9-1. 心にふたたび灯った光
あれから、半年が経った。
あの日、合格した9人のメンバーはすぐにデビューへ向けて本格的な活動を始めた。
彼女たちのグループ名は
〈Phase9〉
”人生の「フェーズ(段階)」+9人組少女から次のステージへ」”
という意味が込められていた。
デビュー曲は、女性の力強さや、しなやかさ、そしてセクシーさを全面に押し出したダンスナンバー。
衣装もステージ演出も、まさに“大人の女性像”を描いたコンセプトで、瞬く間に注目を集め、ランキング上位に食い込んでいた。
テレビ越しにそれを見て、わたしはやっぱり胸の奥がきゅっと痛くなった。
「みんな、すごく輝いてる……」
でも、どこかで思ってしまう。
わたしがこの中にいたら、どうなっていたかな?
その時、隣にいたハオがふとつぶやいた。
「……ネネの魅力は、このグループじゃ活かしきれないな」
わたしは驚いて、ハオの方を見る。
審査員の人と同じ言葉…
「え?」
「Phase9は、少女から大人へと“完成された女性像”を魅せるためのグループ。強くて、美しくて、セクシーで、大人びてる。それに対してネネは…」
「わたしは?」
「……もっと、透明で、純粋で…まるで、光そのものみたいな存在だって俺は感じる。」
わたしの目を見ていってくれた、ハオの言葉が嬉しかった。
そんなふうにわたしを見てくれていたことが。
ハオに言われて、審査員の人が伝えたかった意図が分かりそうな気がした。
「ネネは、自分を魅せるっていう域ではなくて…なんというか、“希望そのもの”って感じなんだよな」
「希望…?」
「ネネがステージに立つと、みんなの心が動く。涙が出るような、不思議な力がある。でもそれは、“色気”や“強さ”のパッケージには収まらない。だからこそ——プロデューサーは“君を活かしきれない”って言ったんだろうな」
わたしは言葉を失った。
ずっと胸に引っかかっていた“あの一言”が、やっと意味を持ったような気がした。
「でも、それって……」
「100点満点のネネが合格できなかったのは、ダメなんじゃなくて、“合わなかった”ってだけだ。
むしろ——ネネには、ネネにしかできないステージがあるってことだ」
ハオの声は静かだったけれど、確信に満ちた紫の瞳がわたしを捉えていた。
「見せるんだろ?ネネが本来の光を放てる場で輝いている姿を」
「……うん」
「このまま、夢を終わらせるつもりはないんだろ?」
わたしを覗き込むハオの瞳で、わたしの胸の奥に、じんわりと熱が灯る。
そうだよ。
わたしは、まだ——終わってない。
あの挫折も、涙も、空洞さえも。
いつか、光に変えるためにあったんだ。
そう思えた時、わたしはもう一度、歩き出す覚悟を決めた。




