8-10. こじらせ乙女、爆発5秒前
一次審査の結果は、22名中4位だった。
わたしのパフォーマンスを4位と評価してもらえたことがとても嬉しかった。
この調子で次の審査も頑張ろうと気合いを入れた。
この一次審査で5名が脱落し、17名が残った。
二次審査では、3グループに分かれてチームダンス発表がある。
3週間泊まり込みで行われ、新しく渡された曲をチームで作り込んでいく。
わたしは3週間学校を休むことになる。
さすがに3週間学校を休んでもらって、ハオに護衛を頼むことはできないと思った。
ハオには護衛せずに、羽を伸ばして学校生活を送ってもらおうと思った。
3週間分のお泊まりセットは4次元ポケットに詰めている。
身軽な状態で養成所の宿舎まで送ってもらった。
男性のオーディションも同時に行われているから、女性、男性の参加者が集合していた。
「そういえばさ、この前待っている時、男性の参加者がネネルーナのこと可愛いって言ってた」
一緒に待ちながら、立っていたら、ハオが話し始めた。
「へぇ、そうなんだ。」
わたし、そういうの全然興味ないんだよね…
むしろ、ハオがそう思ってくれてたら嬉しいんだけど…!
わたしが興味なさげな反応だったからか、ハオがそのまま続ける。
「アイドルになる人たちって、みんな美男美女ばっかりじゃん?やっぱり、アイドル同士でくっつくことが多いんだろうな」
わたしはなぜか、このハオの言葉にカチンときた。
わたしもなぜかわからない。
でも、他人事のような感じがしてすっごくムカついた。
わたしもそのアイドルたちの一人としてみられている気がしたから。
わたしが心を向けている人はハオなのに…
何でそんなことを、わたしに伝えるかな…!
今、それ言う必要ないじゃん…!
だんだんわたしのイライラが大きくなっていく。
ハオに当たってもいい事ないのはわかっているのに、わたしは感情が止められない。
どんどん自分がめんどくさい子になっていく…
「ハオは、わたしが他のアイドルに目を向けて、そのうち、くっつくって思ってるんだ?」
自分、ほんと可愛くないって思う…
でも、わたしの口が止まらない。
「別に、そんなつもりで言ってないんだけど…」
ハオはわたしがイライラしてることに気づいたみたい。
ギョっとした顔でこちらを見ている。
「めっちゃ他人行儀だったじゃん。アイドルになる人はアイドル同士でくっつくんだろって」
ハオを睨みつける。
ハオにとっては、わたしが誰とくっついてもどうでもいいことなんだ…
どんどんマイナス思考になっていくわたしの手をハオが握ってきた。
「だから、そんなつもりで言ってないって」
ハオの口調が、さっきより強くなっている。
でも、わたしの拗ねた気持ちはまだ続いている。
「もういい!」
わたしはハオの腕を振り払った。
「俺の話、聞く気ないなら、俺のことが嫌いになるようなことしようか?」
紫の瞳がキラッと光った。
ハオの瞳に熱が宿っている気がした。
「嫌いになるようなことってどんなこと?」
わたしはハオを挑発するように聞いた。
すると…
…え…?急に顔に手が添えられて、唇が近づく。
きゃっと思った瞬間、彼の唇はわたしの唇の少し上に落とされた。
きゃー!!!
ハオからの不意打ちのキスに見せかけたキス。
どうなってるの?
ハオは何を考えてそうしたの?
よき!
むしろもっとちょうだい。
こんなので嫌いになってたら、そもそも好きになってないわ。って叫びたいけど…
ってゆうか、参加者のみんな周りで見てるんですけど!
ハオ!何してるの!
背後で、誰かが
「今の、見た?」「やば、キス?」
とひそひそしているのが聞こえた。
なのに、ハオはまったく動じていない。
「気にするな」みたいな顔で、ハオの指先がわたしの頬に触れたままだ。
「……じゃあ、あんまり他の奴に可愛いとか言われんなよ。……俺が変なこと言っちゃうから。」
キス未遂からの、小さい声でささやくハオ様…
破壊力エグすぎです…
今、とっても注目を浴びてる…
ここは、お淑やかになろう…
心臓はバクバクで大変なことになってるけど…!
「こんなことで嫌いになるって、本当に思った?」
わざと節目がちに、小さい声で伝えた。
わたしの怒りは一瞬で吹き飛んだ。
ハオに掴まれた心臓が、わたしの中で高く鳴り響いていた。
ああもう……嫌いになるどころか、
わたし、ますますハオが気になって仕方ないんだけど。




