8-7. アレキ先輩視点:朝のひと時と鋭いまなざし
今朝も早く起きて自主練へ向かう。
ダンスの練習ができる場所が校内中にあるから、その日の気分で行き先を決める。
ネネルーナも朝に練習をするタイプだから、見かけたらその日はラッキーだ。
彼女を探して校内を歩き回るのは、ちょっと違う気がするから、たまたま場所が被ったらいいなと思っている。
今朝は俺が行こうと思っていたダンスホールに、先にネネルーナが来ていた。
俺たちはどちらも公開オーディションに進んだ。
一緒に練習したり、アドバイスができるかもしれないと思い声をかけたが、まだ演出が決まっていないらしい…
「そうだよな、練習の期間も考えると、そろそろ決めたいよね。何がいいんだろう…」
ネネルーナの力になりたいと思うが、俺もあまりいい案が浮かばなかった…
笑顔を向けてくれるが、きっと心は焦りや不安があるだろうに…
こんな時も、元気に振る舞おうとする姿が愛しいと思った。
そして、今日、ネネルーナに会ったら伝えようと思っていたことを思い出した。
彼女がいつも頑張っている姿を、俺は見ていたよ、知っているよと伝えたかった。
「そういえばさ…ちょっと言いたかったことがあるんだけど…」
「…ん?なんですか?」
「3年生の秋ごろ、朝の練習終わりに、水のボトルが置いてあった日、あったよね?」
「……ありました!でも、誰が置いたのか結局わからなくて」
「……それ、俺なんだ。あのとき、なんか…声かける勇気なくてさ。応援してるって、そういう形でしか伝えられなかったんだ」
やっと言えた。
「……そっか、先輩だったんですね。ありがとうごさいます。うれしいです」
「俺、ずっとネネルーナのこと応援してるから…一緒に頑張ろうな」
目の前にいる、夢に向かって健気に頑張る女の子の頭を急に撫でたいと思ってしまった。
こんな感情を持ったことは初めてだった。
ポンポンと頭をなでると嬉しそうにしている顔が、まるで人懐こい猫みたいだなと思った。
「ネネルーナ!」
この声が響き、ネネルーナの意識が一気に持っていかれる。
声をする方を見ると、すごい剣幕でこちらを見てくるハオ君が入り口に立っていた。
あ…俺、牽制されてるな。
ハオ君が何を思っているのか、すぐにわかってしまった。
ネネルーナがハオ君に懐いていて、ハオ君は相手にしていないと思っていたのに…
なんだ、ハオ君もネネルーナを大切にしてるんだな、こんな牽制をするくらいに。
秒で荷物をまとめて、さっと手を振っていくネネルーナは、ハオ一直線だった。
ネネルーナの意識を全て持っていくハオ君が羨ましいと思ってしまった…
勝ち目のない恋はごめんだ。




