7-4. ネネルーナ視点:あの夜、彼だけが知っていたこと
楽しい時間はあっという間に過ぎ、お泊まり会の最終日となった。
今夜は花火をしよう!とルートが張り切っていた。
特殊な花火を発動する魔法陣が書かれた紙を持ってきてくれたらしい。
準備万端な姿から楽しみにしていたことが伝わって、可愛いらしいと思った。
夜ご飯も終わり、陰のエネルギーが強くなってきた頃、花火をそろそろ始めようかと、みんなで湖の側へ移動した。
ルートが持ってきた魔法陣をちらっと見せてもらったら、ちょっと複雑だったから、結構立派な花火になるんじゃないかとワクワクした。
みんなで最高の夏の思い出ができて嬉しいな。
本当に楽しかったな。
毎年、同じメンバーで集まれたらいいのに…と思ってしまった。
たとえ、使節団のみんなが帰国してしまったとしても…
花火って、綺麗だけどなんとなくしんみりしてしまう…
ハオの隣に座りたいなと思っていたけど、ハオは少し離れたところに座っている。
離れたところから、ハオを眺めるのもいいものだなと思った。
このお泊まり会は朝から晩まで一緒にいたから、よりハオのことが知れた気がする。
夜が意外と弱くて早めに寝ちゃうところ、
朝は強くて早起きなところ、
朝から剣術の練習をしているところ、
弟を大切にしているところ、
意外と包丁を握れちゃうところ、
男子同士ではっちゃけてるところ…
一瞬一瞬がかっこよくて、愛しくて、かけがえのない思い出になった。
わたしはきっと、この思い出を忘れない。
アイドルになって自分の夢を追いかける時、辛いことがあったり苦しいことがあったとしても、この思い出がわたしの力になってくれるだろう…そう確信している。
一発目の花火が上がった。
特大花火だった。
大きく上がった花火は枝垂れのように地面まで届くほどの迫力だった。
次々と上がる花火たちは、特殊花火と言っていただけあって、一発の花火なのに色々な仕掛けが施されていた。
一度にいろんな形の花火が浮かび上がるもの、音楽が流れるもの、光の演出があるものなどだ。
文字が浮かび上がる花火もあって、しかもその言葉は「最高の夏の思い出をありがとう」だった。
なんだか、泣きそうになった。
みんなとこの時間を共有できることが幸せすぎた。
「じゃあ、次いくよー!」
とルートが嬉しそうに次の魔法陣の紙に魔力を流す。
紙に描かれた複雑な魔法陣が、淡く青白く光りはじめる。
「ピン」と空気が張りつめたような、嫌な圧を感じた。
ハオの瞳がわずかに細まり、雷が落ちたのはその一瞬後だった。
「ルート、手を離せ!」
ハオの叫びと同時に、轟音と閃光が夜空を引き裂いた。
ハオが強烈な雷魔法を放ったのだ。
雷が直撃し、紙が燃え、魔法陣が掻き消える。
炎と煙の中、ハオはルートに覆いかぶさっていた。
「な、なに…!?」「爆発音!?」「火花が…?」
皆が駆け寄ってくる。わたしも走ってハオとルートのもとへ向かう。
「えっ?なんで?」とルートは呆然としたまま、焦げた紙を見つめていた。
ハオは立ち上がり、淡々と呟いた。
「ちょっと、火薬の量が多すぎたんだ。特殊な花火って言ってたから」
笑顔でルートの頭を軽く撫でながら、そう説明した。
確かに、花火が失敗したら大変だから、危ないのはわかるけれど…
それにしても、さっきのハオの顔…
いつもと違った…なんというか…
優しいようで、誰も近寄れないような気配だった。
わたしの中に、なぜかわからないけれど、かすかな違和感が残ったのだった。




