8-11. 満たされた魔力、満たされない想い
チーム分けが行われ、課題曲も発表され、発表までのら準備期間が始まった。
ダンスや振り付けの指導もしてもらいながら進んでいく。
わたしはここにきて、非常にまずいと思った。
ダンスはわたしがあまり踊ったことがない系統だったから…
練習するんだけど、なかなかいい感じに決まらない…
覚えるのにも時間がかかっている…
みんなの足を引っ張ってしまうんじゃないかと不安がよぎる。
歌の指導では、発声の仕方そのものを直すように言われてしまった。
特に、高い音を出すときに、喉を縮めるのではなく広げて歌うのだと指導されるが、そのコツがなかなか掴めない…
わたしの伸び代がたくさんあって、成長できるとは感じているけれど、苦手分野ばかりなのが苦しい…
雷型は照明の魔法でステージを引き立てることが多いけれど、いつもと違う魔法を使うことも課題に入っていて…
みんなでどんな魔法演出にするか話し合いをするけれど、なかなか決まらなくて焦ってしまう…
本当に…わたしパンクする!と思った。
他の参加者も苦戦してるようだけど、わたしが1番足を引っ張ってしまっていると感じてしまって…
チームメンバーに言われた訳じゃないのに、わたしがそう思ってしまってるから、チームメンバーの言動に苦しくなることも増えてきた…
練習時間は23:00までだから、それ以降の時間は暗い屋上で一人で練習していた。
その日は雨が降っていたけれど、構わなかった。
何とかみんなに追いつきたくて必死だった。
もう一度、もう一度…次こそは…
自分にできると言い聞かせ練習していると、
バサっと音がした。後ろを振り返ると、ハオと聖獣のドラゴンが舞い降りた。
ドラゴンの瞳が、雨が降る暗闇の中でもわたしを射抜いている。
雨に濡れたわたしを見つけたハオが駆け寄ってくる。
「ネネルーナ、何でこんな雨の中練習してるんだよ。風邪引くだろ」
ハオは優しくわたしを抱きしめた。
ハオの心配するような声に泣きそうになる。
ハオはそのまま雨に濡れないように保護魔法をかけてくれて、同時に濡れた服や髪の毛を乾かす魔法もかけてくれた。
やけになってたから、わたしはそんな魔法を使うことを忘れていた。
ハオはわたしの両肩を掴むと、わたしの顔を覗き込む。
「ネネルーナ、もっと自分を大切にしろ。」
ハオに怒られた。
本当にその通りだと思う。
凍冴の夜の雨が降る中、夜遅くまで濡れながら練習してたんだから…
「焦りや不安から行動しても、いいことないぞ。どんな状態でその行動を始めるかで、結果は決まるんだからな」
わたしはハオにぎゅっと抱きついた。
涙が溢れそうになったから…
「わたし、今まですっごく楽しかったの。ダンスも歌も魔法も。でも今は、全部うまくいかなくて、自分でもどうしたらいいかわからなくて…苦しいの…」
「そうなのか…」
ハオはわたしの頭を撫でてくれる。
あぁ、またわたし、ハオに頼っちゃってるな…
「ネネルーナ、今から俺とエネルギーワークをしないか?ヒーリングよりこっちの方が効果があるはずだ。」
急な提案と、エネルギーワークを知らないからわたしがビックリして離れて、ハオの顔を見つめる。
「ネネルーナは頑張りすぎて魔力が枯渇してると感じたんだが…実際はどうだ?」
「確かに、魔力が枯渇してるかも…」
「それだと、頑張りたくても頑張れない。悪循環が生まれるだけだ。
このエネルギーワークは、本当は聖獣が番になった後でパートナー同士がするものなんだ。番じゃないネネにするのは少し気が引けるけど…でも、今のネネを見てたら、他の方法なんて考えられなかった。これが1番、ネネのためになると思うから…」
抱きしめていたわたしから少し離れると、互いに手を合わせて恋人繋ぎをして向かい合わせに立った。
わたしはこの状況に照れてしまう。
「今から俺がエネルギーを流すから、ネネは自分の呼吸を意識してエネルギーが自分の中で溢れるようにするんだ。いくよ。」
目を瞑って呼吸に意識を向けると、ハオの力強いエネルギーがグッと流れ込むのを感じた。
あまりの強さに、一瞬くらっとなってしまった。
「ごめん、強すぎた。もっと優しくするから」
エネルギーがさっきよりも優しくなり、わたしの体の中へ入ってくる。
「呼吸と一緒に体の中に巡らせるんだ。息を吸うときは俺からエネルギーをもらうことを、吐く時は体内にクリスタルシャワーが充満していく感じで」
呼吸に合わせてイメージをしていくと、だんだんハオのエネルギーでわたしが満たされていくのを感じた。
どのくらいしてたんだろう…
長かったような、一瞬のような…
わたしは魔力が満ちたことで、前向きになれた気がした。
魔力を枯渇するほど使ったら危ないのに、自分のことを考えてあげられてなかった…
「ハオ、ありがとう」
わたしなんかに、こんな大切な魔法を…
エネルギーワークって、本当は番になった人たちがするって言ってたよね。
──もしかして、わたしにもその可能性があるってこと…?
雨の降る暗い夜なのに、紫の瞳には光が宿っていた。
いつも助けてくれるハオが愛しくてしかたない。
ハオへの想いが溢れてしまう。
今言うタイミングじゃないのに、それでもわたしの心の声が出てしまった。
「わたし、あなたのことが好きになっちゃった。アイドルを目指し続けられるのか、わからなくなりそう…」
たった今、わたしのことを応援するためにエネルギーワークをしてくれたのに…
でも、わたしの気持ちも止まらなくて…
ハオはわたしを引き剥がし、光の宿る紫の瞳がわたしをとらえた。
「ネネには夢を追いかけて、アイドルになって輝いてほしい。ネネはみんなを笑顔にする人だから。
俺が好きなのはそんなネネなんだ…
俺のために自分の未来を棒に振るのはダメだ。」
一つ一つの言葉を選んで、真剣に伝えてくれることが伝わった。
「わたしはアイドルもハオも手に入れたい」
わたしも精一杯、言葉を紡ぐ。
「俺はダメだ。君の力になれない」
ハオの言い切った言葉に胸がグッと掴まれたようだった。
「何でそんなこと言うの?ずっと応援してくれるんじゃないの?」
「こっちにだって言えない事情がある…」
そう言って、ハオはわたしから目を逸らした。
なんであなたが泣きそうな顔してるの。
泣きたいのはこっちだよ。
いつもみたいにからかってよ、馬鹿にしてよ。
好きと伝えたけれど、わたしの気持ちはあなたには届かないのかな…
魔力は溢れるほどに満ちていくのに、ハオの言葉は、わたしの心を冷たくしていくようだった…




