくれたことが嬉しかった。


ハオの一つ一つの言動で一喜一憂してしまう自分が愛しく感じる。

恋の楽しさを味わっていることを実感する。


「これ、ハオの大切なものじゃないの?もらっていいの?」


「…今は、ネネにとって必要なものな気がするから。いいんだ。受け取ってくれ。」


ハオの声が、春風に乗って胸に響く。

ハオ、もしかして照れてる?

ちょっとぶっきらぼうな口調だけど、ハオの優しさが伝わってきた。


ハオって冷たい態度のときもあるけど、本当はすごく優しいんだよね。

わたしはそれを知っている。

誰にも知られたくないと思ってしまう。


初めてハオに贈り物をもらえたことがとても嬉しかった。

しかも、身に着けられるもの。

ずっとハオが傍にいるみたいに感じる。


「じゃあ、ありがたく受け取るね。ありがとう!ハオからの初めてのプレゼントだね。嬉しい。肌身離さず、ずっとつけとくね!」


わたしが喜びを爆発させてたら、ハオは苦笑いしながらも照れていて可愛かった。

世界中の人にこのブレスレットを自慢したい気持ちになった。


わたしが一人で盛り上がっていると、急に遠くを見つめるハオの横顔が気になった。


「世界はこんなに広いけど、同じ空の下にいるって思うと強くなれるよな…」


ボソッとつぶやくハオの言葉が私の心に引っ掛かった。

どうしてそんなことを言うの…?

——それって、遠くへ行く覚悟をしている人の言葉みたい。


まただ…

ハオは今、何を考えているんだろう…


プレゼントがもらえて近づけたと思ったのに、どこか遠くに感じてしまうのはなぜだろう…

でも、このブレスレットをつけていたら、少しはハオの心に近づけるのかな…?

わたしは近くにいきたい、ハオの中にわたしを入れてほしい。


嬉しさの中に、切なさを感じた。

これから先、どんなことがあっても身に着けよう。

衣装の関係でつけられない時があっても、透明化の魔法をかければ、誰にも見えない。

そんな未来のことまで考えてしまう。

ハオとのつながりをずっと感じていたい。


頬をなでた春の風より、きっとわたしの方が熱かった。

心も、頬も。

あの木漏れ日の下で、確かにわたしは“なにか”を受け取った気がする。


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