8-9. 一瞬の煌めきが、誰かの未来になる
凍冴の風が頬を切るように吹きつける朝。
わたしはマントをぎゅっと握りしめながら、公開オーディションの会場へと向かっていた。
すぐそばにはハオがいる。
わたしの護衛として、今日も学校の授業前にわざわざここまで付き添ってくれた。
「おまえの初舞台だからな。送って当然だ」
そう言って笑ったハオの声が、冷たい風の中でも温かく響いていた。
護衛という任務であっても、こうして誰かに大切にされている感覚は、心の奥に灯る希望みたいだった。
一次審査は、自分の“いちばんの魅力”を魔法で表現すること。
持ち時間は3分。
会場には観客もいて、審査の様子は放送される。
名前を呼ばれるたび、次々とステージに立つ出場者たち。
みんな輝いていて、自信に満ちていて、自分の魔法をどう見せるかに工夫が凝らされていた。
魔法で魅せる世界に、観客から感嘆の声が漏れる。
…すごいな。みんな本気だ。
この中で“順位がつく”ことの重みが、ひしひしと胸に迫ってくる。
でも――これを越えなきゃ、夢には届かない。
*
半分が終わったところで、休憩が入った。
次は、わたしの番。
心臓の鼓動がドクン、ドクンと、体の奥から響く。
鼓動が速くなるほど、生きてることを実感できる気がして、怖いけれど、どこかでわくわくしている自分がいる。
「大丈夫。練習した通りにやるだけ。あとは楽しむだけだよ、ネネ」
そう自分に言い聞かせて、わたしはステージへ上がった。
*
照明が落ち、音楽が流れる。
ステージの前に、ペンライト型の魔法装置が現れる。
わたしが魔力を込めると、審査員や観客の前に光が弾けた。
この魔法は、“感動を伝える”魔法。
わたしのポジティブな想い(喜び、希望、感動)をペンライトに乗せて届ける。
掴んだ人の魔力と共鳴すれば、ペンライトが空にその人の光を放つ。
これは、ただの演出じゃない。
わたしが人に届けたい“心の魔法”なんだ。
わたしは歌い、踊った。
届け。
わたしの声が、想いが、誰かの心を震わせますように。
この舞台を見て「明日も頑張ろう」って、そんな風に思ってもらえたら、嬉しいから。
*
パフォーマンスが終わると、わたしの胸に拍手の音が降りそそいだ。
はあ…終わった…!
息を吸い込んで、ステージ中央に立つ。
審査員たちが、わたしをじっと見つめていた。
「素晴らしいパフォーマンスでした。ネネルーナさん、あなたは雷型の魔法使いですよね? でも、雷型の魔法を使わなかった理由は?」
わたしは少し息を整えてから、ゆっくり答えた。
「はい。最初は雷型で行こうと思っていました。でも……見てくれる人が楽しんで、心を動かしてくれるなら、わたしの属性にこだわらなくてもいいって、そう思ったんです」
「なるほど。意外性があってよかったですよ。そして、このパフォーマンスを通して、あなたが一番伝えたかった魅力は何ですか?」
わたしは少し間を置き、まっすぐ前を見て言った。
「“巻き込む力”です。
わたし一人じゃ、きっと何も変えられないけれど……でも、誰かの心を動かせたら、その人がまた誰かを動かしてくれる。
わたしの魔法が、“希望の連鎖”になれたらいいなって、そう思っています」
この言葉に、ステージの向こうからまた拍手が響いた。
一瞬だけど、夢が、ほんの少しだけ近づいた気がした。




